表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛こそ必要悪で正義 -sins-  作者: 社容尊悟
Ⅰ 生徒と先生
6/96

初恋は突然に


 黒板には真宵への罵詈雑言の数々が書かれ、自分のものだと思われる机の上には菊の花、椅子の上には針が大量にばら撒かれていた。

 目眩を起こす真宵の反応を見て、クラスメイトがにやにやと笑っていた。

 度が過ぎている。

 人のすることではない。

 ここにいるのは人の皮を被った、虫けら以下のゴミだ。

 最早何も言うことはない。

 このまま逃げてしまおう。


「お前ら、何をしとるんだ!」

 踵を返すと、目の前から怒号が飛んできた。

 思わず耳を塞ぎたくなる大音声で、声の主は怒りを露わにしている。

 スーツを着た担任と思しき先生だった。

「星屑は……星屑はなァ……すごく辛い思いをしたんだぞ……それなのに、それなのにお前らときたら……! こんなの人のすることじゃねぇ! お前ら、それでも人間かぁ!」

 近年稀に見る物凄く熱い先生だった。

 それから数十分ほど立ちながら説教を聞かされた。

「星屑! お前もいじめなんかに負けるんじゃねぇぞ! 強く生きろ!」

 力強く肩を掴まれ、否応なしに返事をさせられる。

 有無を言わせぬ性質の人だ。


「よし! いい返事だ!」

 とても大きい手に頭を鷲掴みされ、撫でられた。

 あまりのことに呆けていると、クラスメイトたちの視線が集まっていた。

 先ほどまでの空気は何処かに消え去った。

 先生は気づいていない。

 多分、これからも先生が怒った時だけ反省したふりをするのだろう。

 真宵ががっかりしていると、その中に優しい眼差しが隠れていたことに気付く。

 やはりみいこは自分のことを心配してくれていたのだ。

 良い友達を持ったと感謝した。


 それからあとは何事もなく過ごし、家路に着いた。

 誤ったことは起きなかったが、視線は痛かった。

 まるで呪詛をかけられているかのようだった。

 明日から通うことになる。

 今日みたいに嫌な思いをするかもしれない。

 また先生にかばってもらえるだろうか。

 いや、他人をあてにしてはならない。

 自分のことは自分で守るべきだ。

 他人に迷惑をかけてはならない。

 そう自分に言い聞かせた。

 秋田さんに会いたい、と思った。

「秋田さん……私、もう無理です……」

 心で思っているのとは正反対に、弱音が口をついて漏れてくる。

 自立しなければならないとわかっているのに、どうしてもあの人の優しい声で慰めて欲しい。

 自分の心の拠り所。

 これは親愛の情なのか、それとも……。




 段々と芽生えてきた恋心に、真宵は次第に気づくようになっていった。

 だがその相手は秋田ではない。

 先生だった。

 自分でも驚いた。

 今までずっと懇意にしてくれていた秋田ではなく、最近優しくしてくれた熱血な先生だ。

 どちらかというと苦手なタイプだったのだが、知らぬ間に心惹かれていた。

 自分はああいう男らしい人が好きなのだということを自覚した。

 秋田の優しさには甘えていただけなのかもしれない。

 そのことを秋田に相談した。

 それが秋田を悲しませることだとも知らずに。

「……真宵ちゃん、はっきり言わせてもらうけど……彼はやめといた方がいい。彼はきみが思うような人間ではないから」

「……どうしてそんなことが言えるんですか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