明かされた真実
レオナルドは余裕のないノックをして、返事も待たずに扉を開けた。
「いったい何事だ、レオナルド?」
突然入ってきたレオナルドを訝しむフォルステッドだが、そのすぐ後ろにセレナリーゼがいるのを見て、要件を察したようで、一瞬苦い表情になる。
「お仕事中にすみません父上」
執務室の中にはいつものようにフォルステッドとサバスがいた。
「いや。それでどうしたというのだ?」
「父上にお聞きしたいことがあります」
レオナルドは冷静に話しているように見えて、肩に力が入っていた。
「何だ?」
「ミレーネのことです。セレナから何があったのかを聞きました。父上はミレーネを助けるのですよね?」
「……お前が気にするようなことではない」
フォルステッドは表情を変えることなく落ち着いた様子で答える。だが、それは答えになっていなかった。レオナルドの頭にカッと血が上る。
「ちゃんと答えてください!ミレーネを助けますよね!?」
「……ミレーネはここを辞めることになった。それがすべてだ」
それはミレーネを見捨てたことを意味していた。
「なっ!?」
(……ふざけるな!ふざけるなよ!?)
絶句するレオナルドだが、すぐに沸々と怒りが湧いてくる。
「そんな……!?」
セレナリーゼは悲しみから口元に手をやり言葉を失くしている。
「他に何もないなら出てい―――」
「待ってください!父上はミレーネと約束していたはずです!」
レオナルドは怒りに任せて自分からゲームで得た情報を公開する。
「なに?」
「彼女の家、ジェネロ男爵家を必ず再興すると!だからミレーネをこの家に引き取ったのでしょう?しかも今回ミレーネにちょっかいをかけてきたのは、そのジェネロ男爵家を無実の罪で没落に追い込んだクルエール公爵家とブルタル伯爵家の人間なんですよ!?それなのになぜ!?」
「え……?」
初めて聞く内容にセレナリーゼは目を見開き呆然とする。
「レオナルド、なぜお前がそれを知っている!?…まさかミレーネから聞いたのか?」
フォルステッドは信じられないものを見るような目でレオナルドを見つめる。レオナルドが知っているはずのないことだからだ。可能性としてミレーネが話したと考えたが、言いながらそれはあり得ないだろうという思いも強かった。わざわざ自分の過去をレオナルドに話す意味がない。
「そんなことはどうでもいい!父上はミレーネとの約束を破るつもりですか!?」
レオナルドは鬼気迫る様子でフォルステッドに食ってかかる。
「レオ兄さま……」
レオナルドの後ろではセレナリーゼが心配そうにその背中を見つめていた。
フォルステッドは一度大きなため息を吐くと、
「……ミレーネは闇魔法の使い手だとわかった。だから公爵家に置いておくことはできないのだ。それに、過去を知っているのならわかるだろう?彼女の復讐心は本物だ。そんな彼女に奴らの子供が再び無実の罪を被せてきた。これでは何年も溜め込んできた復讐の炎を抑えることなど不可能だ。だが、行動に移せばすぐに彼女は特定され、闇魔法使いだということも明らかになってしまうだろう。こうするしか他に方法はなかった」
ミレーネに下した決断の理由を説明した。フォルステッドはミレーネと話したときに、彼女の覚悟を感じ取っていたのだ。こちらに助けを求める訳でも、言い訳をするでもなく、粛々とすべてを受け入れ、静かに自分がすることを定めてしまっていると。
「っ!?」
レオナルドはフォルステッドが気づいていたことに顔を歪める。
「まさか!?」
一方、セレナリーゼは新たな事実に驚愕の表情を浮かべていた。闇魔法がどういうものかはセレナリーゼも知っていたから。
セレナリーゼが攫われた際、ミレーネがレオナルドを追うために使ってくれたのは闇魔法の一つ、『ハイディングエイム』だ。狙った獲物を絶対に逃がさないための追跡の魔法。闇魔法には他に、自分の姿を消したり、相手を幻惑させたり拘束したりするようなものなどがある。様々な悪用ができてしまう魔法が多いことから王国では闇魔法の使い手は忌避されている。差別されている、と言ってもいい。そして法によって、貴族が闇魔法の使い手を抱えることを禁じている。王家は、貴族間、そして王家をも巻き込んで、暗殺の応酬が行われることを恐れているのだ。
それでももしリスクを承知で闇魔法の使い手を抱えるのならば、生涯その者が使い手だと誰にも気づかれてはならない。実際貴族の中にはそうして手中に収めている者がいるのは事実だ。
(くそっ、俺のせいだ!俺があのときミレーネを頼ったから父上にもバレて……!)
