怒りに任せた
魔力も残り少なくなってきていた黒装束達は最後の賭けに出た。アイコンタクトの後、激痛に耐えながらそれぞれ魔法を放ったのだ。
「アイソレーションフィールド!」
一つは、レオナルドとの戦いを始めるにあたって魔法の維持は困難と判断したため途切れていた魔法だ。この場に隔離した空間が形成される。
「イケロスドミネーション!」
続いて、相手に悪夢を見せ精神的に追い詰める魔法を使った。
そう、ミレーネに対して使った複合魔法だ。どんな者でも夢の中を現実としか思えない。その間、現実では身動き一つできず無防備を晒すことになる凶悪な魔法。
ミレーネのときと違いがあるとすれば、今回はレオナルドが夢を見ている間に、無防備な本体を攻撃することが目的だということだろうか。
「何だこの無駄な魔法は?」
一方、魔法を受けたレオナルドは冷めた表情のまま呟いた。レオナルドには魔力が見える。だから黒装束達が目に映る場所とは違うところ、正確にはレオナルドに迫っていることが手に取るようにわかった。あんな体なのに突撃を選択し、攻撃魔法を使ってこないところからすると、この魔法の維持で余力がないのかもしれない。
つまりだ、これはレオナルドには全く意味のない魔法だった。
「……幻覚を見せているのか?……幻覚、幻覚か。……もしかしてお前ら、ミレーネにもこれを使ったな?」
レオナルドはギロリと現実の黒装束達を睨みつける。その視線を受け、黒装束達は焦燥感を募らせた。あり得ない、あっていいはずがない。幻覚の方ではなく、自分達の位置を正確に把握されているなんてことは。
ただそれだけでは済まなかった。レオナルドに余計なことまで気づかれてしまった。確かに魔力を見ることができないミレーネは気づけないだろう。この幻覚の中、万感の思いで、復讐を果たしたと思ったら、現実に戻される。それはどれほどショックだったか。しかもこいつらのことだ。今みたいにこっそり近づき、ミレーネに隷属の首輪を嵌めたのではないか。容易にそんな想像ができる。逆にそうでもなければミレーネに首輪を嵌めることなんてできないだろう。ミレーネの体には傷らしい傷はなかったのだから。そしてミレーネが下着姿だったことからして、その後の胸糞悪い命令がミレーネの心をあそこまで傷つけ追い詰めた。
期せずして真実に辿り着いてしまった瞬間、レオナルドの怒りが一層高まった。
「…こんな方法で!お前達はミレーネに隷属の首輪を嵌めたのかァァッ!!!」
体内にある霊力を感じ取ることで、自身の本体を瞬時に把握したレオナルドは、怒りに満ちた昏い声でそう言うと、昂る気持ちそのままに、全力で霊力を放出した。
魔法によって創られた空間がレオナルドの霊力で真っ白に染まる。そして、その圧に耐えられなくなったのか、あちこちに亀裂が入っていき、最後にはパリン!と一際大きな音を立てて空間は崩壊した。
レオナルドはその圧倒的な霊力で干渉し、強引に魔法を破壊してしまったのだ。
レオナルドまであと少しだというのに、訳のわからない力で最後の望みだった複合魔法を破られた黒装束達の心はとうとう絶望に染まった。もう何をしても無駄だと、こんな化物、戦ってはいけない相手だったのだと刻み込まれてしまった。
すでに彼らに戦意はなかった。
一方、怒りのまま霊力を放出し、さすがに疲れたのかレオナルドは荒い息を吐いているが、まだ怒りは収まらない。
レオナルドは黒装束達に自ら踏み込むと近い方から順番に二人を同じ方向に蹴り飛ばした。
黒装束達は肋骨が折れてしまったのか血を吐いているが、そんなことよりも歩きながら近づいてくるレオナルドが心の底から怖くて怖くて仕方がなくて、情けなく喚きながらズルズルと必死に後退る。どうやら恐慌状態に陥ってしまっているようだ。
レオナルドは、そんな彼らの前に立ち、怒りに満ちたどこまでも冷たい目で二人を見下ろすと止めを刺すために黒刀を構えた。
『レオ!あのブラックワイバーンになってしまった者にさえ心を傾けたあなたが本当に人間を殺すつもりなのですか!?人間を殺す意味をちゃんとわかっているのですか!?』
ステラの言葉に初めてレオナルドの肩が一瞬ピクっと反応を示した。ブラックワイバーンのことを思い出してしまったのかもしれない。ステラは尚も言葉を続ける。
『懲らしめるのはもう十分なはずです!ここにいる人間共への罰なら私に考えがあります!生きながら死んだ方がマシだと思えるほどの!だからこれ以上はやめなさい!覚悟のないまま、ただ怒りに任せて殺してはいけません!必ず後悔することになります!レオ!聞いているのですか!?』
ステラはレオナルドが戦っている、いや暴走している間、殺す以外の方法をずっと考えていたのだ。
すると、ステラが話しているこの僅かな時間に、血を流し過ぎたのか、耐えきれない恐怖によるものか、黒装束達が気絶してしまった。
「…………チッ」
それを見たレオナルドは、一度舌打ちすると、振り向きざまに黒刀を投げた。加えて、髪色が元の金髪に戻る。身体強化を解いたようだ。ステラは一瞬自分の言葉が届いたのかと思ったが、すぐに理解した。本当にあの人間共は馬鹿なことばかりする。
「お前ら何逃げようとしてんだ?」
レオナルドが平坦な声で問い、昏い目を向けた先にはグラオムとネファスがいた。
黒刀は二人の前に突き刺さっている。黒装束達が倒されたことで、二人はこの場を逃げ出そうとしていたのだ。戦いながらもずっと二人のことは注意していたため、それに気づいたレオナルドは、動けなくなった者よりも逃げ出そうとする主犯への対処を優先することにした。
「に、逃げるだと!?馬鹿を言うな!誰に向かって言ってるんだ!?」
図星を突かれたネファスが反射的に言い返す。
誰に向かっても何も今まさに逃げようとしていたくせに何を言っているんだとレオナルドは侮蔑を深くする。本当にどこまでもクズだ。
「…ネファス、無能の髪を見ろ。元に戻ってる。とうとう魔道具の使用限界が来たようだぞ?」
グラオムがレオナルドの変化を見て、ネファスにだけ聞こえるように小声で伝えた。
「っ、確かに!つまり、今のあいつは……」
「ああ。魔力なしの無能ということだ。ついでにこうして唯一の武器を手放してしまった阿呆だ」
小声で話し合った二人は俄然やる気を出す。どうやら今のレオナルドなら勝てると踏んで、戦うつもりのようだ。
しかし、レオナルドは単純に、グラオムとネファス相手では身体強化も過剰になってしまうと判断しただけ。結果はわかりきっていた。
お読みくださりありがとうございます。もう少しでこの事件も終わります。結末には賛否両論あるかとは思いますが、お楽しみいただけたら幸いですm(__)m
面白い、続きが気になるなど思ってくださった方、画面下の☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!
【ブックマーク】や《感想》、《イチオシレビュー》も本当に嬉しいです!
モチベーションがとんでもなく上がります!
何卒よろしくお願い致しますm(__)m