表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/116

本気の殺意

 呆気(あっけ)にとられているグラオム達を置き去りにして、レオナルドはミレーネを支えながら服やミレーネのものと(おぼ)しき短剣などをすべて(ひろ)うと、彼女をそっとお姫様抱っこするように優しく(かか)えた。()のいる中では、落ち着くことができないし、やれることがないからだ。


「お、おい!貴様、いったい隷属(れいぞく)の首輪に何をしたんだ!?それにミレーネをどうする―――っ!?」

 するとそこで、ネファスが再び(わめ)くが、

「黙ってろ。…すぐに済む」

 レオナルドによる強烈な殺気を放ちながらの冷淡(れいたん)な声で強制的に黙らされる。今やレオナルドはブラックワイバーンを倒すほどの強者だ。そんな者の本気の殺気は向けられた者に息をするのも許さなかった。ただその事象(じしょう)がレオナルドによる殺気だとわかったのは残念ながら黒装束達だけだったが。


 レオナルドはすぐにネファス達から視線を(はず)すと()らさないように気をつけながらミレーネを壁際(かべぎわ)に運んだ。

 その間、ミレーネは体の力が抜けたままで、それどころか、目を開いているのに、何も見えていないかのように無表情でされるがままだった。


 それがすごく痛ましくてレオナルドは顔を(ゆが)めた。

『……レオ。精霊術を(ため)してみてはどうですか?ミレーネの元気な姿を強く思い描いて。上手(うま)くいく保証は何もありませんが、もしかしたら……』

 レオナルドの気持ちを感じ取ったのか、ステラがそんな提案をした。

(そうか……、そうだな。何でもやれることはやってみる)

 現状の手札(てふだ)ではやれることがないというのは間違っていないが、ステラが言っているのは、手札がないなら作り出せばいいということだ。精霊術は事象を改変する。必要なのは具体的なイメージだ。ミレーネの元気な姿ならレオナルドにはいくらでもイメージできる。


 壁に背を(あず)ける形でミレーネを座らせたレオナルドは、彼女の(ほほ)()れるか触れないかといった感じにそっと手を()える。

 いったいどれほどの辛い目に()ったのか。こんなに心を傷つけられてしまったミレーネを想うと心が痛くて痛くて(たま)らない。

(ミレーネの心の傷が少しでも()えますように……)

 レオナルドは強くそう想った。すると、レオナルドの手のひらから(あわ)く白い温かな光が出て、ミレーネに触れる。だが、ミレーネに特に変化はなかった。

『……すみません、レオ。やはりいきなりは難しかったようです』

(いや、ステラが(あやま)ることじゃない。俺が未熟(みじゅく)なだけだ)

 ぶっつけ本番では無理があったのか、それとも時間がもっと必要なのか、どちらにせよ敵がいつまでも黙って見ているとは思えない。レオナルドは精霊術の行使(こうし)一旦(いったん)やめた。

「ミレーネ……。来るのが遅くなってごめん。本当にごめん。……もう少しだけ待っててくれ。すぐに終わらせるから。そうしたら一緒に帰ろう」

 その表情は自分の考えが甘すぎたことを心の(そこ)から()いていた。

 金での解決なんてもう頭にはなかった。あいつらをミレーネが受けた以上の苦しみを与えて徹底(てってい)的に(ひね)(つぶ)す。レオナルドの頭にあるのはそれだけだった。

「……ぁ……」

「この無能がァ!何を好き勝手やってるんだ!?ミレーネは僕の玩具(おもちゃ)なんだぞ!?」

 そこに、ネファスが激昂(げきこう)しながら怒声(どせい)を上げる。どうやら怒りで復活できたようだ。

 このとき、ミレーネの瞳が確かにレオナルドを(とら)え、(かす)かな声を発したのだが、タイミング悪く立ち直ったネファスのせいで、レオナルドが気づくことはなかった。


「僕の、玩具……?」

 その言葉には反応を示さずにいられなかったレオナルドは立ち上がると、ネファスを何の価値もないと思っているかのような虚無(きょむ)的な目で見つめる。

「っ、ああ!そうだ!これは第一王子の命令だぞ!僕にはその女を自由にする権利があるんだ!」

 レオナルドの(うつ)ろな目と表情に再び気圧(けお)されてしまったネファスは、それを隠すかのようにさらに声を張り上げ自分の正当性を主張する。だが、ネファスは気づいていない。先ほどから自分の言葉がどれだけ火に油を(そそ)いでいるのかを。

 一方、レオナルドは黙った。レオナルドがこれほどの殺意を(いだ)いたのは初めてのことで少し持て(あま)していた。殺したい、けれど簡単に殺して楽になんてさせない、そんな葛藤(かっとう)でもう言葉を発するのも面倒(めんどう)だった。

