秋田の拒絶
「……ここに、来る……途中、車に……はねられて、ね……」
「車に!? どうして……」
「さあ……急いで、たから……げほっ」
秋田の口から真っ赤な花びらが飛び散った。
その光景に真宵は青ざめる。
「秋田さん! しっかりしてください! 秋田さん!」
秋田の意識をこの世に留めようと、必死に揺さぶった。
決してあの世には逝かせまい。
「大丈夫、何ともない……だから……」
泣かないで。
「秋田さん、秋田さん! 嫌……死んじゃ嫌です、君尋さんッ!」
真宵は気を落ち着けて、すぐに救急車を呼んだ。
秋田の体は集中治療室へと搬送された。
事故に遭ったことはないのでよくわからないが、車との衝突による大怪我は腹よりも他のところが痛むのではないだろうか。
見たところ腹以外に怪我はなかった。
だとすれば、秋田の腹の出血は自動車による交通事故ではない。
誰かに刺されたということになる。
真宵には秋田が恨みを買うような人間には見えない。
だとすれば誰に。
「……ッ! ……そんな。嘘。まさか……」
秋田が言っていた、あの忠告が本当だとすれば、真宵はとんでもないことに加担したことになる。
目の前が真っ暗になって立ち眩みがする。
込み上げてくる涙が抑えられない。
「私……! 何てことを……!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を覆い、遣る瀬無い波に襲われ、くずおれる。
「信じる人を……間違えた……!」
秋田の名前を何度も呼んだ。
自分を名前で呼んでくれた回数を上回るほどに。
数分後、泣き叫ぶ真宵の前にまた嵐が訪れた。
過ぎ去っていったのは、血の気の失せた先生の傷だらけの顔だ。
担架に乗せられていた。
「……え? どういうこと……?」
意味がわからなかった。
今の今まで先生のことを疑っていた。
だが、秋田と同じように先生は集中治療室に運ばれていく。
頭がこんがらがってきた。
真実もわからぬまま、真宵は彼らの治療が終わるまで待ち続けた。
手術から数時間後、秋田は意識を取り戻した。
先生の方は未だに目覚めない。
「君尋さんっ! 大事に至らなくて、本当に良かった……」
病室で横たわる秋田の元に駆け付けた。
だが秋田は真宵を見ずに、口を噤んでいる。
「……君尋さん? どうかしたんですか?」
「……いや、何でもないよ。真宵ちゃん……」
「……? 何ですか?」
「秋田、だろう」
心臓が脈動を止めるかと思った。
秋田に拒絶された気がした。
「……はい、秋田さん……」
「うん。おれときみはそうでなくちゃならない。そうでなくちゃ……」
「えっ?」