表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/116

専属

 レオナルドとミレーネが二人で執務室に姿を見せた。

「まさか本当に連れ帰ってくるとは……」

 それを見たフォルステッドは驚きに満ちた(つぶや)きを()らす。確信はなくとも、レオナルドならもしかしたらと思ってはいた。だが、実際に結果を目の前にするとやはり驚きが(まさ)る。

「ミレーネはこうして戻ってきてくれました。今回の()め事も解決しました」

 レオナルドの隣ではミレーネが非常にきまり悪そうにしている。自分の意思で決めて、もうここに戻ってくることはないと思っていたのに、その日のうちにこうして戻ってくることになったから。

「はぁ……」

 こちらの気持ちも知らないでやり切ったという顔をしているレオナルドについため息がこぼれる。

「父上、約束は守ってもらいますよ?」


 レオナルドが念を押すように確認すると、フォルステッドが何かを言う前に、

「レオ兄さま!ミレーネ!」

 二人が戻ったことを聞きつけたセレナリーゼが執務室に飛び込んできた。

「セレナ。ただいま」

「お帰りなさいませ、レオ兄さま、ミレーネも」

 言いながらセレナリーゼは(かす)かな違和感を(おぼ)えたが、それが何かはわからず内心で小首を(かし)げた。

「約束通りミレーネを連れ帰ってきたよ」

「はい。信じていました。二人ともご無事で何よりです」

「……ご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございませんでした」

「ミレーネ、違いますよ?迷惑じゃなくて心配したんです。黙ったまま一人で色々なことを(かか)えて出て行こうとするだなんて。でもこうしてミレーネが戻ってきてくれて本当に嬉しいです」

「っ、…ご心配をおかけしてしまい大変申し訳ございませんでした。ありがとう、ございますセレナリーゼ様」

 セレナリーゼの言葉で心がじんわりと温かくなったミレーネの声は(かす)かに震えていた。


 それからレオナルド達は全員でソファに腰掛けた。ミレーネは立っていようとしたのだが、レオナルドとセレナリーゼの二人からダメだと言われて一緒に座っている。

 フォルステッドの正面に、レオナルドを真ん中にして、左にセレナリーゼ、右にミレーネといった形だ。


 レオナルドが主になって(こと)顛末(てんまつ)をフォルステッドに説明する。

 内容はミレーネと打ち合わせた通り、フォルステッドのおかげというものだ。


 その話を聞いて、セレナリーゼはニコニコしながら「さすがはレオ兄さまです!」と全幅(ぜんぷく)の信頼を()せるレオナルドのことを()めていた。


 一方、フォルステッドはレオナルドの語る内容が正直信じられなかった。クルエール、ブルタルの悪辣(あくらつ)さをよく知っているからだ。奴らがそんな簡単に引き下がるなど何か裏があるのではないかとどうしても思えてしまう。

 だが適切に(はさ)まれるミレーネの補足(ほそく)もあって、最終的には一応の納得はした。サバスに裏を取らせる必要はあるが、それは自分達の話だ。

 実際、イリシェイム第一王子が出てきてしまった今回の件がクルームハイト公爵家にまで及ぶことなく終結するのであればそれに()したことはない。それだけ今回の件は、大事(おおごと)になる可能性を()めたものだったのだ。


「それで父上、ミレーネの復職の件ですが―――」

 説明を終えたレオナルドがこちらこそ本題とばかりに真剣な表情で切り出す。だが、それに答えたのはセレナリーゼだった。

「レオ兄さま、安心してください。ミレーネの処遇(しょぐう)についてはもう決まっています」

 セレナリーゼは笑顔で断言する。

「セレナ?もしかしてもう父上の説得は終わってるのか?」

「当然です!レオ兄さまに任されましたから!」

 何とも可愛(かわい)らしいどや顔を見せたセレナリーゼはそのままレオナルドに頭を差し出すようにした。意味を察したレオナルドがセレナリーゼの頭を優しく()でると、彼女はその手の感触に(ひた)るように目を閉じる。が、続くレオナルドの言葉ですぐに元に戻すことになる。

「セレナ……。ありがとう。本当にありがとう。じゃあ今まで通りミレーネはここにいられるんだな」

「あ、えっと…今まで通りという訳ではないんです。ミレーネにはこれから私の()()()()になってもらいたいのです。後々(のちのち)はサバスのように()()として私を支えてもらえたらと思っています」

