ステラの仮説②
「プレイヤーに誤解させていた?まさか…そんな……。そんなこといったい何のために?ステラの言う通りだとしてもレオナルドがそんな嘘を吐くのには何か理由が必要だろ?」
『ここからは証明のしようがない仮説でしかありませんが、セレナリーゼやミレーネに責任を感じさせないため、でしょうか。二人がいる場面での会話なんですよね?』
「あ、ああ。そうだけど……責任って?」
いったい何の?レオナルドの表情にはそんな疑問がありありと浮かんでいた。
『恐らくゲームでもミレーネを助けたのはレオです』
そして主と定めた方からいただいた大切な宝物という手巾はレオナルドから贈られたものだとステラは考えている。まあこれは自分が伝えることではないし、そんな義理もない。それに本題からもズレるので言いはしないが。
「は?なんでいきなりそうなる!?前に説明したろ?ゲームでは父上が―――」
『それどころか、ゲームになかったというセレナリーゼ誘拐の件もゲームにあったのではないかと私は考えています。そしてそれもレオが解決した、と』
動揺してまくし立てようとするレオナルドを途中で遮り、ステラはさらに自分の考えを伝えた。
「いやいや、本当に何言ってんだ?それは絶対にあり得ない。自慢じゃないけどセレナは俺の最推しだったんだ。だからストーリーは今でもしっかり憶えてる。誘拐されたなんて話はなかったぞ?」
『本当に自慢になりませんね。ですが、レオは追加パッチ分をできなかった、そうですよね?』
「ああ。それだけが前世の後悔だって言ってるだろ?」
『そう言いきれてしまうのはどうかと思いますが、まあいいでしょう。重要なのは追加パッチ分の内容です。それはレオの話だったのではないでしょうか』
「……はい?それはないだろ。主人公が変わっちゃってるじゃねえか」
何を言い出すんだとレオナルドは一瞬ポカンとしてしまった。
『どういう流れかまでは私にはわかりません。ですが、レオ自身言っていたではありませんか。レオナルドには謎のままな部分が多いと。霊力なんて間違いなく説明があっていいはずのものです。私は話を聞いていて、追加パッチではレオが辿った軌跡、それが判明するのではないかと考えました。そこまでに体験してきた物語の展開をひっくり返すような内容の。そうしたら前世のレオのようなプレイヤーに驚いてもらえるのではないですか?』
「っ、ひっくり…返す……?そんなバカな……」
言いながらレオナルドは思い出していた。追加パッチまでプレイした者が、様々な背景が明かされるため、最後のルートをした後、もう一度最初からプレイしたくなるというコメントをしていたことを。
『ゲームのレオナルドはセレナリーゼを助ける際に人間から魔物になった者を殺し、ミレーネを助ける際にあの人間達を殺していたのだと考えています。私と契約していなくてもレオが身体強化を使えたことを考えるとゲームのレオナルドもそうだったと考えた方が自然です。そしてそれならばあれらの敵を殺すことも可能だったことでしょう』
「確かに可能性だけで言えばあり得るかもだけど……」
レオナルドは否定できない。セレナリーゼのときは言わずもがな、ミレーネのときもミレーネやステラに止められていなければ間違いなくあの場にいた全員を殺していただろうから。
『ならばわかるでしょう?二人はゲームのレオナルドの心が壊れるきっかけとなっているのですよ。作り手としてはそうした理由付けでレオナルドに台詞を言わせたのではないでしょうか』
「いや、けど、そんな風に気遣えるならどうしてレオナルドは敵対するようなことしてんだよ!?」
『現状ではわかりません。ですが、それにも何らかの理由が用意されていたのではないでしょうか』
「それが追加パッチの内容だっていうのか……?」
『はい』
何が何だかわからなくなってきた。作り手側の意図なんて考えたこともなかったのだ。混乱する頭でレオナルドは必死に考える。
セレナリーゼ誘拐事件はレオナルド自身おかしさを感じていた。でも次期当主を譲ったからゲームにはないことが起きたのだと納得していた。ミレーネの件もレオナルドの動きがゲームと違うからフォルステッドに助けてもらえなかったのだと思っていた。けれどステラはそれらがゲーム通りに進んだものだという可能性を指摘した。
