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6.木こりのポールさん

 「知らない天井だ」


 気がつくと俺は布団の中で寝ていた。

 首を触ってみても傷がある様子はない。


 「おう、坊主。目が覚めたか!」


 大声の方を向く

 筋肉質で髭面の大男

 日本では見たことがない2mはあろうかという大男だ。


 布団から出て窓の外を見る

 窓の外は明るい

 どうやら、俺はここで休ませてもらっていたようだ。


 「パン、食えるか?」


 そう言うと、男はトーストを皿に乗せて食卓に置く。


 「いただきます。」


 昨日の夜は何も食べてないのでお腹が空いている。

 出されたトーストをかじる。

 ああ、やっぱり飯は大事だ。


 「いやぁ、昨日はびっくりしたよ!」


 男が目の前の椅子に腰掛ける。

 目の前で見ると威圧感が半端じゃない。


 「いつも通り木を切って帰ろうとしたら子供がゴブリンに襲われてるじゃないか。急いで手に持ってた斧を投げて間一髪倒せたが、俺がいなかったらどうなっていたことか…」


 どうやら、あの時この人が助けてくれたらしい。

 自分の血だと思ったのはゴブリンの血だったわけか。


 「ありがとうございました。」


 俺が礼をいうといやいやと手を振る


 「助けたものの放っておくわけにもいかないだろ?だから俺の家に運ばせてもらったんだ。」


 話を聞いていると視界の隅に現れるトゥプ


 「助かってよかったね。どうせならしばらくここに居させてもらうように交渉するのはどうだい?」


 確かに、ここに居させてもらえたら修行の時に助かる


 「お前は魔族か?どっから入ってきやがった。」


 トゥプを見た男は片手を斧に伸ばしている。

 普通にこの世界にもいるものかと思ったがそうでもないらしい。


 「いや、違うんです。コイツは俺の仲間でトゥプといいます。」


 疑わしい表情を続ける男


 「魔族じゃねぇんだな?」


 その言葉に反応するトゥプ


 「ボクは魔族なんかじゃないよ。悠斗の守護者さ。」


 男は安心した表情を見せた

 その隙を逃さず、俺はお願いする。


 「どうか、ここにしばらく住ませていただけませんか?」

 

 男はきょとんとした顔をする

 知らない奴が急に住ませてくれなんて言ったらそりゃあ驚くだろう。


 「おう、別にいいぜ!俺の名前はポールだ。よろしくな!」


 やっぱり厳しいよな…て、え?

 聞き間違いじゃないよな?

 以外にもあっさりと承諾してもらうことができた。


 「俺は悠斗です。ポールさん、よろしくお願いします。」


 そう言って俺は男…ポールさんと握手をした。




 ポールさんが一人で暮らすには広すぎる家

 2階の一室を俺の部屋としてもらった


 「悠斗、薪割りは終わったか?」


 俺にはこの家で薪割りの仕事をすることになった。

 それ以外は自由に過ごしていいということなので残りの時間は修行に使わせてもらう予定だ。


 「はい!終わりました。」


 薪割りが修行にならないかと期待していたが、割るだけなら意外と簡単だ。

 割った薪を持って移動する


 「よし、じゃあ飯の準備をするぞ」


 そう言っているポールさんは片手で丸太を抱えて歩いてくる。

 俺の倍くらい重そうな丸太を持っているのに余裕そうに笑っている。

 ドンと丸太を置いた振動が伝わるくらいだ


 「薪を持ってきてくれ」


 言われた通り薪を持ってポールさんについて家に入る


 「そこの下に置いといてくれ」


 指さしたのは石組みの上に鉄板が置いてあるだけのような場所

 林間学校で使った調理台みたいだ

 台の下に薪を置く


 「できたら呼ぶから部屋でゆっくりしときな!チビの分も作ってやるから一緒に食おうぜ!」


 ポールさんにお礼を言って階段を上がる。

 部屋に入るとトゥプが待っていた。


 「で、明日から修行はどうするんだ?」


 そうだなぁと言って顎に手を当てるトゥプ


 「とりあえず、昨日も発動できたわけだし魔術の練習から入るのはどうだい?というか、ボクは剣術なんて教えられないからね」


 昨日は自信満々に言ってた気がするんだが気のせいだろうか?

