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罰の執行

『フフ…、フフフ…、フハハハッ!人間を(いじ)くるのがこうも面白(おもしろ)いとは!』

 ステラの高笑いが頭の中に(ひび)き渡ったレオナルドは(おそ)る恐る言葉をかけた。

(あの~、ステラさん?上機嫌(きげん)なところ悪いんだけどさ、ちょっと怖いっていうか……)

『何ですかその言い草は?レオが望んだから私がしてあげているのでしょう?』

 が、返ってきたのはキレ気味の言葉。

(あ、はい。すみません……)

 そんなステラにレオナルドは反射的に(あやま)る。

『今いいところなのです。(だま)っていてもらえますか?』

(はい。本当すみませんでした)

 やっぱり大分(だいぶ)怒っていると感じたレオナルドは謝ることしかできなかった。自分のせいだという自覚があるからか、今のステラに余計なことを言ってはいけない、と以降は霊力を流すことだけに集中した。レオナルドがグラオムとネファスに(ふれ)れたときには、何をされるのかという恐怖で限界を(むか)えたのか、二人ともそこで気を失ってしまった。


 そうしてレオナルドは黙々(もくもく)と四人全員に触れ終わると、

「ふぅ…、これで終わったな」

 やりきったというように満足げに笑った。

『まあこんなところでしょう』

 ステラも満足そうだ。

「あの、レオナルド様?(ばつ)を与えるとのことでしたが、何をされていたのですか?……今ので罰が終わったということなのでしょうか?」

 レオナルドの行動を不思議に思いながらも見守っていたミレーネがレオナルドの終わったという言葉を受けて(いぶか)しそうに()いた。本当にただ(さわ)っていただけだったからだ。

「え?あ~っと……どう説明したらいいかな……」

 レオナルドはすぐにいい言葉が出てこず(にご)してしまう。

「……もしかして今のも、レオナルド様が戦闘中に白髪になっていたことや、魔法を使っていたことと関係がありますか?」

 だがミレーネが核心(かくしん)()いたため、レオナルドは苦笑(くしょう)()らす。

「っ!?……見てたんだったら、そりゃわかるよな……。うん、それは後でちゃんと教えるよ。今はとりあえず、こいつらにしたことだよな?」

「はい」


 それからレオナルドはステラが(ほどこ)した内容を伝えた。

 まずは黒装束達についてだ。

 この二人はレオナルドとの戦いで(いだ)いた感情が一生消えなくなった。感情を固定してしまったのだ。その上で、これまでの記憶と魔力を封じ、ついでに他人に危害を加えようとすると身体が動かなくなるようにした。何か問題が起きても反撃することはできず、やられるだけということだ。


 隷属(れいぞく)の首輪により命令されてのこととは言え、黒装束達によって恐怖を植え付けられてしまった人も多いはずだ。だから、今度は彼らが記憶も力も失って、それなのに理由のわからない恐怖と絶望だけは常に感じ続けるなんていう状況で生きられるものなら生きてみろ、というのが罰となっている。


 レオナルドとしては黒装束達への処置(しょち)でも十分にえげつないと思うが、こんなのは(じょ)の口だ。

 続けてグラオムとネファスの罰についても語った。

 この馬鹿(ばか)二人についても、魔力を封じたことと他人に一切(いっさい)危害を加えられなくしたのは同じだ。記憶については黒装束達のように封じた訳ではなく、()()()()()()()()

 これだけでも貴族としてはやっていけないだろうとレオナルドは思うが、こんな程度では終わらない。

 この二人は他者に(よこしま)な何かをしようと考えただけで、今日レオナルドから受けた痛みや恐怖がまるで現実のように(おそ)うらしい。

 また、眠ると必ず現実としか思えないほど鮮明(せんめい)に、自分が殺される夢と男に(おか)される夢の両方を見るのだとか。

 さらに、目を覚ますと、指先から少しずつ感覚がなくなっていくらしい。どれくらいかかるのかはステラにもわからないようだが、いきつく先は寝たきり生活だろう。人間は眠らずにいることなんてできないのに、眠れば悪夢を見る。そして目覚めると感覚を失っていくのだ。彼らは今後眠ることへの恐怖にも(おび)えながら過ごすことになる。

 加えて、もうこの二人は()()()()一生不能になった。


 黒装束達の複合魔法を受けたときに、ステラは効果などを解析(かいせき)していたようで、レオナルドから聞いていた精神汚染(おせん)やヒロインへの精神干渉(かんしょう)などの話と合わせて、今回の罰を考えついたらしい。

