(幕間)ミレーネの誕生日①
あけましておめでとうございます(^^)本年もよろしくお願いいたしますm(__)m
それから日々は過ぎていき、六月十四日を迎えた。
自室にて、お茶を淹れてくれたミレーネにお礼を言った後、セレナリーゼは続ける。
「ミレーネ、お誕生日おめでとうございます」
そう、今日はミレーネが成人する特別な日、十六歳の誕生日なのだ。
「ありがとうございます、セレナリーゼ様」
ミレーネは薄っすらと笑みを浮かべた。
朝レオナルドを起こした際にもバタバタする中、おめでとうと言ってもらえた。今は時間がないから魔法の特訓の時間を楽しみにしていて、と言われたのには首を傾げたけれど……。
こんな誕生日を迎えられたことが今は素直に嬉しい。
だが、セレナリーゼは言葉だけではなかった。
「これ、気に入ってもらえたらいいんですけど……」
そう言って可愛らしくラッピングされたプレゼントを差し出す。
「っ、ありがとうございます」
まさかセレナリーゼからプレゼントを貰えるなんて思ってもみなかったミレーネが驚きながらも受け取ると、
「ぜひ、開けてみてください。この間、お母さまと一緒に選んだんです」
セレナリーゼが促した。
このセレナリーゼの言葉で一つ納得した。ミレーネは今朝方、仕事を始める前にフェーリスからもプレゼントを貰っていたのだ。
高級感あふれるメイクボックスで、中には一目で高級だとわかるような化粧品一式が入っていた。
「これからもレオとセレナをよろしくね、ミレーネ。ただし、自分の気持ちを抑えてはダメよ?あなたはレオと同じで抱え込む癖があるみたいだから。そんな辛いことをさせたい訳ではないの。私はセレナのことはもちろん、あなたのことも応援しているから。ふふふっ、将来が本当に楽しみだわ」
楽しそうに語るフェーリスの言葉の意味を半分も理解できなかったが、大切に想ってくれていることは伝わってきた。レオナルドが抱え込むという点にはドキッとしてしまったけれど。
そうしてフェーリスとのやりとりを思い出しながらも、丁寧にラッピングを外し、小箱を開けると、中にはミレーネの瞳と同じ色の宝石、透明度の高いアクアマリンを使用した美しいデザインの髪留めが入っていた。
「いかがですか?日常使いができるように落ち着いたデザインにしたつもりなのですが」
「綺麗……です」
髪留めを見つめながらミレーネは呟いた。日常使いなんて勿体ないと思ってしまうが、贈り主が言ってくれているのだから使った方がいいのだろうか。使ってもいいのだろうか。
「気に入ってくださったならつけてみてもらえませんか?」
「あ、はい」
ミレーネが緊張した様子で髪留めをつける。
「よく似合ってます!素敵ですよ、ミレーネ」
「ありがとう、ございます」
ミレーネは何だか気恥ずかしくて俯き気味にお礼を言うのだった。
暫しミレーネの淹れてくれた紅茶を楽しんだ後、セレナリーゼが唐突に言った。
「ねえ、ミレーネ?一つ訊きたいことがあるのですけど、いいですか?」
「?はい。何でしょうか?」
「ミレーネは今日結婚もできる年齢になりましたけど、そういうことを考えたりはするのですか?つまりその…好きな人、とかいますか?」
「いえ、そういったことは私には……」
いきなり恋バナが始まってしまい、ミレーネは困惑顔で否定する。自分が結婚している姿なんて想像すらできない。それに好きな人なんて―――。
ミレーネの困惑を見てとったセレナリーゼは苦笑を浮かべた。
「ちょっと急だったでしょうか。いえ…、意地悪な訊き方だったかもしれませんね。私、レオ兄さまと一緒に帰ってきたあの日のミレーネを見てからずっと思っていたんです」
「何を…でしょうか?」
「……私はね、レオ兄さまの本当の妹ではないんです」
セレナリーゼの突然の告白にミレーネは息を呑んだ。それほどとんでもない内容だ。ただ、脈絡がないようにしか思えないこの話はいったい何なのか。
「誘拐されたときにその事実を知ったんです。レオ兄さまは以前から知っているようでした。私がこの事実を知っていることは誰にも言っていないので内緒ですよ?」