 たとえ言うことがコロコロ変わろうと、俺にはトゥプを信じる以外の道がない。


 「分かったよ。じゃあ、明日は薪割りしてから昨日歩いた平地で特訓しよう」


 


 それから1時間ほど俺はポールさんが貸してくれた本を読んでいた。

 子供向けの簡単な歴史書だ。

 幸い全く知らない言語じゃなくて日本語だったから普通に読むことができた。


 「飯ができたぞー」


 ポールさんが下から呼んでいる。


 「すぐに行きます!ほら、トゥプの分もあるらしいから一緒に行こうぜ。」


 そう言って階下に降りる。

 食卓には鍋に入ったシチューらしきものが置かれている。


 「うわー、美味そうですね」


 ポールさんはニコッと笑う。


 「そう言ってくれて嬉しいな。俺の得意料理だ。」


 そう言うと大皿にドバッとシチューを注ぐ。

 それをそのまま俺の前に置いてくれた。


 「好きなだけおかわりしてくれよ!」


 「いただきます」


 美味い!

 ゴロゴロとした野菜が存在感を持ちながらもしっかり煮込まれている。

 濃厚なスープの旨さが体中を駆け巡っている。

 ポールさんの豪快さが現れた男らしいシチューだ。


 「すごい!美味いです。」


 そんな様子をニコニコしながら眺めているポールさん


 隣ではトゥプも小皿についでもらったシチューを食べている。


 「おまえらが食ってるのを見ると、子供のことを思い出すな」


 食事中に深刻そうな話題をぶち込むのはやめて欲しい

 触れづらいなと思ってスルーしていたが、平然と質問するトゥプ


 「その子供はどうしたんだい?」


 ハッとした顔をしている

 どうやらつい口から出ただけだったようだ。


 「いやぁ、別に死んだりはしてないぞ。魔王軍の侵攻でここが危なくなったからアグロッチャに避難しているだけだ。ユウトと同じくらいの歳なんだよ。」


 アグロッチャはさっき読んでいた本に載っていた。

 大陸の南側にある国で農業が盛んな国だ。

 農業の国と聞くと平和そうだが、実際は戦えない人たちが戦地で食べるための食料を生産している国だそうだ。

 戦いにおいて生命線となるため、北の魔王領から真逆の南側で発展したそうだ。


 「居なくなったのが生まれて間もない頃でそれから20年近く経っているからな。大きくなっていたらユウトくらいかなと思うとユウトが実の息子みたいに見えちまって、住んでいいかと聞かれたときにいいぞと言ってしまったんだ。」


 俺はその息子さんのお陰で救われたわけだ。

 てか、魔王軍の侵攻で危ないってここはどこだ?


 「すみません、あまり地理が分かっていないんですけどここはどこなんですか?」


 驚いた表情をするポールさん

 そんなにおかしい質問なのだろうか?


 「ここは騎士王国ロイヤルティーの北、西側山脈の東にある魔王領と人間領の中間地帯…通称、人魔戦域だ。危険を顧みず魔物や魔族と戦う冒険者たち以外住むものはほとんど居ない。人間領と人魔戦域の間に壁があるから迷って来てしまうような場所ではないはずだが?」


 不審そうに見つめてくる。

 しかし、仮に神様に送られたからよくわからない場所に来て、何もできずに彷徨っていたなんて言っても余計に怪しくなるだけだ。


 「実は、冒険者になろうと国を出たものの、道に迷ってしまってここにたどり着いたんです。」


 これが今考えられた最適解だった。

 ポールさんは何やら考えているようだ。

 失敗かと思ったが、解決して一人で頷いているから大丈夫そうだ。


 「それは大変だったな。まぁ、しばらく家でゆっくりして行きな。最低限の剣術くらいならできるから教えてやってもいいぜ!」


 それは願ってもない提案だ。

 トゥプに剣術は教えられないと言われていたから非常に助かる。


 「ぜひお願いします。」


 こうして、ポールさんの仕事がない土曜の昼に剣術を教えてもらうことが決まった。


 この日はシチューを2杯おかわりして寝た。

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