 罰の内容を聞いたとき、本気で(のろ)い以外の何物でもないとレオナルドは思った。


 「まあ、そんなところかな。これをもって罰を終わりにしようかと思ってるんだけど、どうかな?ミレーネはこれで納得してもらえる?」

「なるほど……」

 ミレーネは表情が引き()りそうになるのを何とか(おさ)えながら、(つぶや)くことしかできなかった。触れただけでなぜそんなことになっているのか全く理解できない。レオナルドを信じていないのではなく、訳がわからないのだ。

『ミレーネが望むならもっと追加してあげてもいいですけどね。肉体的な苦痛を希望なら回復ポーションというものを使って死なないように()り返し痛めつければいいですし』

 殺さなければ何でもよさそうな感じでステラが得意げに言うのを聞いたレオナルドは、何とも言えない表情になったが、ミレーネにはちゃんと伝えるべきだと口を開いた。

「…ミレーネが望むならもっと追加することもできるから何でも言ってほしい。後、(たな)にあるっていう回復ポーションを使えば、その数の分だけ繰り返し痛めつけることも可能だ」

「いえ…、私も十分かと思います」

 ミレーネは(あわ)れなものを見るような目で気絶しているグラオムとネファスを一瞥(いちべつ)した。

 二人は貴族としてどころではなく、人として終わっていると思ったから。


「ああ、後、今日の記憶はちゃんと改ざんして円満に解決したってことになってるから。王子にも二人からそう伝えるようにさせた。もう心配ないよ」

 ついでにたまり場を(つぶ)す意味で、二度とこの酒場には近づかないようにもしている。

「……ありがとう、ございます……」

 何でもないことのように言うレオナルドに、混乱するばかりのミレーネは何とかお礼を言うのだった。もうレオナルド達の元に戻ることはないと思ってここまで来たのに、レオナルドによって助けられ、すべてを解決してもらってしまった。まるでどんな窮地(きゅうち)にも颯爽(さっそう)と現れ救ってくれる物語の英雄のようだとミレーネは思った。


「それじゃあこんなところもう出ようか。って、ずっとそんな恰好(かっこう)でいさせてごめん!ミレーネは服を着てくれ」

「ふふっ、はい」

 再びレオナルドが顔を赤くして(あわ)てたように言うので、そのギャップに思わずミレーネはくすりと小さく笑ってしまった。

 そうして、ミレーネが服を着ているうちに、レオナルドはネファスの言っていた棚を開けた。そこには回復ポーションがずらりと並んでいて、レオナルドから(あき)れたようなため息がこぼれる。それから回復ポーションを取り出すと、黒装束達に使い、隷属の首輪も破壊した。せめてもの(なさ)け、というやつだ。グラオムとネファスに関しては、『傷を治したければこれを使え。そしてすぐにここを去れ』というメモとともに近くに置いておくに(とど)める。起きたときも痛みを感じればいい。気づかないようならそれはそれでいい。それに彼らが起きるのは最後が望ましいというのもあった。記憶を改ざんされた彼らはどの道、自分達がこの場にいる意味もわからずすぐにここを立ち去るだろう。


 このとき、ミレーネから一階に被害女性が二人いるはずだと伝えられたレオナルドは、回復ポーションをもう三つ(もら)うことにした。また、室内にあるクローゼットを開けると衣服がいくつもあったため、ミレーネに適当に見繕(みつくろ)ってもらった。そうして、ミレーネとともに一階へ下りた。

 ただ、一階を(さが)すが女性達は見当たらず、というか室内にいれば来たときに気づいたはずということで、レオナルドは店の裏手への扉を開けた。

 そこで倒れている女性二人を見つけることができ、外套(がいとう)を掛け、室内へ運ぶと、ステラによって(つら)い記憶の書き換えを行い、回復ポーションを与えた。その後、ミレーネに服を着せてもらった。目を覚ましたら家に帰るだろう。


 また、ミレーネが女性達に服を着せている間に、(いま)だ気絶している店主の男を、どうしてかステラが意気込(いきご)んで()()()()()に改変し、この男にも回復ポーションを与えておいた。今後はグラオム達とは(えん)が切れ、真っ当な酒場経営をしていくことだろう。


 二階で罰を与えていたときから思っていたことだが、レオナルドは規格外(きかくがい)過ぎるステラについ(かわ)いた笑いがこぼれた。そしてあらためて思う。精霊契約をしていて本当によかったと。こんな簡単に色々なことができるステラならその気になれば自分の精神なんてあっという間に好き勝手されていただろうから。後、今回の事件の教訓として、レオナルドはステラを怒らせてはいけないと心に(きざ)むのだった。


 こうして、やるべきことをすべて終えたレオナルドはミレーネとともに、店を出た。

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