「っ!?」

 レオナルドは目を見開く。

「セレナリーゼ様!?そんな、私にそのような役目は(おそ)れ多いです」

「これはミレーネのためだけではないのです。そうですよね、お父さま?」

「…ああ。当主の側近(そっきん)には、信頼できる闇魔法の使い手が望ましい。表向き法で禁止されているとはいえ、実際には暗殺などへの対策は必須だからな。サバスが()()だ。だが、そうそう都合よくそんな人間が見つかる訳ではない。だからサバスには父と私、二代にわたって(つと)めてもらっている。しかし、サバスももういい年齢だ。さすがにセレナリーゼの代までは難しい。そこまでの事情をすべてわかった上で、セレナリーゼはミレーネを自身の側近にと望み私が許可した」

 フォルステッドは説明しながらレオナルドに目をやった。どうだ?これはお前の目論見(もくろみ)通りなのか、と。

 だが、レオナルドはその視線に気づかなかった。フォルステッドと自分がしたたったあれだけの会話から、セレナリーゼがその聡明(そうめい)さを発揮(はっき)してミレーネを専属にと望んだこと、そしてミレーネがゲーム通り、()()()()()専属になること、そのどちらに対しても、表現は難しいが、震えるほどゾクゾクした気持ちが()き上がってきていた。二人が組むのなら最強だろう。ゲームとは違い、自分が関わらなければ二人の将来も明るいのではないかとも思える。レオナルドは無意識に口元に笑みが浮かんでいた。


「実のところ、それはお父さまを説得するための理由というのが大きいんですけどね。私だって今回のことは怒っているんです。もうミレーネをただのメイドだなんて言わせません。対外的に公爵家の側近ともなれば、滅多(めった)なことはないでしょうし、もしもまた何かあったとしても、今度はクルームハイトの名のもとに全力で対応することができます」

 公爵家の側近という立場には対外的にそれだけの価値がある。それに公爵家としても様々な情報を得ることになる側近は必ず守らねばならない存在だ。身内も同然といったところだろうか。

「セレナリーゼ様……」

「だからミレーネ、引き受けてはもらえませんか?」

 セレナリーゼの言葉に全員の視線がミレーネに向く。

 するとミレーネはものすごく自然にレオナルドを見やった。

 レオナルドは自分を見つめてきたことに少しだけ驚きつつも、微笑(ほほえ)みを浮かべて力強く(うなず)いた。

 ミレーネにとっても、セレナリーゼにとってもそれがいいと本気で思うから。残念なことがあるとすれば、これからは朝ミレーネが自分を起こしに来てくれることはないのだろうなということだろうか。そんなちょっぴりの寂しさはもちろん表には出さないけれど。

 レオナルドの反応にミレーネも小さく口元を(ほころ)ばせながらこくりと頷く。


 セレナリーゼからはそれがばっちり見えていて、そこで最初の違和感が何かわかったような気がした。いや、セレナリーゼだからこそ気づけたといった方がいいかもしれない。女の(かん)というやつだろうか。

 つまりは、レオナルドに対するミレーネの精神的な距離が近くなっている、と。


 ミレーネはその場で立ち上がると、

旦那(だんな)様、セレナリーゼ様。(つつし)んでお受けさせていただきます。よろしくお願い致します」

 深く頭を下げた。

 そしてそっと(ふところ)に手を当てる。

(お父様、お母様……。私は―――)

 そこには両親の形見である短剣があり、ミレーネは心の中で新たな(ちか)いを立てるのだった。


 こうして今日このときより、ミレーネは次期当主であるセレナリーゼの専属(せんぞく)侍女(じじょ)となった。今後はサバスから将来に向けた側近としての教育も受けていくこととなる。

 今までの自分とは違う。ミレーネの忙しくも充実した新たな日々が始まるのだった。

お読みくださりありがとうございます。二章本編はこれにて終わりとなります。このあとは幕間をいくつか(予定)はさんで、第三章となります。

面白い、続きが気になるなど思ってくださった方、画面下の☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!

【ブックマーク】や《感想》、《イチオシレビュー》も本当に嬉しいです!

モチベーションがとんでもなく上がります!

何卒よろしくお願い致しますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