10.夏休みの計画
1ヶ月前、悪霊に操られていた美華を助けた。
結果、美華とは元通り話ができるようになり、学校の友達ともいつも通りの生活ができるようになった。
あの時から大きく変わったことがいくつかある。
一つは空間魔法が上達したこと。
兄のいる世界を覗けるだけでなく音まで聞くことができるようになった。
とはいえ、ここ1ヶ月間の兄は毎日座禅を組んで土曜だけ斧を持ったおじさんに追いかけられるというなかなか理解しづらい暮らしを繰り返すだけで別に変化がない。
もう一つは…
「紗奈は夏休み予定ある?」
そう、夏休みがやって来る。
今日は1学期の終業式。ということで明日から夏休みなのだ。
最高だ!とも言い切ることができない。
なぜなら、私はセファーに魔術の練習をすることを強要されているからだ。
「ええっと、家に帰ってから確認するね。」
兄のために魔術を習得するとセファーに言ってしまった以上、その約束を私が勝手に破るわけにはいかない。
「さなっちが行けたらみんなで登山にいこう!」
みんなというのは私と美華、そして銀髪ボブの真冬とピンク髪ポニーテールの陽菜のこと。
いわゆるイツメンというやつだ。
行きたいなぁ、でもセファーは駄目って言うかもな。
そんな事を考えながら家に帰った。
「駄目よ」
ほら。案の定駄目だった。
チャットで皆に謝っておこう。
「ああ、皆と行きたかったなぁ」
ベットにうつ伏せになって嘆く。
「ちなみにどこに行く予定だったの?」
「登山だって。県北の山に登ってキャンプするって。」
顎に手を当てて考える
「なら行っていいわよ。」
え!?突然なんで良くなったの?
とりあえずチャットで行けることになったと伝える。
皆行けることになったことを喜んでくれている。
「で、突然なんで良くなったの?」
ニコッと笑うセファー
何か嫌な予感がするなぁ。
「この前守護具を回収したでしょ?それ以来近くでの反応はないけど一番近くだと県北から反応があるのよね。何の守護具かはわからないのだけど。」
やっぱり行かなくていいかも。
なにかも分からない怪しいものを探しにわざわざ行きたくないな。
「なんで守護具を探してるの?」
単純な疑問だ。
何かを探して守護具を探している感じでもないし、兄を助けるために必要というわけでもなさそうだ。
「これはお爺ちゃん…じゃ分からないわね。神様の持ち物だからよ。いつも神様が探してた物達だから後で返してあげたいの。」
なるほど、でも何で異世界のほうじゃなくてこっちにそんな変わった力を持った道具が落ちてるんだろう。
まぁいいや。気にしないでおこう。
しばらくチャットで話した結果、明後日から1泊2日のキャンプに出発することが決まった。
いや、計画から実行までが早すぎるでしょ!。
「リュックOK、スマホも充電器も財布も持った。よし、出発!」
午前11時、用意し終わった私は昼ご飯を食べて駅に向かう。
田舎のデメリットというのは遠いことじゃない。
電車の本数が少ないことだ。
特に、休日の昼間は全然電車の本数がない。
だから、13時集合なのにこんなに早くから出発しなければならない。
電車に揺られて1時間ほど、やっと集合場所に到着。
でも、集合時間まで1時間以上ある。
暇を潰すためにスマホゲームをやる。
「あっ何か通知来た。」
チャットを開くと美華が何か送ってきていた。
「おまたせ~どこで待ってる?」
「モニュメント前にいるよ!」
「分かったすぐ行く」
どうやら、美華は着いたらしい。
まだ集合時間までは30分近くある。
几帳面だからか、私が着いてるのを知ってたからか。
「紗奈!おはよう!」
朝早くから元気いっぱいだ。
「おはよう美華、早いね。」
「紗奈のほうが早いじゃん!今日何時に出てきたの?」
「ん?5時だよ。」
「え!早すぎでしょ。」
実際はそうでもない。
学校に登校するときも電車の本数の関係で早いから、そんなにいつもと変わらないのだ。
「ちょっと紗奈に聞きたいんだけどさ…」
「おーい!ふたりともはやいねぇ」
美華の言葉を遮って走ってくるのは陽菜だ。
というか荷物多すぎでしょ!
登山とキャンプにトランケースは要らないと思う。
かえって邪魔になるだけじゃない?
「いやぁ、さなっち、みかえる!今日はたのしみだね」
息を切らしながらそう言う陽菜
そりゃあそんな大荷物持って走ったら疲れるでしょうよ。
「真冬はまだなのかな?」
「まふゆんはいつも5分前ぴったりに来るよ」
美華の質問に答える陽菜
陽菜と真冬は家が隣同士の幼馴染だ。
だからお互いのことをよく知っている。
それからしばらくして真冬が到着した。
「陽菜、あなた何で一緒に行こうって言っておきながら先に着いてるのよ!なかなか来ないから呼びに行ったらお母さんが陽菜ならもう行ったわよって、私が待ってた時間は一体何だったの?」
「めんどうだったから直接きた。ごめんよ」
これが自由人の生態だ。
真冬は慣れているのか本気で怒っているわけではなさそうだ。
「まぁ、みんなそろってよかった!それじゃあ出発だ!」




