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また会える日を楽しみに

 王都オルスを出て快調(かいちょう)に馬を走らせていたジークハルトは、前方に見慣れた馬車を発見した。フレイが乗っているであろう教会の馬車だ。

 やはり予想通りゆっくり来ていただけかと思いジークハルトは一つ息を()いたが、すぐに違和感を覚える。馬車の周囲に護衛の教会騎士がいないのだ。それは明らかに異常事態だった。そして御者(ぎょしゃ)席にフレイと(おぼ)しき人物、その隣に教会騎士ではない見知らぬ人物が座っていることを見てとったジークハルトの表情が(けわ)しくなり、(さや)から剣を引き抜くと馬のスピードを一気に上げた。


 フレイは近づいてくる馬に乗っている人物が見知った騎士服を着ていることからそれが誰かということに気づいた。

「レオ、馬車を止めていただけますか?」

「?わかった」

 フレイの言葉に(したが)いレオナルドは馬車を止める。

 そして、馬に乗って近づいてくる人物に視線を向けたまま(たず)ねた。

「もしかして知ってる人?」

「はい。彼の名前はジークハルト=レスセイム。(わたくし)幼馴染(おさななじみ)であり…、将来私が結婚するかもしれない方ですわ」

「え!?」

 フレイの爆弾発言にレオナルドは目を見開く。確かにそんな相手がいてもおかしくはないだろう。しかもレスセイムときた。それは確か教皇の名字だったはず。これまで公爵家で様々な勉強をしてきたレオナルドにもこの世界の常識としてそれくらいの知識はある。

 聖女と現教皇の息子なんていかにもという感じだが、ゲームには全く出てこなかった。本編に(から)まない脇役の情報だからだろうか。

 一方、わかりやすく驚きを(あら)わにするレオナルドを見て、フレイはくすっと小さく笑うと言葉を続けた。

「ジークは予定より遅くなってしまった私達を(むか)えに来てくれたのだと思います」

「そう、なんだ?ということは俺の役目もここで終わりかな?」

 話しながらもレオナルドはジークハルトが気になってチラチラとそちらに目をやる。

「それはなんだか名残惜(なごりお)しいですわね。私、レオとたくさんお話しすることができてとても楽しかったですから」

「あ、ああ。俺も楽しかったよ。…とこ―――」

「本当ですか?嬉しいですわ!」

 レオナルドとしてはところで、と続けたかったのだが、少し間が空き過ぎてしまったようだ。フレイが笑顔で話し出す方が早かった。


 ただ、ジークハルトが(せま)る中、レオナルドとしてももう言わずにはいられなかった。

「うん、もちろん本当なんだけど……そうじゃなくてさ、なんかあの人戦闘態勢に入っちゃってる気がするんだけど……?」

 ジークハルトがここに辿(たど)り着いたらいきなり自分に斬りかかってきそうな雰囲気のため、レオナルドは先ほどから気が気でなかったのだ。

「?あら?確かに……。どうしてジークは剣を抜いているのでしょう?」

『この人間、本気で言っているのですか?』

(ん~どうだろう……)

『レオ、あんな相手返り()ちにしてやりましょう。殺気を向けてくるなど不愉快(ふゆかい)です』

(いやいや、フレイを迎えに来たってんならそれはダメだろ)

「…たぶん、俺が(あや)しまれてるんじゃないかな?」

 レオナルドは自分で言ってて残念な気持ちになる答えをフレイに返した。

『はぁ……。なら、もしも襲い掛かってきたらすぐにこの場を離れられるようにはしておくのですよ?力の一端(いったん)を見られても構いません』

(わかった。そうしとく)

「まあ、そうなのですか?では彼とは私が話しますから安心してくださいな」

「うん…ありがとう?」

 失礼ながらあまり安心できる要素がないのでは?と、レオナルドは思わず困ったような顔になってしまった。

「はい!お任せください」

 レオナルドの気持ちを知ってか知らずかフレイは元気よく返事をするのだった。


 そしてとうとうジークハルトが馬車のもとに辿り着いた。

「貴様!何者だ!?なぜ聖女様と共にいる!?騎士達をどうした!?」

 ジークハルトは険しい表情で声を張り上げながらレオナルドに剣を向ける。一方、レオナルドはジークハルトの騎士服のエンブレムを見て内心驚愕(きょうがく)していた。彼が教会の最高戦力である神星(しんせい)騎士候補の集団、星杯騎士団(グラールナイツ)(せい)騎士だとわかったからだ。出自だけでなく、武のエリートでもある彼から逃げ出すのはそれはそれで悪手(あくしゅ)としか思えない。教会なんていう巨大組織に目をつけられるのは非常にまずい。するつもりは最初からなかったが、返り討ちなんて論外だ。だが、ジークハルトはすぐにでも仕掛けてきそうな態度で、いったいどうすればいいのかとレオナルドは迷って動けないでいたのだか、結果的にはそれがよかった。

