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成長した彼ら

 神聖暦(しんせいれき)九九九年五月。

 精悍(せいかん)な顔つきに引き締まった体をした金髪の青年と熟練(じゅくれん)の騎士といった風格を(かも)し出す短い茶髪の男性が木剣を打ち合わせていた。

 レオナルドとアレンだ。(あた)りには激しい音が断続(だんぞく)的に鳴り(ひび)き、その壮絶(そうぜつ)さを示している。


 そんな大迫力な戦いを近くで見学している者が二人いた。

 ()の光に()らされて(かがや)く背中まであるプラチナブロンドの長い髪をした綺麗(きれい)というのが相応(ふさわ)しい美少女が椅子に座っており、目の前のテーブルには紅茶の入ったカップが置かれている。そしてメイド服を着た水色の髪に瞳と同じ色合いのアクアマリンを使用した髪留めをつけた美しい女性がその横で(ひか)えるようにして立っている。

 そう、セレナリーゼとミレーネだ。


 可愛(かわい)らしい顔立ちをしていたセレナリーゼは年々美しさが増していった。

 加えて、数年前から(なや)んでいた肉体的な成長も年を重ねるごとに女性らしい体つきになってきている。それでもまだミレーネの胸部と比べると(おと)っているためセレナリーゼは個人的に全然満足していなかったりするのだが。


 ちなみに、レオナルドがこれを知ったらそれは無茶だと顔を引き()らせていたかもしれない。ゲームのセレナリーゼもスタイルは抜群(ばつぐん)なのだが、どちらかというとバスト、ウエスト、ヒップのバランスがいいタイプで、完全に巨乳枠と言っていいミレーネのバストに(せま)るほどまで大きくなることは残念ながらないだろう、と。


 閑話休題(それはともかく)


 一方、もうすぐ十九歳になるミレーネもその美貌(びぼう)拍車(はくしゃ)がかかっていた。そんな彼女の(ひそ)かな悩みはセレナリーゼが(うらや)むバストがまだ成長していることだったりする。互いにないものねだりというか何とも悲しい現実だ。


「……最近私のレオニウム不足が深刻(しんこく)です……。ミレーネはどうですか?」

 すると、セレナリーゼが視線を戦いに向けたまま物憂(ものう)げな様子でポツリと(つぶや)いた。

「……私は十分摂取(せっしゅ)させていただいております」

 言葉に(きゅう)しながらもミレーネははっきりと答えた。視線はセレナリーゼと同じく戦いに向けたままだ。

「やっぱり昼間に屋敷を抜け出すのは難しいことも多いんです。その点夜に会えるミレーネは邪魔(じゃま)が入ることもなくていいですよね」

「そうおっしゃられましても……」

 セレナリーゼの言葉にちょっとした(とげ)が含まれている。本人的には栄養(レオニウム)失調でそれだけ切羽(せっぱ)詰まっているのだろう。それがわかるミレーネは眉尻を下げた。

「……私も夜の時間を使わせてもらえたりしませんか?」

 ここで初めてセレナリーゼはミレーネに目を向けた。破壊力抜群の上目遣(うわめづか)いだ。

「申し訳ございませんがそこは(ゆず)れません。セレナリーゼ様も現状の区分けはご納得の上だったかと思いますが?」

 だが、ミレーネには通用しなかった。さらりと受け流されてしまう。

「それはそうですけど……。むぅ……ミレーネばかりズルいです」

 (ほほ)(ふく)らませるセレナリーゼは非常に可愛らしいのだが、

「私にもレオニウムは必要ですので……」

 これもミレーネには通用しなかった。

 主従ではあるが、同士でもある二人は(いた)って真面目(まじめ)に、まるで死活問題かの(ごと)く、他者が聞いたら首を(かし)げること必至(ひっし)の会話を()り広げていた。


 セレナリーゼ達がそんな会話をしていると、(にぶ)い音とともにレオナルド達の動きが止まった。

「ぐっ!?」

 アレンが痛みから(わず)かに声を()らす。

「ここまで、だな」

 アレンに一撃を与えた木剣を引きレオナルドが()げた。

「ええ。私の完敗です。本当にお強くなられましたね」

「今回は、な。ようやくアレンと五分五分の戦いができるようになってきたってだけだ。けど、ま、騎士団()()()にそう言ってもらえると自信になるよ」

「それはレオナルド様のおかげなんですけどね。しかし、こんなに早く追いつかれるとは正直思っていませんでした。私ももっと精進(しょうじん)しないといけませんね」


 アレンは思わず苦笑する。言葉は本心からのものだ。今年の四月から副団長になったアレン。二十五歳という年齢で副団長にまでなれたのはレオナルドとの鍛錬(たんれん)のおかげというのが大きい。日々成長するレオナルドに負けないよう必死に剣の腕を(きた)えていたら騎士団の中でトップクラスの実力になり、それを認められたのだ。

「じゃ、少し休憩(きゅうけい)したら続きをやろうか」

「ええ」

 アレンとしては自分が強くなっている実感があまりない。レオナルドの成長スピードが尋常(じんじょう)ではないからだ。もっと頑張(がんば)らなければという思いでいっぱいだった。そして(くや)しくもあった。貴族社会のことはわかっているつもりだが、自分はこうして評価されているというのに、レオナルドは全く評価されないままここまで来ているから。勝手な言い分だが、レオナルド自身が気にした様子を一切(いっさい)見せないことが唯一(ゆいいつ)の救いだろうか。


