7.やっとホントの修行編
明るい日差しが差し込む今日の良き日。
小鳥のさえずりとともに起きるなんてこと贅沢なことだ。
まぁ、日本でもそこそこ田舎に住んでたから隣のおじさんの飼ってる鶏の発狂で目が覚めてたんだけど。
降りるとポールさんはとっくに起きていた。
「おはようユウト。俺は今日少し仕事で遠出するからシチューの残りを温めて食べてくれ」
わかりましたと言って出してくれたパンを焼く。
改めて考えると、せっかく同棲するならこんなおっさんじゃなくて美少女が良かったな。
とはいえ、美少女に俺を受け入れてくれる子はいないだろうし、受け入れてくれるおっさんもポールさんくらいだろう。
ポールさんへの感謝の気持ちを持ってパンをかじる。
それから数分後、ポールさんは斧を持って出て行った。
あんな手斧で木を切ってるのか
きっと俺を助けるときにゴブリンを倒した斧ってのもあれだろう。
べっとりと血がついているのが見えた。
「さぁ、今日は魔術の特訓をしようか!」
謎に元気なトゥプ
早く魔術が使えるようにならないと俺は…いや俺達は何もできないのも確かだ。
「おう、じゃあ行くか」
食器を洗って食卓を拭き、薪を割って出発!
しばらく歩いて俺達は一昨日の平野にたどり着いた。
俺は気を失ったから記憶にないが、トゥプはしっかり覚えていたらしい。
「さて、何からやろうかな?」
何をやるか。
この前は土魔術で家を作ろうとして失敗した。
土魔術の基本になりそうな魔法ってなんだろうか。
「岩弾みたいなかんじの魔法はないのか?」
何だそれはと言わんばかりの顔をしている。
「ほら、岩を作って飛ばして相手にぶつけるみたいなかんじの魔法だよ。これなら基礎的な気がするけど」
トゥプは呆れた顔をしている。
何がおかしいんだ?いいアイデアだと思うけど
「それをするためにどれだけの工程が必要か考えてごらん?土を生み出す、岩に変形、それを狙って飛ばす。大雑把に言っても三工程は必要だよ。悠斗ができているのはまだ土をわずかに動かすことだけ。急にそんなのができるわけ無いだろ?」
確かにそう言われてみればそうだ。
地道に一つ一つ進めるしかないのかもしれない。
「決めた!とりあえず今日はひたすら土を生み出す工程の練習をしてもらおう!」
まぁ、土を出せないと何もできないしな。
「で、どうすればうまくできるようになるんだ?」
「やっぱりイメージが一番だよ!しっかりとイメージしたら簡単さ」
前しっかり家をイメージしてできたのが土をへこませる程度なんだけど。
難しいことをやろうとしすぎたのが良くなかったんだと思い直し、土を出すイメージに集中する。
が、何も起こらない。
「土袋をぶちまけるイメージをするんだよ!」
なんだそれは?
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「というわけでこうすれば魔術は使えるわ。」
なんで私がこの子…セファーに魔術を教わっているのか。
二日前、突然私の前に現れたセファーは兄を助けるためには私が魔術を習得するしかないと言った。
それ以降、放課後に魔法を教えてもらっているわけだけど、これがまた難しい。
魔術はイメージだと言われたが、魔術のイメージなんてできないからだ。
お陰で私は兄の異世界物コレクションを全巻読む羽目になってしまった。
「あなたがお兄ちゃんを助けるためには空間魔術を極める必要がある。でも、魔術のイメージもできないのにそんな概念的な物をイメージできるとは思ってないわ。まずは身近な火を出す魔術がいいわね。」
そう言われて今は火を出す練習中だ。
火か…そういえば、理科の実験のアルコールランプでやけどしたことがあったな。あれは熱かった。
そう思った瞬間
ボォウと手の平から炎が上がる。
びっくりした私は炎を放してしまった。
ボテッと落ちる炎
「何してるの!?放したら落ちるでしょ!」
手から出てきた炎が落ちるとか思わないでしょ普通。
火は近くにあった兄の本に燃え移っていく。
やばい!水持ってこないと燃えちゃう!
待てよ…
もしかして、水も出せる?
手を炎に向けて水が出るように念じる。
イメージは夕方にやる水やり
手に平に少し水分を感じたその瞬間、バシャァと大量の水が出てきた。
炎は消えたが本のページはくっつき、読めたような状態じゃない。
「すごい音がしたけど大丈夫?」
下から母の心配する声が聞こえる。
「大丈夫!ちょっと荷物倒ちゃっただけ!」
床は少し焦げてそれからビチョビチョ。
これお母さんに見つかったら怒るだろうな
そう思ってカーペットで隠すことにした。
「こんなに早く魔術を使えるようになるなんて、紗奈すごいわね。」
そうか、私はすごいのか。
でも、兄の持っていた本の人たちはスキルをもらってから説明されずとも使いこなしていた。
これが才能の違いってやつなんだろうか。
とりあえず魔法の証拠隠滅だけして寝ることにした。
翌朝、起こしに来てグチョグチョのカーペットと丸焦げの床に気がついた母にこっぴどく怒られたのは言うまでもない。