 それを(ひる)んだのだと思ったネファスは嫌らしい笑みを浮かべて、(なお)も言葉を続けた。

「わかるか?つまりだ、ミレーネを置いて今すぐここを立ち去らなければ、僕達は王子の命令に(さか)らった(つみ)でお前を殺すこともできるんだよ!」


『……レオ、あの黒い二人が魔力の多い者達です』

(だろうな)

 黒装束達が魔力を綺麗(きれい)(おさ)えているのはレオナルドにもわかった。相当の実力者なのだろう。

『…殺しますか?』

 (うかが)うようにいつもの台詞(せりふ)を言うステラ。

(…………)

 だが、レオナルドは返事をしない。

『レオ?』

 ステラは悪い予感がしてレオナルドの名を呼ぶが、レオナルドはそのまま黒刀を黒鞘から抜いた。


「おいおい。まさかやる気なのか?そんな炭でできた棒切れのような細い剣で?あまり笑わせてくれるなよ。さっきの速さや変な圧からすると、誰かに魔力を込めてもらった魔道具をいくつか持っているんだろう?わかってるんだぞ?それで気が大きくなっているのか?けどな、この二人は僕らに隷属している本物の暗殺者だ。お前のような魔力なしの無能では万が一にも勝てない相手なんだよ。状況が少しは理解できたか?」

 ネファスの中では、どうやらレオナルドの力は魔道具によるものという解釈(かいしゃく)になったようだ。そしてそれはグラオムも同じだった。

「ネファスの言う通りだ。あまりに蛮勇(ばんゆう)が過ぎるぞ、クルームハイトの無能よ。あのように無駄に使って魔道具の魔力は後何回もつのだ?貴様のような者は家で大人しくしていろ。…それともまさか、お前はそこの女に懸想(けそう)でもしているのか?」


 何を言われても、抜いた黒刀をだらりと手に持ったまま(うつむ)き気味に黙っているレオナルドの態度をグラオムとネファスは肯定(こうてい)と受け取った。

 レオナルドの力を(わず)かでも感じ取っている黒装束達だけは、その隠された顔に冷や汗を浮かべている。


「フハハハハハッ、そうかそうか。こいつは傑作(けっさく)だな、ネファス」

「クククッ、ええ、本当に」

「どうだ、ネファス。あの女で遊ぶところをあの無能に見せてやったらいいんじゃないか?」

「それはいいですね。ではあいつの四肢(しし)(くだ)いて身動きできないようにしますか?」

「ああ、そうだな。実にいい見世物(みせもの)になりそうだ」


 ステラは気が気ではなかった。グラオムとネファス、この馬鹿(ばか)な人間二人はいったいどこまでレオナルドを怒らせれば気が済むのか。できることなら今すぐ自分が黙らせたい。こんな奴らさっさと殺してやりたい。でないと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そこでステラは自覚した。自分がレオナルドに人殺しをしてほしくないと思っているのだと。自分の中にある人間への殺意は今も変わらない。けれど、レオナルドがその(ことごと)くを流してくる今の関係をステラは意外にも気に入っていたのだ。

 それなのに、もしもここでレオナルドが彼らを殺してしまったら……、きっとレオナルドの心が壊れてしまう。レオナルドの優しさが消えてしまう。レオナルドが話してくれたゲームの闇落ちに進んでしまう。

 そんな確信にも似た不安がステラの中で大きくなっていく。


 だが、現実はそんなステラの想いに反して進んでいく。


「お前ら…もう(しゃべ)るな。今すぐ殺してしまいそうになるだろうが。お前らは簡単には殺さない。全員、死んだ方がマシだと思えるくらいの恐怖を与えてやる。絶望しながら死んでいけ」

 ずっとこいつらをどうしてやろうかと考えていたが、それが(さだ)まったのか、ここに来てようやくレオナルドが口を開く。敵に対する怒りや殺意、ミレーネへの後悔(こうかい)など負の感情の全部を煮詰(につ)めたような抑揚(よくよう)のない低く(くら)い声だった。

『レオ!?いけません!』

 ステラの悲痛(ひつう)な声がレオナルドの頭に(ひび)くが今のレオナルドには届かない。

「なっ!?キサマァッ!!!ほざくのも大概(たいがい)にしろよ!?もういい!おい!さっさとあの無能に現実というものを知らしめてやれ!」

 自分達を馬鹿にしたようなレオナルドの台詞に、ネファスが一気に逆上し、黒装束に命令する。

「お前も行け。ああいう勘違(かんちが)いをした馬鹿は不愉快(ふゆかい)だ」

 グラオムもレオナルドを(にら)みつけながら黒装束に命令した。


 隷属の首輪の効果により、黒装束達は二人がかりでレオナルドに(おそ)()かった。

お読みくださりありがとうございます。

面白い、続きが気になるなど思ってくださった方、画面下の☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!

【ブックマーク】や《感想》、《イチオシレビュー》も本当に嬉しいです!

モチベーションがとんでもなく上がります!

何卒よろしくお願い致しますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