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いきなりの分岐点

(このタイミングで!?何の前触(まえぶ)れもなくこんないきなり!?)

 フォルステッドの話はもちろんちゃんと聞いていた。だが、レオナルドは、まさか前世の記憶を取り戻したその日がこの次期当主(じきとうしゅ)交代話をされる日とは、と頭を(かか)えたくなっていたのだ。もうちょっと心の余裕というか、猶予(ゆうよ)が欲しかった。だが、記憶を取り戻す前だったらと思うとゾッとする。運がいいのか、悪いのか判断が難しいところだ。

 紅茶を飲んでいる途中だったら間違いなく()き出していただろう。それくらいの衝撃(しょうげき)だった。


 内容については、ゲーム知識があるため(おどろ)きはなかった。というのも、セレナリーゼの魔力量が判明した後にされた今回の当主交代話は、フォルステッドにとっても苦渋(くじゅう)の決断であったことがゲームの回想(かいそう)シーンで語られているのだ。それだけレオナルドの日に日に(とぼ)しくなっていく表情、そしてどこか(くら)い影を落としている瞳、対照(たいしょう)的にまるで何かに()りつかれたように鍛錬(たんれん)や勉学に(はげ)む姿は、親として見ているのが本当に(くる)しかったのだ。

 フェーリスがずっと(つら)そうな顔をしていたのはフォルステッドと思いは同じだが、言われたレオナルドがどう思うかと考え心を痛めていたのだろう。


(でもなんでセレナは父上の決定に異議(いぎ)(とな)えるようなことを?)

 これもレオナルドには驚きだった。

 ゲームではそんな描写(びょうしゃ)はなかった。誰よりも先にレオナルドがフォルステッドに()ってかかり、次期当主は自分だと、自分以外にはありえない、と激しく(うった)えるからだ。

 レオナルドの鬼気迫(ききせま)るあまりの剣幕(けんまく)に、フォルステッドは息子への情から自身の決断を(ひるがえ)し、結局次期当主をレオナルドに任せることにする。


 だが、()げてしまったものをなかったことにはできない。これをきっかけにして、レオナルドは家族全員に対して完全に心を()ざし、不満やうっ(ぷん)()め込んでいき、(うら)みや(にく)しみといった感情を(つの)らせていく。全員が自分の敵のように感じたのだ。結果として、この気持ちも精霊に利用されることになる。


 先の展開を知っている身としては、今回、フォルステッドの取った方法は間違いだったと言わざるを()ない。情であっさりと翻してしまう程度なら何も言わなければよかったのだ。

 まあ今のレオナルドはそんな破滅(はめつ)まっしぐらな(こじ)らせ方はしないが。


 つまりは、だ。今、このときは、(まさ)分岐(ぶんき)点なのだ。

 ゲーム通りならレオナルドは次期当主のまま。けれど、もしここで本当にその()をセレナリーゼに(ゆず)ったら?

 もしかしたら死亡フラグも回避(かいひ)できるのではないだろうか。

(……これは好機(こうき)、なんじゃないか?)

 セレナリーゼのルートでは、彼女は(やまい)(おか)されながらも自らの意志(いし)公爵(こうしゃく)家を()ぐ。今のセレナリーゼがどう考えているのかわからないが継ぐのが嫌、ということはないだろう。こんな早くから重責(じゅうせき)を押し付けることになると思うと少し気が引けるがサポートくらいは自分にだってできる、はずだ。病については現状(げんじょう)(まった)兆候(ちょうこう)はないし、未来がどのルートに進むか不明なためゲーム通りになるかもわからない。他のルートではそんな描写はないため、今は考えても仕方がないだろう。

 それに早くから次期当主としての教育を受けることができるというメリットもある。自分の平穏(へいおん)()らしのためにも、セレナリーゼにはぜひ立派(りっぱ)な公爵になってほしい。

「どうした、レオナルド?お前の考えを……気持ちを言ってみなさい」

 ()いかけても(だま)ったままのレオナルドに対し、フォルステッドが再度(うなが)す。


「あ~と、そうですね、突然のことに驚いてしまって言葉が出てきませんでした。ですが、考えたら父上のおっしゃることは当然だと思います。次期当主はセレナの方がいい。僕はずっと()められた態度(たいど)ではなかったですし、何より魔力なし、ですから」

 レオナルドは苦笑(くしょう)しながらもはっきりと自分の考えを言い、フォルステッドの様子を(うかが)う。

「…………」

(なんで何も言ってくれないかなぁ……?)

 フォルステッドは(けわ)しい顔をしていてその考えが全く読み取れない。フォルステッドにとって悩んだ末での苦渋の決断だったとしても、レオナルドの方から率先(そっせん)して同意(どうい)しているんだから、そうか、とか、わかった、とか早く言ってほしい。

 実際のところは、レオナルドの言葉にフォルステッドだけでなく三人とも絶句(ぜっく)しているだけだった。それに気づきもせずレオナルドは続ける。

「王国において()(かなめ)でもあるクルームハイト公爵家当主には生まれの順番や性別よりもやはり魔力が重要でしょう?その点、セレナなら何の問題もない。セレナは勉強も頑張(がんば)ってますしね。僕は将来公爵(りょう)内のどこかの田舎町(いなかまち)代官(だいかん)でもさせてもらえたら(うれ)しいです」

 ついでに(のぞ)みも言ってみた。

(認めてください、父上!お願いします!)