ゲーム通りならミレーネは闇魔法が使えることを誰にも気づかれないようずっと隠していた。だからフォルステッドも気づくことなくミレーネを助けたということなのだろうか。だとしたらこの変化のきっかけを作ったのは間違いなく自分だ。
そのとき、後悔の念でいっぱいになりそうなレオナルドの頭に、ステラの落ち着いた―――いや、若干呆れを含んだ声が響いた。
『何を言い出すかと思えば随分くだらないことを気にしているのですね。何の属性が最初に発現するかなどその者の感情や育った環境によるものに過ぎないでしょうに』
(……は?ステラ?どういう意味だ?)
あまりにも突拍子のないことを言われたためレオナルドは状況も忘れて一瞬ポカンとしてしまう。
『そのままの意味ですよ。得意不得意はあったとしても、魔力自体に属性なんてものはありません。人間という種族に刻まれた因子がそんなに細分化されたものな訳ないでしょう?』
(因子?……でも、ゲームではキャラクターによって属性が決まってたし、この世界でだって使える魔法の属性は一つっていうのが定説だぞ?セレナだって覚える魔法は全部水属性だろ?)
ステラの言葉に引っかかる部分はあったが、レオナルドはゲームとこの世界で共通している魔法の常識についてステラに伝えた。
『ええ。ですが、それはセレナリーゼが最初に水属性の魔法を覚えて以降、他の属性のことなんて考えず、ずっと水属性の魔法を使い続けているからでしょう?その方がより強力な魔法を覚えることには向いているのかもしれませんが、それでは水属性以外が成長する訳ありません。得意不得意で習得できないものがあったとしても、理論上、やろうとさえ思えばどんな属性の魔法だって使えるはずです。要は精霊術と同じで想像力が大切ということです』
(マジかよ……)
この世界の常識が覆る情報にレオナルドはとんでもない衝撃を受けた。どこの国でも強力な魔法を使える者は重宝される。今ある定説は、もしかしたらステラの言うように、より強力な魔法を身につけるために、属性を絞って成長させていくというのが一般化していった結果なのだろうか。
というか、ゲームでも語られていなかった魔法に関する真実をこんな形で知ることになろうとは。
『レオ、驚いているところ悪いですが、今重要なのはどの属性でも覚えることができるということです』
(それが何だって……っ、もしかして!?)
『はい。ミレーネが他の属性を覚えてしまえば、この世界の常識がミレーネを守ってくれます』
(父上が気にしているようなバレる心配もなくなるってことか)
『その可能性は格段に減るでしょうね』
(でも実際に別の属性を覚えることなんてできるのか?)
『言ったでしょう?精霊術と同じだと。それとなくレオが教えればいいではありませんか』
(また難しいことを……。でも、今はそんな先のことで悩んでる場合じゃないよな)
『レオがミレーネを助けたいのならそうですね』
(ありがとう、ステラ。俺はミレーネに幸せになってほしい。復讐なんていう悲しい願いを叶えてほしい訳じゃないんだ。だから―――)
「父上、ミレーネの魔法が誰にもバレなければいいんですよね?俺に考えがあります。万が一それでもバレたらすべてを俺一人の責任にして切り捨ててください。それと復讐は俺が止めます」
レオナルドは決意のこもった目をまっすぐフォルステッドに向けて断言した。
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