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メリークリスマス!(^^)

 レオナルドとミレーネは落ち着いて話せる場所を求めて、現在カフェにいた。他の客とは距離があるため、話し声は聞こえないだろう。

 すぐに帰って送り出してくれたセレナリーゼを安心させてあげたいところだが、ミレーネに自分の力のことを説明すると約束したからだ。加えてミレーネは精神的にかなり消耗(しょうもう)し、疲弊(ひへい)しているため一休みも()ねている。


 だが、注文したケーキと紅茶が届いてもレオナルドが食べたり飲んだりして中々話し出さないため、ミレーネは甘いケーキを少し食べて(いや)された後、自分から話題を振ってみた。レオナルドの(となり)に置かれた(かばん)に視線を向けて。

「あの、レオナルド様。その鞄には何が入っているのでしょうか?」

 酒場の二階でレオナルドが鞄を手に取ったときに、荷物なら自分が持つとミレーネは言ったのだが、重いからいいよと断られてしまったのだ。

 ちなみに、黒刀はミレーネが服を着ている間に消してもらっており、それについてもミレーネは首を(かし)げることになってしまった。

「ああ、金貨が入ってるんだよ。三百枚以上ね。元々これで今回のことを和解にしようと思ってたから」

「っ!?どうやってそのようなお金を!?まさか旦那(だんな)様が?」

 ミレーネは真っ先に思い当たる可能性を口にした。

「ん?いや、これは俺個人の金だよ。必要になると思って()めてたんだ」

「そんな大金をどうやって……?」

 レオナルドが貯めたというのか。実戦訓練で魔核などを換金していることは聞いていたが、その程度ではどう考えても不可能で、またレオナルドの(なぞ)が増えてしまった。

 一方、どう切り出したらいいか迷っていたレオナルドにとってこの会話はいいクッションになってありがたかったようだ。小さく笑った後、表情をあらためて話し始める。色々と見られたし、ステラの声まで聞こえたミレーネに隠すつもりはなかった。

「……どうやって稼いだかにも関係してるんだけどさ、俺には魔力はなかったけど、あるとき霊力ってのがあるとわかったんだ」

 それからレオナルドは、霊力、そして精霊術についてミレーネに語った。また、精霊術で空を飛べるようになってからは、一人で屋敷を抜け出し魔物を倒してお金を稼いでいたことも素直に話した。先ほど使っていた黒刀についても。


 ミレーネは、レオナルドを信じているからこそ、この世界の常識外である話の連続に驚きを隠せなかったが、何とか必死に理解しようとした。

 そしてレオナルドが一区切りしたところで(たず)ねる。

「……レオナルド様はどこでそのような知識を得られたのですか?」

「ああ。それは―――」

 ミレーネの問いに、レオナルドは精霊―――、ステラについて語った。

 その途中、

『レオ、前世については話さないのですか?』

(それはさ、ステラと俺だけの秘密でいいかなって)

 前世のことだけは今話していること以上に説明が難しいのだ。

『っ…そうですか……。まあレオがそれでいいなら私は(かま)いませんが』

 レオナルドとステラが頭の中でそんなやり取りをしながらもすべてを話し終えた。

 一方、話を聞いていたミレーネは超常(ちょうじょう)の存在である精霊の説明に呼吸をするのを忘れるほど驚いた。


「つまり、ミレーネが聞いた声ってのは俺の中にいるステラの声だったんだ。俺がミレーネに回復系の精霊術を使ったとき、霊力がミレーネの体に流れたことで一時的に聞こえるようになったらしい」

「なるほど……」

「あとさ、実は罰の内容を考えたのも実行したのも俺じゃなくてステラなんだ。俺はただステラが力を使えるようにあいつらに霊力を流してただけでさ……」

 レオナルドはバツが悪そうに後頭部に片手を当てながら白状(はくじょう)した。

「そう、だったのですか……。ですが、レオナルド様が私を助けてくださったのは(まぎ)れもない事実です。本当にありがとうございました」

 ミレーネは心からそう言って頭を下げた。

「いや、俺がしたくてしたことだから気にしないでくれ」

「ありがとうございます。…あの、レオナルド様。ステラ様にも直接お礼をお伝えすることは可能でしょうか?」

(だって、ステラ。ミレーネはこう言ってるけどもう一度霊力を流したら直接話せるのかな?)

『……(おそ)らく無理でしょう。あのときは状況が特殊(とくしゅ)だっただけです』

 ステラは詳細(しょうさい)な説明を()けるように言った。ミレーネに声が聞こえたのは、彼女に霊力を流したことだけが理由ではないと自覚しているからだ。あのとき、何とかしてレオナルドを止めたくて必死だった自分の精神面が大きく影響(えいきょう)していると。

(そうなの?)