 レオナルドは心の中で必死にお願いした。死亡エンドを回避して悠々自適(ゆうゆうじてき)なスローライフを送りたい!これは今のレオナルドの(せつ)なる願いだ。

「……本気で言っているのか?」

 フォルステッドは何とかすぐに立ち直ったが、出てきたのはそんな確認の言葉だった。

「?ええ、もちろんです。あ、セレナが困っていたらもちろん全力で手助けしますよ?どうかな、セレナ?セレナは嫌かな?」

「あ、いえ、私は……」

「父上もこう言っているし、僕もその通りだと思うから」

「レオ兄さま……」

「セレナなら絶対大丈夫だよ。うまくやれると思う」

「……わかりました」

 逡巡(しゅんじゅん)していたセレナリーゼだが、最終的には(つぶや)くようにそう答えた。セレナリーゼの言葉にレオナルドは満足そうに一度(うなず)くとフォルステッドへと向き直る。

「ただ、父上にお願いがあります。今後も勉強と剣術の鍛錬(たんれん)は続けたいと思っているのですが、鍛錬についてはもっと実戦(じっせん)を増やしたいんです。もう立場も変わりましたから回復魔法の使い手といった過度(かど)護衛(ごえい)も必要ありません。よろしいでしょうか?」

 戦争や魔物の脅威(きょうい)など危険(きけん)身近(みじか)な世界だ。様々な知識を得て、情勢(じょうせい)を学ぶことと戦う力を身につけることは必須(ひっす)だった。そのために実戦経験を増やしたい。


 レオナルドとしては将来自分が死なないための至極当然(しごくとうぜん)の願いなのだが、家族にとっては違った。驚きを隠しもせず全員目を見開いている。


 当たり前だ。次期当主でなくなったとしても、公爵家子息(しそく)であることに変わりはない。それなのに、そんな危険を(おか)す必要がどこにあるというのか。レオナルドとしては死にたくないからなのだが、フォルステッド達からすればレオナルドが死に急いでるようにも感じたのだ。

 正直レオナルドの考えていることが彼らには全くわからなかった。

「……わかった。確かレオナルドに鍛錬をしているのはアレンだったな。アレンと一緒なら認めよう。ただし十分に気をつけて行うように。怪我(けが)をしてからでは遅いのだからな」

 それでもレオナルドの真剣(しんけん)でまっすぐな表情を見てフォルステッドは許可(きょか)を出した。子供が望むのならばやらせてやりたいというのが親心(おやごころ)なのだ。


「ありがとうございます!あ、あと、もし代官にさせていただけるなら、将来王立学園には通う必要がないかなぁと思うんですが、どうでしょうか?」

「何を言うかと思えば……。そんな訳ないだろう?王立学園への入学は貴族(きぞく)義務(ぎむ)だ。今の話とは関係ない」

 もしかしたらノリでいけるのではないかと思ったレオナルドの今日一番の望みは、(あき)れを隠しもしないフォルステッドに軽く否定されてしまった。

「そうですか……。わかりました……」

 傍目(はため)にわかるほどがっくりと肩を落とすレオナルド。この世界の常識(じょうしき)的にレオナルドの言ったことは冗談(じょうだん)以外の何物でもないため、その態度がフォルステッド達には不思議(ふしぎ)でならなかった。

(チッ、やっぱさすがに無理か。ゲームの舞台(ぶたい)になってる学園そのものを回避できるかと思ったのに!)

 貴族の義務とか言い始めると戦争にも()り出されることになる。そういうのは死ぬ可能性が高まるため絶対に()けたいのだ。

「レオナルド。次期当主はセレナリーゼということで本当に、いいんだな?」

「はい。もちろんです」

 最終確認、というのがわかるほど重く(ひび)くフォルステッドの言葉に対して、清々(すがすが)しさすら感じるレオナルドの返答にフォルステッドはため息を()きたくなる気持ちをぐっと(こら)えた。今までの思い()めていた態度は何だったのか……。

「……わかった。セレナリーゼも(かま)わないな?」

 セレナリーゼは(なお)もチラッとレオナルドの様子を(うかが)う。それに気づいたレオナルドはにっこり笑うとこくりと(うなず)いてみせた。

「……はい。頑張り、ます」

 全体を見渡(みわた)しながらフォルステッドが()めくくる。

「では、今日このときをもって、クルームハイト公爵家次期当主はセレナリーゼとする!」

 フォルステッドのこの宣言は当然家族内だけでは(おさ)まらない。この情報はすぐに王侯貴族(おうこうきぞく)の間に広まることになる。

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