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残酷に、無慈悲に

 黒装束(しょうぞく)達は最初から全力だった。でなければ負ける、それが彼らの共通認識だからだ。負けたときの自分達の末路(まつろ)などわかりきっている。隷属(れいぞく)されている劣悪(れつあく)な環境ではあってもまだ死にたくはない彼らには勝つしかないのだ。


 一人がレオナルドの正面に立ち、もう一人が右へと回り込む。

「バインドミスト!」

 正面の黒装束がレオナルドの動きを(ふう)じようと魔法を放つ。

「インフィニットピアス!」

 (わず)かな時間差で、回り込んだ黒装束も魔法を放った。

 魔力でできた無数の針が出現し、レオナルドに向かって一気に射出される。まるで壁のような無数の針がレオナルドを(つらぬ)かんと(おそ)った。

 拘束(こうそく)され動けないレオナルドにはまず間違(まちが)いなく(かわ)せないであろう、見事な連携(れんけい)攻撃だ。


 だが、バインドミストにより、レオナルドの周囲に黒い(もや)が発生する中、レオナルドは微動(びどう)だにしない。

鬱陶(うっとう)しい……」

 レオナルドがそう小さく(つぶや)くと、彼の髪色が突然白髪に変わった。霊力による身体強化をしたのだ。

 そしてそのついでとばかりに全身から霊力を放出し、黒い靄を吹き飛ばしてしまう。


「「っ!?」」

 レオナルドの急な変化、そして拘束できなかったという事実に黒装束達が目を見開く。

 直後、無数の針がレオナルドに(せま)る。拘束することはできなかったが、バインドミストに対応した今からではこの攻撃を()けることなどできないと思われた。そうした二段(がま)えもこの連携攻撃のメリットだ。

 しかし、レオナルドは避けるどころか、そちらに目もくれず、自身の周囲に霊力をこめた風を発生させると、それがまるでバリアのように働き、無数の針は一つもレオナルドに当たることなくすべて()れてしまい、反対側の壁に突き刺さり消えていった。


 魔法とは違う、魔道具でもない。普通ならあり得ない現象で攻撃を(ふせ)がれてしまった黒装束達はほんの僅か、一瞬だけ硬直(こうちょく)してしまった。彼らがどれだけの手練(てだ)れであっても、霊力を知らないため、レオナルドという埒外(らちがい)の存在を前にしては動揺(どうよう)()けらなかったようだ。

 それでも普通なら問題にもならない程度の僅かな硬直時間だ。だが、今のレオナルドにとってそれは致命(ちめい)的な(すき)だった。

 レオナルドはインフィニットピアスを放った黒装束に一瞬で接近すると、黒装束の右腕に向けて()()を振り抜いた。骨の折れる嫌な音がする。黒装束達だって身体強化をしているにもかかわらず(まった)く反応できなかった。

 だが、それで終わりではない。レオナルドは続けて右手のひらを突き刺して強引(ごういん)に貫いたのだ。

「ぐぁっ!?」

 黒刀を引き抜いたときに黒装束から思わず苦痛の声が()れるが、レオナルドはその声にも一切(いっさい)表情を変えることなく、()めた目で次の標的、もう一人の黒装束に目を向けた。


 レオナルドに目を向けられた黒装束は、すぐに臨戦(りんせん)態勢をとる。今のスピードで接近されては魔法では遅すぎると判断し、短剣を構えた。


 それを見ても、レオナルドは無視して高速で突っ込む。スピードは確かにすごいが、その単調な動きに黒装束がカウンター気味に短剣で刺そうとするが、レオナルドは体を(ひね)って簡単に躱してしまう。自分達では出せないようなスピードを出しておいて、どうしてそんな動きができるのか黒装束には意味がわからなかった。

 レオナルドはそんな黒装束の驚愕(きょうがく)など知ったことではなく、そのまま黒装束が伸ばした右腕に向かって黒刀を振り抜く。ここからは先ほどの再現のようだった。骨の折れる音とともに、黒装束が持っていた短剣を床に落とすと、レオナルドはそのまま右手のひらを突き刺して強引に貫くと一気に引き抜いた。

 あまりの激痛から黒装束が苦痛の声を漏らすのも同じだ。


 するとどうしたことか、レオナルドは追撃することなくそこで最初の位置に戻った。


「痛いか?痛いだろうな。だけどまだ足りない。お前達が絶望するには全然足りない。もっと苦しめ。もっと恐怖しろ。時間をかけてゆっくり殺してやる」


 レオナルドが白刀化しない理由がこれだった。白刀では殺傷(さっしょう)能力が高すぎるのだ。一方、黒刀はその状態のままでは全く斬れない。だが、刀の形はしている。つまり先端は(とが)っているのだ。

 その部分を使い、身体強化による力業(ちからわざ)で人間の体を強引に貫いた。当然、穿(うが)たれた部分は(みにく)(えぐ)れることとなり、痛みを強くする。


 隷属されているなんて関係ない。黒装束達()()徹底(てってい)的に痛みを与える、それがレオナルドの決めたことだった。


 実際、黒装束達の右手に開いた(いびつ)な穴からはダラダラと血が流れており、隠れて見えないが、脂汗(あぶらあせ)を流すその顔は苦悶(くもん)()ちている。


『レオ!?いったい何をしているのですか!あなたはそんな戦い方をする人間ではないでしょう!?やめなさい!レオ!』

(…………)

 ステラがレオナルドの甚振(いたぶ)るような戦い方に苦言(くげん)(てい)するが、聞こえているはずのレオナルドは聞く耳を持ってくれない。それがステラにはもどかしい。


 そこに、戦いを見ていたネファスとグラオムから黒装束達に(きび)しい叱責(しっせき)がとぶ。

「おい!そんな無能相手に何をやってるんだ!?お前ら手を抜いてるんじゃないだろうな!?」

「わかっているのだろうな?相手は魔道具を使っているとはいえ、無能のガキ一人。……油断(ゆだん)で負けるようなら貴様らに生きている価値などないぞ」

 ネファスは叫び、グラオムは静かに、という違いはあるが、二人とも不甲斐(ふがい)ない戦いをする黒装束達に怒っていた。


 今の戦闘、いや戦闘にもなっていないレオナルドの戦いぶりを見ても、(はな)からレオナルドのことを無能と思い込んでいる二人には、その(すご)さがわからないのだ。だから黒装束達を責め立てる。


 すると、黒装束達は隷属の首輪の効果か、はたまた死にたくないという本能からか、死に物(ぐる)いでレオナルドに攻撃を仕掛(しか)ける。

 だが、魔法を撃っても防がれる。近接戦闘を(いど)んでも躱される。数的優位を利用してどんな連携攻撃をしても意味をなさない。その度にレオナルドは左手のひら、右足の甲、左足の甲と体の先端を順番に刺し貫いて黒装束達の体に穴を開けていく。残酷に、無慈悲(むじひ)に、何の躊躇(ためら)いもなく正確に。その間もステラがレオナルドに呼びかけているのだが、それは(ことごと)く無視されていた。


 黒装束達はもう対峙(たいじ)している化物(レオナルド)への恐怖でいっぱいだった。実力が違い過ぎる。自分達は必死なのにレオナルドは(すず)しい顔だ。このままでは、自分達は(なぶ)り殺されるしかないのだと(いや)(おう)でも理解させられた。

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