偶然の出会い
地上に降り立ったレオナルドはすぐに最後に倒された騎士に駆け寄った。声を聞いてわかっていたことだが、その者は女性の騎士だった。
「おい!大丈夫か!?」
上半身を支えるようにして声をかけるレオナルド。そこで、鎧の胸元に刻まれたエンブレムに気づき目を見張った。十字架とその左右に広がる翼。そのエンブレムは教会のもので、彼女達が教会騎士であることを示していた。倒れている他二人の騎士も同じデザインの鎧を身につけているため、三人もの教会騎士がついていたことになる。よりにもよって聖教の馬車を襲うなんてこの野盗達はいったい何者なのだろうか……。
「たの、む……。馬車……の中に……聖女……様が……」
レオナルドが騎士の正体に驚き、野盗の正体を疑問に思っていると、女性騎士がレオナルドの腕を掴みながら必死の形相でそれだけを伝え、そこで意識を失ってしまった。
「聖女だって!?あ、おい!?しっかりしろ!……くっ」
彼女が負っている傷は致命傷だ。残念ながら助けることはできない。他二人の騎士も動かないところを見ると意識を失っているかすでに息絶えているのだろう。
レオナルドはそっと女性騎士を寝かせると立ち上がり、そのまま馬車へと向かう。馬車にも騎士の鎧と同じエンブレムがついていた。
『レオ、聖女とはなんですか?』
ステラは聞いたことがない言葉だっためレオナルドに尋ねる。
(聖教の中でも特別な存在だ。ゲームの登場人物でもある。ただしヒロインじゃなくてサブキャラ、つまり脇役だけどな。どのルートでも教会が絡むものはないし、主人公達にとっては強力なお助けキャラって感じの立ち位置なんだよ。ただレオナルドが出会うのは学園でだ。こんな形で事前に出会ってはいない。まあ俺が勝手に介入したせいだけどさ……偶然が過ぎるだろ。またゲームと違う展開になっちまった。今後に大きく影響しなきゃいいけど……)
『なるほど。確かに精霊術をまだ使えないゲームのレオがこんなところで出会うことはないでしょうね。そういうことならば影響は最小限が望ましいと私も思います』
(オルミナス王国が安定していればこの先巻き込まれることもないんじゃないかと思ってオルスを見てみたかっただけなのにな……。なんでこんなことに……)
『レオの行動はいつも他人のためですよね。本当に甘い。ですが、今回は自分で介入すると決めたことです。諦めるしかないですね。それに国相手のことですから都市を見ただけでわかることは少ないでしょうし、レオ自身元々それほど期待していた訳ではないでしょう?』
(それはまあそうなんだけどさ)
ステラの正論にぐうの音も出ず、会話を終えたレオナルドは馬車の扉を開くと、中にいた人物を見て思わず息を呑んだ。
(この人が聖女、フレイ=ルミナスト……?)
白を基調としたローブを纏ったピンク色の長い髪に黄金のような瞳をもつ美しい顔立ちの少女。ゲームでは聖女の名に恥じない神々しい美しさと表現されていた程の美貌の持ち主だ。
だがレオナルドが驚いたのはそれではなかった。なぜかはわからないが、何か近しいものを感じたのだ。
『この者は……!?』
レオナルドの中ではステラもまた驚いたような声を上げる。
「あら?あなたは?」
おっとりとした口調で小首を傾げるフレイ。
「え?あ、え~っと、俺はレオナルドって言います。レオナルド=クルームハイト。たまたま通りがかっただけなんですけど……」
突然現れた自分はフレイからすれば怪しい人物だろうと思い、どう言えばいいのかとレオナルドは言葉に詰まった。そして、今は黒髪に変装していなかったため、仕方なく本名を名乗った。
「ご丁寧にありがとうございます。レオナルド様ですね。私はフレイ=ルミナストと申します。よろしくお願い致しますわ」
「あ、はい。どうも……」
「レオナルド様、不躾で大変申し訳ございませんが、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「え?はい、何でしょうか?」
「私、騎士の方達から絶対に馬車から出ないようにと言われていたのですが外は今どうなっていますでしょうか?」
「……この馬車は襲われたみたいですが、賊達は気絶しています。ただ、騎士の方々は戦闘の傷が深いようで皆様すでに意識を失っています。助けられずすみません……」
「まあ、それは大変ですわ。レオナルド様、私が外に出てもよろしいでしょうか?」
「え、ええ、フレイ、さんのご自由にしていいかと思いますが」
レオナルドとしては自分にそんなことを訊かれてもと正直困ってしまったが、危険はないだろうと思いそう答えた。
「わかりました。それでは」
フレイが馬車を降りようとするので、レオナルドは咄嗟に手を差し出す。フレイはその手を取り、馬車を降りると、
「ありがとうございますわ、レオナルド様」
笑顔でお礼を言った。
「いえ……」
こんな状況で自分の言葉だって不審がってもおかしくないはずなのに、先ほどからどうにもフレイの雰囲気というか会話のテンポというかがぽわぽわしている印象でレオナルドは戸惑ってしまう。
そしてフレイは惨状を目の当たりにした。
「シェリル、パーカー、ロックス………」
胸がつぶれるような思いを感じながらも、三人の騎士の名前を呟きながら順に目をやると、フレイはその場で両膝をつき、
「まだ、間に合いますわ」
祈るように手を組み目を閉じた。
「いったい何を……?」
フレイの突然の行動に困惑するレオナルド。
だが次の瞬間、騎士三人が淡い光に包まれた。
「これは!?魔法、なのか?」
その光景にレオナルドは目を見開く。確信を持てなかったのはフレイが魔法名を唱えていなかったからだ。
『やはり。レオ違います。これは魔法とは言えません。強いて言うなら魔法と精霊術の複合です』
(どういうことだ?)
『この者は霊力と魔力が均衡している。こんな人間がいるとは思いませんでした。霊力と魔力は相容れないものです。どちらかが強ければ体への負担が大きく、間違いなくそれに耐えられず若くして死ぬことになる。にもかかわらず、生まれたときからこうなのか、成長するにつれこうなったのかはわかりませんが、現状この者は奇跡的な状態にあります』
(そんなことが……?)
では先ほど自分が抱いた親近感のようなものは自分と同じく霊力を持っているからだったのだろうか。
『レオは霊力を知りませんでしたからね。この者の力もその本質はゲームに出てきていなかったということですか』
(あ、ああ。その通りだ……)
そこで騎士達を包んでいた光が消えた。
同時にフレイが手を解き目を開ける。
「……フレイさん、今のは?」
無詠唱での力の行使、彼女は自分の力についていったいどこまでわかっているのか、レオナルドが受けた衝撃そのままに尋ねると、フレイはレオナルドを見て微笑んだ。
「少々焦り過ぎてしまいました。ですが、無事騎士達を救うことができましたわ」
「そう、ですか。…よかったですね」
フレイはレオナルドの言葉を騎士達に今何をしたのか、という問いと捉えて答えたようだ。レオナルドにはそれが意図的なものなのか判断できなかった。それに、自分では不可能なレベルでの超回復とでも言うべきことをやってのけたことに驚きを隠せない。
「はい!」
騎士達を助けられたと本当に嬉しそうに笑うフレイに、レオナルドは力のことを尋ねるのは野暮だと感じ、苦笑を浮かべる。
「……今見たことは誰にも言わないことを約束します」
そして、意味が伝わらなければそれでいいと思いながらレオナルドは言った。
「ありがとうございます」
そんなレオナルドの言葉にフレイは驚いた様子も見せずふんわりと笑うのだった。
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