「ジーク、剣を下ろしてください」

 そのとき、フレイの(りん)とした声が響いたのだ。レオナルドがフレイを見る。今までのふんわりした感じの彼女と全然違っていたから。

「聖女様?」

 ジークハルトも怪訝(けげん)そうにフレイに目をやった。

「星騎士であるあなたが私のいるこの場で戦闘行為をするおつもりですか?」

「いえ、しかし―――!」

「事情は説明致します。まずは剣を(おさ)めてください。それではお話することもできません」

「っ……、わかりました」

 キッとレオナルドを(にら)みつけたジークハルトは顔を(ゆが)ませながら(うなず)き、剣を鞘に納めた。ただし、レオナルドのことは依然(いぜん)として警戒したままだ。


 フレイは約束通り、オルスに向かう道中で襲われたことをジークハルトに話した。

「教会の、それも護衛が三人もいる馬車を(ぞく)が襲った?」

 ジークハルトは信じられないといった様子だ。

「はい。ですが、それは騎士達が傷つきながらも追い払ってくださいました。その中でもシェリルは最後まで戦い、そこで力()きてしまいました。騎士達には私が回復魔法を使って、今は馬車内で休んでいます」

「聖女様が三人に回復魔法を使ったのですか?魔力は大丈夫だったのですか?」

「ええ、()()()()()()()()()()()。ただ、そうして騎士達を(いや)すことができたのはよかったのですが、この後どうしたらよいかと途方(とほう)に暮れていたところにレオが通りかかり、御者役を買って出てくださったのです」


 レオナルドはフレイの説明を黙って聞いていた。

『この人間レオのことだけでなく自分の力も隠しているようですね』

(だな。フレイと教会の関係はあまりよくないのかな?)

『どうでしょう。興味がありません』

(まあ、ステラはそうだよな。でも、今の言い方だとシェリルって騎士はフレイの味方っぽいよな?)

『そうですね。必ず事情を()かれるだろう立場に話を持っていきましたから』

「なるほど……。では、この者がそのレオ、ということですか?」

 ジークハルトが値踏(ねぶ)みするような視線をレオナルドに向ける。まだ賊の仲間である可能性を(うたが)っているようだ。

「……レオナルド=クルームハイトと申します」

 レオナルドは貴族としての正式な礼をして名乗った。

「クルームハイト?まさかムージェスト王国のクルームハイト公爵家か?」

「はい。現クルームハイト公爵は私の父です」

「なぜそのような家の子息が共もつれず一人で他国に?」

「……ご存知かもしれませんが、私には魔力がありません。そのため、廃嫡(はいちゃく)された身であり、結構自由に動けるんです。ここに来たのは復興(ふっこう)の進むオルミナス王国の王都オルスを一度見てみたかったからというただの興味によるものです。それと魔の森を体験してみたかったというのもあります。一応自分なりに(きた)えているものでして。そうして向かっている道中に馬車を見つけました。困っている様子だったので放ってはおけず今に至ります」

絶妙(ぜつみょう)(うそ)は言っていませんね』

(今はそういうツッコミやめてくれ)

「……そうでしたか。無礼な物言いをしてしまい申し訳ございませんでした」

 ジークハルトが頭を下げる。魔力がないと言うレオナルドに対する偏見(へんけん)侮蔑(ぶべつ)の感情はなく、言葉(づか)いも丁寧(ていねい)だ。こうしたところからも根が真面目(まじめ)なことがわかる。また家柄(いえがら)もはっきりし、フレイとレオナルドの話を聞いて彼が賊の可能性は限りなく低いという判断になったようだ。もしも賊ならとっくにフレイをどうにかしているだろう、と。

「いえ、お気になさらず」

 疑いが少し晴れたのかもしれないと感じてレオナルドはそっと安堵(あんど)するのだった。


「ありがとうございます。ここからは私が聖女様をオルスまでお()れしますのでレオナルド殿はお引き取り願えますか?」

 それでも聖女であるフレイに他国の貴族があまり近づいてもらっては困る、とジークハルトは星騎士としての言葉を伝える。

「あら?ですが、ジークの乗ってきた馬はどうするのですか?」

「騎士は今寝ているだけなのでしょう?護衛がそれでは意味がありませんので起こします」

「……わかりました。レオ、最後がこのような形になってしまってごめんなさい。ここまで本当にありがとうございました。心から感謝しておりますわ。よろしければレオも一緒にオルスまでこの馬車に乗っていかれませんか?」

「聖女様!?」

 ジークハルトが(とが)めるような声を上げる。レオナルドはチラリとそんな彼を見た。

「いや、こっちこそ中途半端(ちゅうとはんぱ)になってごめん。それに誘ってくれてありがとう。けど俺がオルスに行くのはまた別の機会にするよ」

 レオナルドが聖女と(した)しげに話すことにジークハルトは何か言いたそうな顔をしていたが、そこはグッと(こら)え結局は何も言わなかった。

「そうですか……。残念ですが仕方がありませんわね。またレオとお会いできる日が来ることを私楽しみにしておりますわ」

「俺もフレイとまた会える日を楽しみにしてる。それじゃあ、俺は行くよ」

「はい」


 フレイと別れの挨拶(あいさつ)を済ませた後、レオナルドはジークハルトに軽く頭を下げ、自分からオルスとは反対方向、つまり来た道を戻るように歩いていった。

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