こんな自分のために
生きている意味など、あるのだろうか。
そう思うと、無性に悲しくなってきた。
涙が込み上げてくる。
泣きたいのは、無視され続けている彼の方かもしれないのに。
「真宵ちゃん、泣いているの?」
ハッと我に返り、後ろを見ずに頭を振った。
「そう。おれと話するの、怖い?」
少し嬉しそうな声音になったかと思うと、急に真剣な口調で訊ねてきた。
そういう意味で泣いたわけではないと弁解しようと、一瞬振り返りそうになったが、すんでのところで引き留まった。
変な誤解を生みそうな気がしたから。
「話したくないなら、別に構わないよ」
彼の心底しょんぼりした声を聞くと、自分がとんでもなく悪いことをしたような気分になる。
そういう心があることに、真宵は少し安心した。
「……え、と」
喧騒に掻き消されるまでもなく、存在の危うい小さな声が、息と共に吐き出される。
自分から何かを言うつもりはなかった。
ずっと無視し続けるつもりだった。
だが、もし仕事だとしても、純粋に自分を気遣ってくれる人物に何かお礼をしたいと思った。
それだけのことだ。
だのに、彼は満面の笑みを浮かべてくれた。
「ありがとう。おれと話そうとしてくれて、本当に嬉しいよ」
本当にお礼を言いたいのはこちらの方なのに、言葉が出ない。
失声症というわけでもないのに、何も言えないでいる。
そんな自分が嫌で、嫌でたまらなかった。
それでも、彼はずっと笑いかけてくれた。
こんな自分のために。
数か月が過ぎた。
養成施設で男性と触れ合う機会も多くなり、あれから少しずつ、男性に対する恐怖心を克服していった。
今では、男性相手に挨拶程度は交わせるようになった。
自分から話をすることはまだできないが、このままいけば順調に男性恐怖症も治るだろう。
「まよいちゃん、まよいちゃんっていくつ?」
真宵を慕っている小さな女の子が聞いた。
「十四だよ」
「え……じゃあ、ガッコーは? ガッコーいかなくていいの? ろくさいになったら、ガッコーってところにいくんだって、みんながいってたよー」
「……私はその、昔は学校行ってたんだ」
「え? ホント? じゃあどうしていかなくなったの?」
何も知らない女の子は、好奇心の塊のような瞳で真宵を見つめてくる。
ここにいる時点でとんでもない経験をしたのかもしれないが、こんな年端もいかない女の子にそんなことを教えても良いのだろうか。
「大丈夫だよ。この子は強い子だから」
「秋田さん」