 そこに、鍛錬が一段落したのを見てとったセレナリーゼ達が近づいてきた。

「お疲れ様です、レオ兄様、アレン」

 セレナリーゼが(ねぎら)いながらレオナルドにタオルを差し出す。

「ありがとう、セレナ」

 レオナルドは笑顔でタオルを受け取り、アレンは丁寧(ていねい)に頭を下げた。


 現在、レオナルドは十五歳、セレナリーゼは十四歳になった。

 まさに美男美女といっていい二人は並び立つと非常に絵になる。


 ただ、この数年での評価としては、セレナリーゼとレオナルドで真逆だ。彼女は貴族社会において高く評価されていた。

 それほどセレナリーゼの魔法の実力が突出(とっしゅつ)しているのだ。本来のゲーム開始時点よりも余程(よほど)。セレナリーゼ自身誰にも言っていないが、その理由は明らかで、レオナルド考案の特訓によるものだ。他属性魔法を使えるようになったこともイメージの明確化に一役買っており、セレナリーゼの使う水属性魔法は同年代の追随(ついずい)を許さないレベルにまでなっていた。

 様々なお茶会に出席してきたこともあり、おかげでセレナリーゼにはぜひ息子を婿(むこ)にと内々の縁談(えんだん)話が数多く舞い込んできているが、今のところそれらはすべてフォルステッドが断っている。公爵家次期当主への縁談でフォルステッドが気を(つか)わなければならないのは王族くらいだろうが、(とつ)がせる訳にはいかないことは周知されているため現在までそうした話はない。


「レオナルド様、アレン殿。お疲れ様です。冷たいお茶をご用意しております。よろしければどうぞ」

 ミレーネがレオナルド達にトレイを差し出す。

 レオナルドとアレンはミレーネにお礼を言ってコップを手に取った。


 セレナリーゼのお(とも)として様々なお茶会に付き()っているミレーネもまたかなりの有名人となっている。次期公爵家当主の専属ということで不埒(ふらち)な男が近づいてくることはないが、下級貴族の令息などからはまともな縁談の話が来ている。本来ならありがたい話であり断りにくいものだが、ミレーネの気持ちをわかっているセレナリーゼが次期当主専属であることをフル活用し、フォルステッド経由で断ってもらっているのが現状だ。


 ちなみに、現在ミレーネは周囲から火属性魔法の使い手だと認識されている。

 これには経緯(けいい)があり、セレナリーゼがレオナルドとの特訓の成果により様々な属性の魔法を使えるようになった後、その結果だけをフォルステッドに話したのだ。

 理由はもちろん、ミレーネの魔法属性を対外的に誤魔化(ごまか)すためだ。

 これまでの概念(がいねん)を打ち(くだ)偉業(いぎょう)に、フォルステッドからはいったいどうやったのかとかなり追及(ついきゅう)されたが、そこは徹底(てってい)的に誤魔化した。レオナルドを守るというのはセレナリーゼとミレーネの共通認識だからだ。

 話を聞いたフォルステッドは思考を(めぐ)らせ、結局セレナリーゼが水属性以外を使えることは(おおやけ)にしないこととし、他者の目がある場での使用も厳禁(げんきん)とした。そして、ミレーネについても闇属性のことは隠し、新たに使えるようになった属性の一つである火属性ということにしたのだ。


 休憩を終えたレオナルドとアレンが再び戦い始め、セレナリーゼとミレーネも元の位置に戻っていた。

 レオナルドから使用済みのタオルを受け取っていたセレナリーゼは、(しばら)くタオルを見つめたかと思うと、(おもむろ)に自身の顔に押し当て恍惚(こうこつ)の表情を浮かべだした。

 横に立つミレーネにはセレナリーゼが深呼吸しているのがはっきりとわかった。レオナルドの(にお)いを堪能(たんのう)している、と。

「セレナリーゼ様。それはさすがに変態(へんたい)的ではないでしょうか……」

「な、何がでございまするでしょうか!?」

 ミレーネの胸にぐさりと来るツッコミにセレナリーゼは(あわ)てる。

「言葉がおかしくなっていますよ?」

「うっ……ううぅ……」

 セレナリーゼは顔を真っ赤にして(うな)ることしかできない。

「気持ちはわからないでもありませんが……、レオナルド様には内緒(ないしょ)にしておきますのでやめておきましょう」

「はい……。けど、ミレーネもわかるんですね?」

 優しく(いさ)められ(うなず)くことしかできなかったセレナリーゼは、最後の反撃とばかりにそう付け加えるが、

「はい。良い匂いだと思っていますが?」

 ミレーネは表情も変えず平然と言ってのけた。レオナルドとの夜空の旅では常にくっついているミレーネは随分(ずいぶん)前から思っていたことだ。相手がセレナリーゼだからというのが大きいが、今更(いまさら)それを恥ずかしがる素振(そぶ)りはない。セレナリーゼにはそんなミレーネがとても強い女性に見えた。自分もこんなことで恥ずかしがっていてはいけないと痛感(つうかん)する。

「そう、ですか。……こんなところでも私達同じなんですね」

 つまり、二人は共に匂いフェチであり、匂いからでもレオニウムを摂取できるということだ。


 (はた)から見れば、いや実際に見ている者はいないのだが……、レオナルドのことになると二人ともかなりポンコツになっている気がするが、本人達はどこまでも真面目だ。そして彼女達はまた一つ互いの性癖(せいへき)を知るのだった。

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