良き主従
第三章始まりです。
九月に入って間もない頃。
レオナルド、セレナリーゼ、そしてミレーネの三人はフォルステッドに呼び出された。
何の用だろうと疑問に思いながらフォルステッドの執務室に入ると、そこではフォルステッドが真剣な表情でソファに座っていた。
ミレーネも一緒に座るよう指示があったため、三人は正面に並んで座ると、すぐにサバスが人数分のお茶を差し出す。
「ようやくすべての情報の裏が取れ、情勢も落ち着いてきたのでな。お前達には伝えておこうと思ったのだ」
そして、フォルステッドがそう切り出した。
「まずはグラオムとネファスについてだ。二人は先日廃嫡されそのまま教会送りになった。あの二家は教会とも懇意にしていたからな。すでに二人は王都ムジェスタを離れている。もう絡んでくることはないだろう」
言いながらフォルステッドはじっとレオナルドを見ている。フォルステッドの言葉に三人はそれぞれ反応を示したが、言葉を返したのはセレナリーゼだけだった。
「あの二人が……。あの、どうして急にそんなことになったのか、理由はわかっているのですか?」
「ああ、どうやら精神に異常をきたしたようだ。だからか、二家は隠すようにして王都から二人を出した」
「そんなことが……。ですが、お父さま。あの二家がこちらを逆恨みしてくる可能性は大丈夫なのでしょうか?」
「それもまずないだろう。というよりも、今クルエール公爵家もブルタル伯爵家もこちらに構っていられるような状況ではない。イリシェイム第一王子殿下が期せずして側近二人を同時に失うことになっただろう?これが第一王子の不信を買うことになってな。第一王子派筆頭だった彼らは今第一王子との関係修復に躍起になっている」
「なるほど……」
フォルステッドとセレナリーゼが話している中、ミレーネはレオナルドをチラリと見た。
レオナルドがグラオム達に何をしたのかミレーネは知っているからだ。彼らが精神を病むのも無理はないと思った。それをした当の本人は話を聞いているのかいないのか、何やら心ここにあらずといった様子だった。
(きっとステラ様と今も話しているのでしょうね)
レオナルドの様子から大正解にたどり着いたミレーネは、これではフォルステッドが、時々顔に出てしまうレオナルドの態度をいくら訝しんでも真実はわかる訳がないと思い、クスリと本当に小さく笑うのだった。
「それと関係しているんだが、つまり今第一王子派の勢いが弱まっているんだ。この機会にシャルロッテ様が黙っているとは思えん。先日セレナリーゼにお茶会の招待が来ていただろう?そこにアレクセイ君も参加するとなれば、恐らくはそういうことだ」
「わかりました。あまり気乗りはしませんが、役目は果たしたいと思います。クルームハイト公爵家としてもシャルロッテ王女殿下やアレクセイ様とは良好な関係を維持しておくべきなのはわかっていますから」
「そこまで気負う必要はないんだがな」
セレナリーゼがあまりに貴族らしい考えを口にするので、フォルステッドは思わず苦笑してしまう。これも日頃の自分のせいか、と。
「え?」
「いざとなれば、手を引く用意もあるということだ。…それにまあ、家を背負うのはもっと大きくなってからでいい。それまでは私に任せて以前話した通り、思うようにしなさい。そのための時間だろう?」
フォルステッドらしからぬ言葉だった。気遣う気持ちに変わりはないのだが、中々言葉にしないのがフォルステッドだった。もしかしたらフェーリスから何かアドバイスでも貰ったのかもしれない。
「っ!?はい、ありがとうございます!」
セレナリーゼは目を見開き、驚きを露わにしたが、意味を理解すると笑みに変わった。フォルステッドが自分との約束をちゃんと覚えてくれているとわかったから。
こうしてこの場は終わり、その後も日々は過ぎていき、シャルロッテとのお茶会の日となった。
その帰りの馬車内にて、セレナリーゼが怒りを爆発させる。
「相変わらずシャルロッテ様はどうして平然とレオ兄さまのことをあんなに酷く言ってくるのでしょう!?それに同調するアレクセイ様も本当にふざけています!二人ともレオ兄さまの何を知っているというんでしょうか!」
