趣味嗜好とチートについて
『あなたは私の封印を解く前、死ぬ運命を回避したいから力が欲しいと言いました。こうして私と契約した今、これからどうしていくつもりなのですか?』
「とりあえずは、今できることをコツコツしていくつもりだよ。っていうか、現在進行形でしてる」
『と言うと?』
「毎日鍛錬してるのがそうだし、ゲームでは開始時点で俺は次期公爵のままだけど、この世界ではすでにセレナになった。これは大きな違いだと思ってる。少なくともこれで、この国の第二王女、シャルロッテ様ルートに進んだ場合は大幅に内容が変わるはずなんだ」
『その言い方だとルートというのは物語の分岐のことですよね?ルートはいくつあるのですか?』
「さっき、セレナとミレーネのこと少し言ったよね?ゲーム通りなら、主人公と結ばれる可能性がある女の子は五人のヒロインと五人のサブヒロイン、合わせて十人いて、それぞれのルートがある。そのうち、ヒロインの一人がセレナで、サブヒロインの一人がミレーネなんだ。それとこういうゲームではお約束の全員と結ばれるハーレムルートの可能性もある。だから主軸は十一ルートってことになるのかな。そこに不幸な結末を迎えるバッドエンドを含めたら倍以上になるけど……」
『すごい数ですね。その主人公は相手を選り取り見取りという訳ですか』
「まあ、そういうゲームだからなぁ」
レオナルドは思わず苦笑してしまう。エロゲなんてだいたいそんなものだからだ。
だが、そこで精霊から予期せぬ質問が飛び出す。
『あなたもそのゲームをやっていたということは、複数の女性から言い寄られたいということですか?ハーレム願望があると?』
それはレオナルドの趣味嗜好についてだった。
「いやいや、そういうのはゲームだからありというか、男の夢なのは認めざるを得ないけど、現実でそんなことしたいとは思ってないよ!?そもそもゲームでもこの世界でも俺を好きになるような人なんていないから。俺は魔力なしの落ちこぼれだし。……なんか自分で言ってて悲しくなってきた」
『そうなのですか?本当はしたいなら協力してあげますよ?』
「本当は、って何だよ。疑うなよ!しかも協力って何する気だよ!?」
この手の話で精霊の協力というのは、レオナルドにとって悪い予感しかしない。そしてその予感はすぐに当たることになる。
『女性の意識をちょこちょこっと誘導するくらいは簡単ですよ?』
「やっぱりダメなやつだった!ゲームの精霊さんは確かに力を使ってたみたいですしね!それくらいできちゃいますよね!でも怖いこと言うのはマジでやめて!?そんなこと絶対しないでくれよ!フリじゃないからな!?」
ゲームでは主人公からヒロインの略奪を試みるレオナルドだが、それには精霊の力を使っていたことが明かされているのだ。ただこれについても具体的にどう力を使っていたのかは説明がなかった、のだが……。答え合わせをする方法はもちろんない。が、もしかしたら意識誘導をしていたのかもしれない。
『なるほど。ゲームの私はやっていたんですね?つまりあなたも本心では……』
「本心とかじゃないからな!?」
『そうですか?まあ、安心してください。今の私はあなたの意思に反することはできませんから』
「はぁ……今、本気で契約してよかったって思ったよ」
『実感できてよかったですね』
反射的に言い返しそうになったレオナルドだが、この話題から早く離れたいと思い直し、ぐっと堪えた。
「…………話を戻そう。って、どこまで話したっけ?」
『ルートが二十以上あるというところですね』
「あ~そうだった。それで、問題なのは、主人公が誰と結ばれるかでそれぞれ話の展開が違うのは当然なんだけど、俺の殺され方も全然違うんだ。で、俺が死ぬ分岐点―――、死亡フラグも全部違ってる」
『前途多難ですね。先回りしてその死亡フラグとやらを全部潰してしまうことはできないのですか?あなたはこれから起こることをすべて知っているのでしょう?』
「すべて、っていうのは違うかな。ただの日常は全然わからないし。で、先回りって話だけど、それも難しい。俺の死亡フラグには他者の動きが多分に影響するんだ。でも、四年半後、どんな分岐をしていって、どういう展開になるかは今の時点じゃ全くわからない。そのときが来ても、主人公が誰と仲良くなるかで、ある程度ルートの予想はつくかもしれないけど、それも確実じゃないし……」
『後手に回らざるを得ない、ということですか。』
「ああ。強いて言えば、本編開始までに起きてしまった登場人物達に悪影響のある出来事はいくつかわかるんだ。ゲームの回想とかに出てきてたから。でもそれだってほとんどの場合、具体的な日付まではさすがにわからないから介入は難しい……」
『現状やれることが少ないということは理解しました』
「それにさ、つい先日、セレナが攫われた。これはゲームにはなかったことなんだ。しかもそのとき、犯人の男達が突然苦しみだしたかと思ったら魔物に変身した。何を言ってるんだって思うかもしれないけど、本当に変身としか言いようがなくて。何とかその魔物、クラントスは倒してセレナは無事助けられたんだけど、どうして人が魔物になったのか、セレナを攫った目的もわからずじまいで……」
『ゲーム的には大した出来事ではないということなのでは?無事だったのでしょう?』
「否定はできないけど、これがゲームで語られていなかっただけとは思えなくて。もしかしたら俺のせい―――、次期当主がセレナになったことで、ゲームの展開から離れてしまったんじゃないかって。もしそうなら、俺が持ってる知識はそのうち役に立たなくなるのかもしれない」
『なるほど。あなたが死ぬ運命を回避しようとすれば、確かにゲームとは違った展開になっていく可能性はありますね』
「うん。だからこそ、迷いに迷ったけど、精霊さんとの関係もこうして前倒しにした。これもゲームとはだいぶ変わってしまうけど」
『ほう?私に関して迷いに迷ったというのは?』
レオナルドには精霊の声に怒りが混ざった、ような気がして慌てる。
「だ、だって、俺が精霊さんを宿すのは死ぬ運命に近づく行為っていうか、一番わかりやすい分岐っていうか、極大の死亡フラグなんだよ!?だから本当は避けたかったんだ。そりゃ迷うよ」
『……それならば会いになど来なければよかったでしょうに』
精霊の言い方からは、プイっとそっぽを向いてしまったのが幻視できそうだ。
「勝手なこと言ってるってのはわかってるけど、俺には精霊さんの力がどうしても必要だったんだ。一番はもちろん殺されたくなんてないからだけど、この先、不測の事態が起きてもセレナ達を守れるようになりたかったんだ。精霊さんはこの世界において間違いなくチートな存在だから」
『随分と甘い、そして傲慢な考えですね』
「わかってるつもりだよ……」
自分のことだけでもままならないのに、大切な人も守りたいなんて確かに傲慢だとレオナルドの口元に自嘲するような笑みが浮かぶ。
『ところでチートとは?』
「最強って意味だよ。ゲームで戦ったのは精霊さんを宿したレオナルドだけど、精霊術は本当に理不尽なほど強かったんだ」
『……いいでしょう。ではその精霊術を使えるようにするためにも、鍛錬のときに言った通り、あなたには霊力の扱い方から教えて差し上げましょう。何せ私はチートですからね』
もしも精霊に顔があれば、フフン、とドヤ顔をしているところが見られたかもしれない。そんな雰囲気があった。
「ありがとう!よろしくお願いします!」
目の前に精霊がいる訳ではないが、レオナルドは実際に頭を下げるのだった。
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