表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/116

三人でのお茶会

 お茶会が始まって三十分ほど()った頃だろうか。シャルロッテが唐突(とうとつ)にレオナルドの話を始めた。

「へえ。セレナにはお兄さんがいるんだ」

「……はい」

 悪い予感しかしないセレナリーゼは少しだけ表情を(くも)らせる。そしてその予感は当たった。

「レオナルドというんだけど、彼、なんと魔力がないのよ?」

「それは……何というか……」

 アレクセイはレオナルドの存在を知らなかったのか、気の毒そうにセレナリーゼを見てくる。

 それがセレナリーゼには腹立たしい。

「驚きでしょう?でもセレナはすごく優秀なの。それで公爵家の次期当主になったのよ」

「すごいじゃないか!実力のある人が認められるのはすごくいいことだと思う。おめでとう、セレナ」

「ありがとうございます……」

 自分を持ち上げようとしてくれているのかもしれないが、セレナリーゼには作り笑いを浮かべるのが精一杯(せいいっぱい)だった。

「私、セレナがなってくれて本当によかったと思ってるのよ。レオナルドが次期当主のままだったら私、望まぬ婚約者にされてしまうところでしたもの」

「っ!?」

 初めて聞く話にセレナリーゼは息を()む。婚約話が実際にあったのかセレナリーゼにはわからない。だが、もしも本当にシャルロッテがレオナルドの婚約者になっていたらと想像したらセレナリーゼは胸が苦しくなった。

 本当にレオナルド()シャルロッテの婚約者になんてならなくてよかったと心から思う。

「よかったな、シャル。僕は王侯貴族(おうこうきぞく)のそういうところがあまり好きじゃないなんだ。結婚はやっぱり好きな人としたいよな」

 アレクセイが現行制度の批判(ひはん)とも取られかねないことを平然(へいぜん)と言ってのける。

「ええ。アレクの言う通り。それが難しいことだとはわかっているけれど……」

「学園では自由恋愛も多いって聞くし、そこでシャルが好きになった人と婚約できたらいいな」

「そうね。やっぱりアレクの考え方は素敵(すてき)だわ。……アレクを見ているとつい期待したくなっちゃう」

 最後は誰にも聞こえないほど小さな声で(つぶや)き、シャルロッテはコケティッシュな笑みを浮かべるのだった。


 三人とも笑顔で会話を楽しんでいるように見えるが、実際のところセレナリーゼの心の中はストレスでいっぱいだった。

 シャルロッテとのお茶会はいつもそうだ。セレナリーゼとしては断れるなら断りたいというのが正直な気持ちだ。

 アレクセイが加わった今回もその例に()れない。


 その後もお茶会は続き、話題は再びセレナリーゼに向けられた。

「そうそう、そういえば、四月から始めたという魔物との実戦訓練の調子はどう?順調なのかしら?」

 四月中旬にあったお茶会の際に、この話題になった。

 レオナルドから提案のあった魔法の訓練をするようになってから、セレナリーゼは着実(ちゃくじつ)に新たな魔法を覚えていった。タイミングが一致しただけかもしれないが、セレナリーゼはこれをレオナルドのおかげだと思っている。

 そして、将来のためにももっと実力を身につけたいと思ったセレナリーゼは、どうしてかレオナルドが実戦訓練をしなくなったことも重なって、アレンに自分の実戦訓練に付き合ってもらえないか思い切ってお願いしてみたのだ。そうしたら、フォルステッドの許可(きょか)が出たらという条件付きで引き受けてもらえた。だからフォルステッドに頼み、新年度を(むか)えた四月から実戦訓練を始めることになった。

 フォルステッドには当初(しぶ)られたのだが、その説得の際もレオナルドがセレナリーゼの意思を尊重(そんちょう)して味方になってくれた。セレナリーゼは努力を重ねて実力は十分だし、アレンなら頼りになる。それに万が一のときのために回復魔法が使える騎士にもついてもらえば問題はないと力説してくれたのだ。


 当時のことを思い出したセレナリーゼは胸の辺りが温かくなり(やわ)らかな微笑(びしょう)を浮かべた。


「はい。と言っても本当にまだまだ始めたばかりで、騎士の後ろから魔法を使っているだけなのですが」

「それでもすごいことだわ。私達の年で実戦訓練なんてしている人は滅多(めった)にいないでしょう。レオナルドのようにやっているように見せかけている人はいるでしょうけど」

「……そんなことはないかと思いますが……」

 シャルロッテの言葉で、すぐにセレナリーゼの微笑は消えてしまう。レオナルドがずっと前から頑張っていたことをシャルロッテは知っているはずなのに、(おとし)めるから。

「そんなことあるわよ。ねえ?アレク」

「まあ僕もやってはいるけど、確かに本気でやってる人は少ないとは思うよ。女の子では特にそうなんじゃないかなぁ。セレナは努力家だな」


「ええ、本当に。そういう努力家なところがきっと実を(むす)んでいるのよね。魔法を使えるようになって半年足らずで新しい魔法を次々と覚えたことも本当にすごいことだもの」

「……ありがとうございます」


「そうそう、魔物といえば、セレナは最近王都で話題になっているブラックワイバーンのことは知ってるかしら?」

 シャルロッテは(つな)がっているようで繋がっていない話題を持ち出した。最初からこの話がしたかったかのようだ。

「はい。父から聞きました」

 ちらりとセレナリーゼはアレクセイを見る。

「じゃあ、そのブラックワイバーンを倒したのが、トーヤという黒髪の少年だということも?」

「えと…、はい」

 チラチラとアレクセイに目がいってしまう。フォルステッドがトーヤの正体だと考えている相手の前で、シャルロッテがどういうつもりでこの話をしているのかがわからず、アレクセイがどんな反応を示すのか気が気じゃなかった。

「ふふっ、ですってアレク?セレナも(くだん)の少年はアレクだと思ってるようだけど?」

 セレナリーゼの目線の意味を正確に理解したシャルロッテが愉快(ゆかい)そうな笑みを浮かべてアレクセイに話を振る。

勘弁(かんべん)してよ、シャル。セレナが来る前にも言ったじゃないか。彼はトーヤという名前なんだろう?僕じゃないよ」

「アレクの魔力量は多くの人が知っていることよ?その上、黒髪という(めずら)しい特徴(とくちょう)まで一致(いっち)しているわ。私としては、やはりトーヤというのはアレクの偽名(ぎめい)じゃないかと思っているのだけど?セレナもそう思わない?」

「それは……」

 セレナリーゼには何と答えたらいいかすぐには思い浮かばなかった。

(まい)ったなぁ」

 アレクセイは曖昧(あいまい)な笑みを浮かべる。それはセレナリーゼの目からも、隠したいことだからこれ以上()れないで、という態度に見えた。


随分(ずいぶん)と楽しそうだな、シャルロッテ。邪魔(じゃま)をするぞ」

 そのとき、不躾(ぶしつけ)な声が割り込んだ。

 声の主は、赤みがかった茶髪の青年、第一王子のイリシェイム。彼は顔を(しか)めており、不機嫌(ふきげん)なことを隠そうともしていない。

 その後ろには、ニヤニヤとした笑みを浮かべるグラオムとネファスがいた。

お読みくださりありがとうございます。

面白い、続きが気になるなど思ってくださった方、画面下の☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!

【ブックマーク】や《感想》、《イチオシレビュー》も本当に嬉しいです!

モチベーションがとんでもなく上がります!

何卒よろしくお願い致しますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