思い出しただけで腹が立って仕方がないようだ。
「何も知らないからこそ言えてしまうのでしょう」
セレナリーゼと同じ気持ちのミレーネが冷静に聴こえる声で言葉を返す。二人ともお茶会の場でキレてしまうようなことはなかったが、相当ストレスが溜まったようだ。実のところ、ミレーネに関しては想いを自覚して初めてのことだったので、セレナリーゼよりも怒りの程度は大きかったりする。
「レオ兄さまを貶されて、私が喜ぶと本気で思っているのでしょうか。自分の派閥に私を引き込むつもりがあるとはとても思えません」
「王女という身分に高い教養……、これまで間違えることなく生きてこられたのだと思います。だからこそご自分の正しさを疑わないのでしょう。レオナルド様のことも、セレナリーゼ様のお気持ちも」
「そうですね。ですが、ことレオ兄さまに関しては間違った認識を持ち過ぎです!レオ兄さまは頭が良くて、魔法についても博識で私達に教えてくれているというのに。レオ兄さまが他言無用だと言うので、いかに凄い人かを知らしめられないのが本当に悔しいです」
「レオナルド様はあまり目立ちたがらないですからね。ですが、下手に興味を示されるよりはよいのではありませんか?」
「それはその通りです!私、あのお二人がレオ兄さまと関わらなくて本当によかったと思います!次期当主になって一番よかったと思えることかもしれません。今後もレオ兄さまには絶対関わってほしくないです!」
「そうですね。私ですら聞くに堪えないことをレオナルド様のお耳に入れたくはありません」
「やはり私達で協力してああいった方達からレオ兄さまをお守りしなければなりませんね!」
ふんすと鼻息荒くセレナリーゼが両手に力を入れる。そんな仕草も可愛らしくてミレーネは微笑む。こんな可愛く素敵な女の子と想いを同じくして、ギクシャクするどころかむしろ仲が深まっているのだから何とも不思議な感じだ。こんな開けっ広げな話も自分と二人だからこそセレナリーゼはできている、というのはミレーネの思い上がりではないだろう。
「…そうですね。微力ではございますが、僭越ながら私もレオナルド様のお心をお守りしたく思います」
レオナルドは強いけれど、心は言葉一つで簡単に傷つけることもできてしまうものだから。
「ええ。私達二人で頑張りましょう!」
「はい」
ここで一段落ついたのか、話の方向が少し変わる。
「それにしても、いったい何なのでしょうねあれは!イチャイチャしたいなら私のいないところで勝手にやればいいでしょうに!」
「確かに、セレナリーゼ様を出しに使われているようで正直不愉快でした」
どうやらシャルロッテとアレクセイの甘々な雰囲気にも二人は大変ご立腹のようだ。
「別にあの二人がどうなろうと知ったことではありませんが、見せつけられるこちらの身にもなってほしいです。それに、シャルロッテ様を想っているのならアレクセイ様は私に対してあんな態度を取るべきではないと思います。何度か私を見るシャルロッテ様の目が笑っていなかったんですから」
「アレクセイ様は、あれを優しさとはき違えているのでしょう」
「最悪ですね。そんなこと、興味のない男性にされても煩わしいだけです」
「心中お察しいたします。本当にお疲れ様でした、セレナリーゼ様」
ゲームでは主人公、つまりアレクセイと恋仲になるルートを有する二人からの辛辣な評価だった。もしもこれをレオナルドが聞いていたら卒倒したかもしれない。
それからも二人の女子トーク―――というか愚痴は、屋敷に戻るまで続くのだった。
お読みくださりありがとうございます。お待たせしてしまいましたが、第三章始まりました。
面白い、続きが気になるなど思ってくださった方、画面下の☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!
【ブックマーク】や《感想》、《イチオシレビュー》も本当に嬉しいです!
モチベーションがとんでもなく上がります!
何卒よろしくお願い致しますm(__)m