初めて生きていて良かったと思った
真宵にずっと付き添ってくれていた心理カウンセリングの人だ。
真宵が段々と話ができるようになってきたので、今は他の人に付き添っているそうだ。
四六時中一緒というわけでもないので、少しだけだが、こうしてまた会うこともできる。
「やあ、久しぶり。真宵ちゃん、話しても大丈夫だよ。この子に親はいないけれど、ここの人たちと触れ合っているから。学校できちんとした教育を受けているのと同じさ」
「そう……ですか、なら」
真宵は女の子に過去を打ち明けた。
女の子にもわかるように言葉を探しつつ、苦しくて涙が出た。
何度も息が詰まった。
そんな自分を後押しするように、秋田は背中をさすってくれた。
女の子は黙って聞いていた。
「まよいちゃん……そんなことがあったんだね。とても、つらいこと」
女の子は泣くのを我慢しているようだった。
話している真宵の方が辛い思いをしていることがわかっているからだ、と思う。
女の子が自分に共感してくれることに真宵は感動した。
傷の舐め合いじゃない、本当の心の在り処が見つかったような気がした。
気が済むまで泣いた。
嬉しくて堪らなかった。
初めて自分が生きていて良かったと思った。
秋田が良かったねと呟いて、肩を優しく叩いてくれた。
そろそろ自立する時がやって来た。
社会に出るにはもう十分なくらい、心の傷も癒えてきたからだ。
自らの足で学校に行き、ここ以外の人と関わらなければならない。
正直、真宵はまだ怖いと思っている。
いつまたこの心が壊れてもおかしくはないし、不安定な状態に陥らないとも限らない。
色々な人に迷惑をかけて、支えてもらって、今ここに立っている。
――以前通っていた学校の校門前に。
足が竦む。
体が強張る。
視線が痛い。
不登校だった人物がいきなり現れたとなると、周囲の注目の的となるのは当然のことだ。
誰もが怪訝そうな顔で、無言で問い詰めてくる。
何故来たと。
もう来なくて良いのにと思われているに違いない。
友達とは別れたままで、この二年、一切口を聞けなかった。
今更声を掛けたところで以前のように仲良くしてくれるわけがない。
何も言わずに去って、冷たい奴だと思われているのだと、そう思っていた。
止めようのない不安を掻き消すように、友達が元気な笑顔で駆け寄ってきた。
「……真宵? 真宵だよね?」
「……え、う、うん」
顔を見るなり、いきなり抱き付いてきたので、びっくりして頷くことしかできなかった。
「良かったあ……連絡くれないから心配したんだよ……」
「ごめん……」
自分の体中に友達の体温が伝わってきて温かかった。
真宵はここ最近、人肌の温もりをいやというほど味わった。
変わらぬ友人の優しさに、思わず顔が綻んでしまう。
「学校に来られるようになった?」
「うん、今日から通うつもり」
「そっか。じゃあ教室まで案内するよ」
「……ありがと、みいこ」