自分の抱いた違和感とステラの説明でレオナルド自身にも段々そういうこともあり得るのかという思いが出てきていた。
「……ステラはすげーな。俺はそんな風に考えたことすらなかった。追加パッチは主人公達の深掘りとかだとばっかり」
『レオがこの考えに及ばなかったのは、ゲーム内容を知っているという先入観があったからでしょう。ですが、レオの話を聞いただけの私にはそう考えた方が辻褄が合うように感じました』
「そうか……」
レオナルドは悩ましそうな表情になる。
『……ただ、ここまで色々と言いましたが、すべては仮定の話で証明する術はありません。レオが闇落ちする条件が人を殺すことだという確証がある訳でもありません。レオの言う通り、人を殺すだけでは心が壊れるまではいかないかもしれません。もっと言えば、闇落ちそのものが作り手の引っかけで、レオナルドだけが何かを知り、皆の前から姿を消して、一人で何かと戦っていたという可能性もあります。その過程でセレナリーゼ達と敵対しなければならなくなった事情があったのかもしれません。正直情報が足りていません。けれど私はその可能性が少しでもあるのならレオに人を殺すということをさせたくなかったのです』
追加パッチの内容がわからないのだからステラの言っていることはどこまでも推測の域を出ないが、レオナルドとしても切って捨てられる内容ではなかった。
「ステラの言いたいことはわかったよ。今後は考慮するべきだとも思う。……けどさ、俺の覚悟も変わらないよ。ステラには悪いけどそれしか手段がなければ俺は敵を殺す」
『わかっています。レオの場合、セレナリーゼやミレーネが危機に陥ったりすればなりふり構わず救おうとするでしょうから。激情に任せて安易に行わないというだけで十分です。そもそも敵が強ければ無力化なんてする余裕はないですから』
「だな。たださ、一つだけ問題っていうか……、もし…もし仮にステラの言う通りだったとしたら、俺の……」
『はい。その場合、レオの知識には欠落があるということになります。間違っているとは言えませんが、正しくもないと言ったところでしょうか』
レオナルドが言い淀んだ続きをステラが言う。
「っ、やっぱ…そう…、なっちゃうよな……」
『それに、追加パッチにもボスという存在がいるのなら、今のレオが知らない敵、知らない陰謀がこの世界にはあるのかもしれません』
「はぁ……死亡フラグ回避が一段と大変になるな……。ってか、そもそも俺がプレイしたゲーム内容と違う展開が今後も普通に起こるかもしれないんだもんな」
『そうですね。私達はゲーム通りにならないようにと行動してきていますから違ってきて当然とも言えます。ゲーム知識は確かに有用ですが、過度に期待せず、今後はその場その場で最善を模索する方がいいと私は考えます』
「確かにな。それしかないよな……。うん、今ステラの話を聞けてよかったよ」
『それは何よりです』
「けど、ステラは今まで色々俺のこと考えてくれてたんだな。心配ばっかかけてたみたいでごめん。ありがとう、ステラ。マジで嬉しいよ」
『……べ、別にレオのことをずっと考えてる訳ではありません。そんな訳ないでしょう。ええ、そんなことは断じてありません。ただ、レオは私の契約者ですから。レオに死なれたら私が困るというだけです』
妙に早口になるステラ。
「そっか。それでも嬉しいんだ。本当にありがとう、ステラ」
『もうわかりました。なので感謝をやめなさい』
「わかった」
言葉は素っ気ないが、ステラの優しさを感じたレオナルドの口元に笑みが浮かぶ。
『……今のレオにはゲームとは絶対的に違う部分があります。レオの知識とそれを得た私の存在です。だからこの先何が待ち受けていても、レオと私ですべてをぶち壊してやりましょう』
ステラは決意に満ちた声でレオナルドに己の意志を伝える。
「ああ、もちろんだ。これからもよろしくな、相棒」
お読みくださりありがとうございます。ステラさんマジで優秀です(^^)ただあくまで推測ですので正しいかはわかりません。ですが今後のフラグっぽいことが色々言われていたりして、前世でプレイ済みのゲーム内容とはどんどん異なっていきそうですね。まあゲーム通りなら死んでしまいますし、変えるために行動しているのでそれが自然なのですが。
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