長い夜の始まり
現在、この場にはレオナルド、アレン、セレナリーゼ、ミレーネの四人がいる。ミレーネは付き添いというか変わらず見守っているだけだが、セレナリーゼは違う。帰省から戻って以降、セレナリーゼはレオナルドの鍛錬の時間に、同じ場所で自分も魔法の鍛錬を行うようになったのだ。レオナルドはこれを魔法が使えるようになって嬉しいのだろうと考えている。
アレンとの鍛錬を始める前、レオナルドはアレンに頭を下げた。
「昨日は迷惑をかけてしまって本当にごめん!」
「いえ!大丈夫ですから頭を上げてください!」
「……父上の方は何とか説得できたんだけど、ジーク団長から怒られたりしなかった?」
アレンに促され、頭を上げたレオナルドは恐る恐る尋ねた。
「いえ、まあ、それは。ははは」
笑って誤魔化そうとするアレンだが、それはジークから怒られたのだとわかるものだった。
「っ、本当にごめん!俺のせいで。アレンは何も悪くないのに」
「いえ、本当に大丈夫ですから、お気になさらないでください。私自身、わかった上でしたことですし。レオナルド様の方こそ、臭いで結局バレてしまったのですよね?随分叱られたと聞き及んでいますよ?」
「それは俺の自業自得だから……」
「でしたら私も自業自得ですよ」
「っ、……ありがとう」
「いえ、ではこの話はここまでということで。鍛錬を始めましょうか?」
こうしてわざわざレオナルドが謝罪してくれた。その心意気をアレンは嬉しく思い、柔らかな表情で昨日の件の話を打ち切った。
「ああ」
レオナルドもアレンが許してくれているとわかったのか、口元に小さな笑みを浮かべて返事をした。
いざ鍛錬が始まれば互いに集中力を増していき、木剣同士の激しくぶつかり合う音が辺りに響く。
そんな中、レオナルドは今日も必死に力を引き出そうと試行錯誤していた。
(くっ、やっぱりあのときの力は使えないままか!)
精霊と契約した今ならもしや、と思ったが、以前と変わらずどうしても使えるようにならない。
そうこうしているうちに、レオナルドの負けで一本目が終わった。
その休憩中。
『戦っているときにあなたが言っていたあのときの力とは何のことですか?』
精霊が尋ねてきた。どうやら鍛錬中、レオナルドが思考していたことをしっかりと聞いていたらしい。
(ん?ああ、それは――――)
別に隠すことでもないため、レオナルドはクラントスという魔物と戦ったときに、魔力がないにもかかわらず、大幅な身体強化ができて倒すことができたという話を語った。もしかしたら精霊から聞いた霊力によるものではないかという自分の予想も付け加えて。
『それは間違いなく霊力による身体強化でしょうね』
(やっぱりそうなのか!?)
『ええ。人間が使う魔法による身体強化がどれほどのものか知りませんが、そんなものよりも大幅に強化することが可能です』
魔法を知らないと言いながら、精霊は霊力に絶対的な自信を見せる。
(どうやったらできるようになる?何度試しても再現できないんだ)
『これほどの霊力を持ちながら全く扱えないとは残念な人間ですね。いえ、むしろそんな状態でよく一度はできたというべきでしょうか。体内の霊力を活性化させることなど基本中の基本ですよ。ああ、そういえば、あなたは私が言うまで霊力のことを知らなかったのでしたね。霊力を感じ取ることもできませんか』
(ぐっ……。確かに俺に霊力があるって言われてもまだ実感がない。どうしたらいいか教えてくれないか?)
『その辺りのことは後ほど教えます。ほら、次が始まるようですよ?』
「レオナルド様。そろそろ再開しましょうか」
精霊の言葉のすぐ後に、アレンから声がかけられた。
「あ、ああ。今行く」
こうして二回戦目が始まった。
レオナルドの戦いが始まって以降、精霊はセレナリーゼを観察していた。と言っても、レオナルドの視覚を共有している訳ではもちろんない。魔力の流れを視ているのだ。それだけで精霊には何をしているのか手に取るようにわかる。
先ほどから繰り返し、的に向かって「ウォーターボール」と魔法名を唱えては、手のひらから水の玉を放っている。
ここにいる者達は本人も含めて、それが鍛錬だと本当に思っているのか、誰も何も言わない。そのことに精霊は呆れ返っていた。
しばらく観察していた精霊だったが、自分には関係ないことだ、という結論に至り、セレナリーゼへの興味をなくしたのだった。
その後、鍛錬の時間中、精霊は特に何も言うことはなく、この日の鍛錬は終わり、とうとう約束の夜となった。
場所はレオナルドの自室。今から約束していた話をする、それはレオナルドも精霊もわかっていた。
『さて。それでは聞かせてもらいましょうか』
切り出したのは精霊からだった。
「ああ……」
ただ、レオナルドはどう話せばいいか迷っていた。
「……朝にも言ったけどさ。これから俺がする話は全部本当のことなんだ。すぐには信じられないと思うけど、信じてほしい」
だからついそんな言葉から始めてしまう。精霊が知りたいこと――――、前世のこと、この世界がゲームの世界であることをいざ話そうと思うと気が引けてしまうのだ。自分自身、今生きているこの世界を現実だと捉えているから。
『それはもうわかりました。話を聞いて判断すると伝えたはずですが?』
「そうだよな……。ごめん」
弱弱しい笑みを浮かべて謝罪するレオナルド。だが、このやり取りで踏ん切りがついたのか――――、
「………俺にはこの世界とは別の世界の記憶……、たぶん前世の記憶があるんだ」
真剣な表情でそう話し始めた。
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