表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/116

心の傷と想定以上の成果

 闇色(やみいろ)の光の柱が空高く()び、やがて消えた。

 それはブラックワイバーンから最後に解き放たれたブレス。

 青空の中に突然の闇色の光だ。当然目立つし、王都からでも見えた者がいるかもしれない。


 直後、ズドーーン!!!と大きな音が(ひび)(わた)る。


 光の柱が消え、ブラックワイバーンが岩山に()ちたのを見届けたレオナルドはゆっくりと()りていき、絶命(ぜつめい)しているブラックワイバーンの(そば)に着地した。

 ちなみに、戦闘中のことだろうが、通常のワイバーン達はどこかに隠れてしまったようで周囲には見当たらない。


「っと……あれ?」

 そこで限界がきたのか、レオナルドは足に力が入らず、その場に(くずお)れる。身体強化と白刀化も()かれていた。

『霊力を相当消耗(しょうもう)しましたからね。お疲れ様でした、レオ』

「ああ……。ありがとう、ステラ」

 レオナルドはブラックワイバーンの亡骸(なきがら)に目を向ける。とても戦いに勝利したとは思えない表情だった。


 そして思案(しあん)顔になると、

「なあ……、どうしてブラックワイバーンは俺を(おそ)ってきたんだろう?俺には魔力がない訳だし、魔力を感知したってことはないよな?ブラックワイバーン(こいつ)には自分を倒せる相手かなんてわからないと思うんだけど」

 少し()を開けて、そう問いかけたレオナルドだが、本当は「これでよかったのかな」という弱音(よわね)が出そうになっていた。でもそれは口に出す前にダメだと思い直した。すべて自分で決めたことなのだ。ブラックワイバーンを倒した責任をステラに(かぶ)せるようなことをしてはいけない。

『わかりません。ですが何かを感じ取ったのでしょう。レオの霊力か、もしかしたら私の存在を』

「そんなことあり得るのか?」

 霊力なんて、存在自体がこの世界では認知(にんち)されていないくらい(めずら)しいものだし、精霊なんて尚更(なおさら)だ。

『……確証(かくしょう)はありませんが、人間だった頃、(わず)かにでも霊力を持っていたのかもしれません。もちろん魔力も持っていたでしょうから、その(かげ)に隠れて本人にも自覚はなかったと思いますが。レオに念話(ねんわ)が届いたのもそうであれば一応説明はつきます』

「ステラはこいつから霊力を感じたのか!?」

 そこには驚きが込められていた。レオナルドには全く感じられなかったからだ。

『いいえ。あれ程の魔力を(ゆう)していては、たとえそこに少しだけ霊力が(ふく)まれていたとしてもさすがに感知(かんち)できません』

「そっか……」


 結局、すべては推測(すいそく)(いき)を出ず、真相(しんそう)はわからないということだった。


 しばらく沈黙(ちんもく)の時間が続いたが、

「さて、と……」

 レオナルドは疲労困憊(ひろうこんぱい)の体に(むち)打って立ち上がった。

『どうしましたか?』

「いや、せめてちゃんと(ほうむ)ってやりたいなって」

『そうですか。ですが、(もら)うべきものは貰った方がいいと思います。当初の目的もありますし』

「そう…だよな……」

 レオナルドはステラの言葉に(うなず)きつつも、その表情は(うし)ろめたさを感じているようだった。このブラックワイバーンを他の魔物と同列(どうれつ)(あつか)うことに抵抗(ていこう)があるようだ。

『まったく……』

 世話(せわ)が焼ける、そう言いたげなステラだが、その声は優しかった。

『仕方がありませんね。レオ、この者の皮を持ち帰って防具(ぼうぐ)を作ってもらいませんか?きっとかなりの防御(ぼうぎょ)力を有するものができると思います。この者も身勝手(みがって)な自分の願いを(かな)えてくれたレオの役に立つのなら本望(ほんもう)でしょう』

「いや、それは―――」

 レオナルドは反射(はんしゃ)的に否定しようとしたが、ステラの話は終わっていなかった。

『そして、完成したらレオが霊力を馴染(なじ)ませるんです。数年の時間を(よう)するでしょうが、そうすれば刀と同じように私が取り込めます。レオがそれを使い続けることでこの者が生きた(あかし)とはなりませんか?レオなら忘れることなくずっと(おぼ)えているのでしょうが』