『はい。それに礼の気持ちはわかりましたからこれ以上は不要です』

(わかったよ)

「今ステラに聞いてみたんだけど、ステラと話すっていうのは難しいみたいだ。ただ今もミレーネの声は聞こえてるし、気持ちはわかったから礼なんて不要だってさ」

「そうですか……。わかりました。…ステラ様、この度は本当にありがとうございました」

 自分の声が届いているとわかったミレーネはあらためてステラにお礼を言い、頭を下げるのだった。


「さて、と、粗方(あらかた)説明は終わったかな。ミレーネから何か()きたいことはある?」

「そう、ですね……。あの、一つ(うかが)いたいのですが、(うわさ)になっているブラックワイバーンを倒したという少年はもしかしてレオナルド様なのでしょうか?確かステラ様がブラックワイバーンについても話しておられたと思いまして……」

「ああ、うん。実はそうなんだ。一人で魔物と戦ってるって話はしただろ?そのときはいつもステラにお願いして髪色を黒に変えてもらってるんだ。合わせて偽名(ぎめい)も使ってる。俺だとわかったら色々大変だからさ」

「やはり……。お答えくださりありがとうございます」

 ミレーネは(なか)ば確信しながら(たず)ねたが、実際こうして肯定(こうてい)されたことに目を見開く。フォルステッドがブラックワイバーンについて話していた場にはミレーネもいた。そんな魔物を単身で倒してしまうなどとんでもないことだ。レオナルドはいったいどれほど強いのか。畏怖(いふ)の念を(いだ)くとともに、そんな人が守ってくれたのだとレオナルドのことを非常に(たの)もしく感じた。お茶会の際、アレクセイは口では否定しつつも(にご)しているようなニュアンスがあったが、彼などではなかったのだ。


「他に訊きたいことはある?」

「いえ、大丈夫です」

「そっか。じゃあさ、今話したことは全部、家族も知らないし、今のところ話すつもりもないんだ。霊力なんて誰も知らない力だしね。だからミレーネにも誰にも言わないでほしい」

承知(しょうち)致しました」

 セレナリーゼの顔が浮かんだが、ミレーネは誰にも話さないことを心に(ちか)った。

「ありがとう。そういうことだからさ、今回のことも本当のことなんて言えないし、俺が交渉(こうしょう)できたなんてやっぱり違和感(いわかん)があるから、父上の()を借りたからこそ交渉がうまくいったってことにしてほしいんだ。()()()()()()()()()だってことで」

「……(かしこ)まりました。レオナルド様のお望みのとおりに致します」

 本当のことを皆が知れば、レオナルドの待遇(たいぐう)だって変わるのではないかという思いがあったが、それをレオナルド自身が望んでいないので、ミレーネは素直に(うなず)いた。真実も、レオナルドの勇姿(ゆうし)も、何もかもすべて自分の心の中だけに大切に仕舞(しま)っておく。

「お願いばかりしてごめんね。代わりにさ、ミレーネは何か俺にしてほしいこととかないかな?」

「してほしいこと、ですか……?」

「うん。俺にできることなんて(たい)したことないかもだけど、何でもいいから」

「……でしたら、あの、もしよろしければなのですが……、私も空を飛んでみたい、です……。不躾(ぶしつけ)なお願いとは存じているのですが……」

 ミレーネはすごく言い(づら)そうに願いを伝えた。恥ずかしがっているのか、その(ほほ)は少し赤い。レオナルドが空を飛べると聞いたときに、鳥のように自由に空を飛ぶ姿を想像し、それはどれほど気持ちいいのだろうと子供のように思ったのだ。


「そんなのお安い御用(ごよう)だよ。じゃあ気晴(きば)らしも兼ねて、これから飛びに行こうか」

「はい!ありがとうございます!」

 普段クールな印象のミレーネの可愛(かわい)らしい笑顔にレオナルドはドキッとするのだった。


 その後、二人は人気(ひとけ)のない路地裏(ろじうら)に移動した。

 一緒に飛行するためにはレオナルドがミレーネを(かか)えなければならず、レオナルドが一番安定するという理由でミレーネをお姫様抱っこすることになったのだが、ミレーネはすごく恥ずかしくなってしまった。

 レオナルドが嫌かもしれないけど、なんて言うものだから、嫌じゃないと伝えたかったが、声が小さくなってしまい、レオナルドには届かなかった。

 そして、思わず重くないですか、と尋ねてしまったミレーネは、軽すぎるくらいだよ、と微笑(ほほえ)みながらレオナルドに返され、余計に羞恥心(しゅうちしん)が増した。


 そんな一幕がありながらも、いざ飛び始めると、ミレーネが目をキラキラさせて喜んでくれたので、レオナルドも嬉しくなり、二人は絶景を見ながら色々な話をして空の旅を存分に楽しみ、屋敷へと帰るのだった。

お読みくださりありがとうございます。もう少しで二章も終わりとなります。

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