「どうしてそのようなことを私に……?」
「私が本気でレオ兄さまを好きだと伝えたかったからです。ミレーネもレオ兄さまのことが好きなのでしょう?」
「っ!?い、いえ、そのようなことは……」
反射的に否定しようとしたが、どうしてか続く言葉が出てこなかった。
「そうですか?まだ自覚がないといった感じなのでしょうか?」
「自覚も何も……」
勝手に話を進められミレーネの困惑が深くなる。
「ミレーネが自分の気持ちに気づいたときにはぜひ教えてください。ミレーネとは正々堂々としていたいんです。恋敵かもしれませんが、私、ミレーネのことも大好きですから」
「……光栄でございます」
大好きと言ってもらえたことは嬉しいが、自分の気持ちというのは本当にわからず、ミレーネは結局それだけしか言えなかった。
「ふふっ、けれどミレーネも以前とは反応が違っていることには気づいていますか?前はレオ兄さまのことを異性として意識しているかと訊いた私にミレーネは困ったように、けれど迷いなく畏れ多いって言ってました。でも今は言葉が続かなかったですよね?」
「っ!?」
自分の違いを突きつけられ、ミレーネは目を見開く。その通りだ。以前は子供相手にあり得ないと何の疑いもなく思っていた。けど今は、そう思おうとしているだけなのではないか。そう思えなくなってきているから……。
「ただ、こんなこと言ってますけど、現状私の方が後れをとっているんですよね。レオ兄さまは今のところ私のことを妹としか見てくれていませんから。それはそれで大切にされているとわかるので嬉しいのですが、それではやっぱり物足りなくて……。でも、ミレーネのことはずっと女性として見ているでしょう?それが私には羨ましいです」
「っ…………」
どうしてかミレーネはドキリとしてしまう。
「もちろん諦めてなんていませんよ?私、誘拐事件の後、お父さまにお願いしたんです。私の婚約者は王立学園卒業まで決めないでくださいって。何とか約束してもらえましたので、それまで時間の猶予はあるんです。だから私はそれまで積極的に頑張るつもりです」
「セレナリーゼ様……」
フォルステッド相手にそんな約束まで取りつけるなんてとんでもない覚悟だ。まっすぐなセレナリーゼの言葉をミレーネは眩しく感じた。
「ミレーネが違うのなら、それはそれでいいんです。でも以前私から一方的に協力を願ってしまいましたから、どうしても話しておきたかったんです。ミレーネが私のせいで気持ちに蓋をして諦めてしまうのは嫌だったので。あのときにも言ったでしょう?ミレーネも心境に変化があったら言ってくださいね、って」
「私は……」
ミレーネは、何だかフェーリスに言われたことと同じことを言われた気がした。
「って、本当ならレオ兄さまの専属になれたかもしれないのにそれを奪ってしまった今の私が言えた義理ではないんですけどね……」
「っ!?そんなことはっ」
本当に申し訳なさそうにセレナリーゼが言うので、ミレーネは焦ってしまった。
だが、セレナリーゼはゆっくりとかぶりを振る。
「事実ですから……。でも!変な言い方かもしれませんが、今の状況だからこそ、私達協力できることもあるのかなとも思うんです!」
「……そう、かもしれませんね」
セレナリーゼが余りに元気よく言うものだからミレーネも口元を綻ばせた。
何となく一区切りがつき、空気も変わったからか、
「ところで、ミレーネ?」
セレナリーゼが切り出した。
「はい?」
「ミレーネは毎日レオ兄さまと何をしているのですか?」
ニッコリ笑っているが目が笑っていない。真剣そのものだ。
「そ、それはですね」
ミレーネは答えに窮してしまう。
最終的には、レオナルドが考案してくれた魔法の訓練をしているのだと答えることになってしまった。
当然のようにセレナリーゼは自分も一緒にしたいと言い出し、ミレーネはレオナルドに聞いてみるとしか言えなかった。
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