「ステラ……」

 レオナルドは(おどろ)きに()ちた表情でステラの名を呼ぶ。ステラがこんな提案(ていあん)をしてくるなんて思いもしなかった。

 言い方はすごく冷たい感じだが、その内容はレオナルドの心情(しんじょう)気遣(きづか)ったものだ。

 つまり、レオナルドがブラックワイバーンの死を(いた)んでいる気持ちを()んで、形見(かたみ)、とはちょっと違うかもしれないけれど、そういうものとして防具を作り、身につけたらいいのではないか、ということだった。


「……うん。そうしようかな。ありがとう、ステラ」

 レオナルドはこのステラの案を受け入れた。そして、ステラにお礼を言うレオナルドには今まで張りつめていたものが(ゆる)んだような、ほっとした笑みが浮かんでいた。

『お礼を言われるようなことではありません』

 ステラは最後まで()()なく、レオナルドの笑みが苦笑(くしょう)に変わるのだった。


 その後、レオナルドは、討伐証明(とうばつしょうめい)として魔核と(きば)、そして特殊(とくしゅ)個体だという(あかし)に闇色の皮を、自分の防具用の分も含めて確保(かくほ)した。


 その上で、戦闘では使い物にならないレベルのまだ不慣(ふな)れな(ほのお)の精霊術を使い、ブラックワイバーンの亡骸(なきがら)を時間をかけて火葬(かそう)した。


 黒髪(くろかみ)変装(へんそう)して、王都の冒険者ギルドに戻ったレオナルドは、ブラックワイバーンという特殊個体がいたこと、そしてそれを討伐したことを報告し、討伐証明部位の売却(ばいきゃく)を行った。一部しか持ち帰らなかったにもかかわらず、売値(うりね)は当初予定していた金額の五倍になった。


 その足で、防具屋へと(おもむ)き、ブラックワイバーンの皮で防具を作ってほしいと注文した。金額に糸目(いとめ)はつけないので、どうか最高のものを、と。

 店主はこんな上等(じょうとう)な素材を(あつか)えるなんてと喜び、テンション高めに、それなら一年中使える外套(がいとう)にするのはどうかと提案してきたので、レオナルドは店主に任せることにした。店主が言うには、とんでもなく(かた)頑丈(がんじょう)なため、加工が(むずか)しいが、なんとか一か月で完成させるとのことだった。


 こうしてレオナルドは心に決して小さくはない傷を(かか)えることにはなったが、当初予定していた以上の成果(せいか)を得て、屋敷へと戻るのだった。


 一方、レオナルドが()った後の冒険者ギルドでは一時大変な(さわ)ぎとなった。

 これまで誰も遭遇(そうぐう)したことのなかったワイバーンの変異種(へんいしゅ)―――冒険者ギルドによって正式名称(めいしょう)がブラックワイバーンに決まった―――の存在が明らかとなったのだ。そしてそれは、魔核の純度から通常のワイバーンの少なくとも数倍の強さを(ほこ)るだろうことが判明(はんめい)した。

 さらには、そんな魔物を黒髪の少年が一人で倒したというのだ。

 普通ならこんな話は信じないだろうが、冒険者ギルドは、これまでレオナルドが売却してきた魔物のことを把握(はあく)していた。そのどれもが熟練(じゅくれん)冒険者が討伐するような魔物だということを。将来有望(ゆうぼう)な少年だと(ひそ)かに期待を()せていたのだ。まだ子供だとわかってはいても、これまで何度か冒険者にならないか、と勧誘(かんゆう)していたりもするのだが、レオナルドからは素気無(すげな)く断られている。

 だから今回のことも信用された。もちろん、魔核などの証明部位の存在が大きいのは間違いないが。


 ブラックワイバーンの存在、そしてそれを討伐したこの国では珍しい黒髪の少年の話は冒険者を中心に、そして王都民へと(またた)()に広がった。特に、()()()という名前―――冒険者ギルドで()かれ、レオナルドが適当に答えた―――以外、素性(すじょう)などが何もわからない黒髪の少年のことは(うわさ)が噂を呼んでいた。

 中には黒髪の少年が誰なのか、その正体(しょうたい)(さぐ)ろうとする者達もいたのだが、レオナルドには知る(よし)もなかった。

お読みくださりありがとうございます。

面白い、続きが気になるなど思ってくださった方、画面下の☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!

【ブックマーク】や《感想》、《イチオシレビュー》も本当に嬉しいです!

モチベーションがとんでもなく上がります!

何卒よろしくお願い致しますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