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よりにもよって

「いや、いや、そんなまさか……」

 (かわ)いた笑いが()れる。ゲームの世界に転生なんてそんなことあり得ない、と自分の考えを否定するが、前世を思い出す前までのレオナルドとしての記憶がそれを許してくれない。レオナルドは冷や汗をかきながら、ゲームのレオナルドについて思い出さずにはいられなかった。


『Blessing Blossom』には悪役貴族が登場する。

 その名もレオナルド=クルームハイト。いかにも悪役といった目つきの悪いキャラクターだ。登場時点では王立学園に入学したばかりのため十六歳。ムージェスト王国をメインの舞台にしたこのゲームで、ムージェスト王国のクルームハイト公爵令息(こうしゃくれいそく)であるこの男は、ヒロイン達をあの手この手で主人公から略奪(りゃくだつ)しようとする。イベントシーンをコンプリートするためには実際にヒロインを(うば)われる必要もあり、プレイしているときは精神的にきつかった。イケメンなことなんて何の(なぐさ)めにもならなかった。


 ゲーム本編開始からすぐのこと、学園内でヒロインの一人である、レオナルドの義妹を主人公が助けたことをきっかけにして最初のうちは主人公と友人のようになる。

 戦闘でも使用できるのだが、レオナルドは剣術(けんじゅつ)での物理一辺倒(いっぺんとう)だ。なぜなら、魔法が主のこの世界で、レオナルドには魔力がなかったから。そのことに彼は相当強いコンプレックスを抱いていたことが後々ゲーム内で判明する。


 それでも近接戦の攻撃力が高く、()()()()()()()()()という欠点はあっても耐久値も高いレオナルドは、本当に初期の戦闘では中々使い勝手がいいのだが、主人公達が色々な魔法を使えるようになるとすぐに使えないキャラと化す。そして共通ルートのとあるイベント後は使用不可になり、そこから主人公とは疎遠(そえん)になり、ヒロインにちょっかいを出すようになる。


 ルートによってはラスボスになったりもするかなりウザい存在だ。しかもその際は精霊を宿(やど)したとか言って、物理だけじゃなく精霊術(せいれいじゅつ)なんていう強力な魔法のようなものを使ってくるようになり、遠近両方の攻撃が高威力でかなり苦戦させられた。精霊という存在がゲーム内でどれだけチートな存在なのかがよくわかるステータスをしているのだ。


 ちなみにラスボスになった際、ヒロインの略奪にも精霊の力を使っていたことが明かされる。


 まあ、こういう悪役キャラがいるからこそ、ざまあのときには爽快感(そうかいかん)があるし、各ストーリーが感動的だったりもした訳だが。


 前世で一番最後にクリアしたのはパッケージの段階で決めていたセレナリーゼ=クルームハイト。プラチナブロンドの髪に紫水晶(むらさきすいしょう)のような瞳をもつレオナルドの義妹だ。このルートでレオナルドの真実が判明する。

 彼は、偶然(ぐうぜん)精霊をその身に宿した後、魔力なしというコンプレックスを刺激(しげき)する精霊の甘言(かんげん)により徐々にその思考を染められていたのだ。それは精霊がムージェスト王国の王侯貴族(おうこうきぞく)(うら)んでのことで、レオナルドは本当の意味での悪役ではなかった。殺せ、殺せと(そそのか)してくる精霊に、コンプレックスを(かか)えていたレオナルドの精神は段々と汚染されていき、王侯貴族を悪と思い、そんな相手になら何をしてもいい、と思うようになったということが語られている。だからヒロイン達を自分の物にしようとしたのだ、と。残念ながら精霊の恨みの理由やなぜレオナルドにそんな存在が宿ることができたのかなど、詳しい説明はなかったが。


 このルートでは最後、涙するセレナリーゼの腕の中で精霊とともに死ぬことをレオナルドは選ぶ。そして彼女は原因不明の不治(ふじ)の病に(おか)され余命いくばくもないながらも、主人公を婿(むこ)に迎え、レオナルドの代わりに公爵家を継ぎ、レオナルドのせいで権威が失墜(しっつい)してしまった公爵家の再建に尽力(じんりょく)するが道半(みちなか)ばで死んでしまうエンディングとなる。五人のヒロインの中で唯一ハッピーエンドとは言えない終わりだ。そしてこれはある意味、レオナルドの救済ルートでもあった。

 というか、他のどのヒロインのルートでもレオナルドは死んでしまうのだが、セレナリーゼに看取(みと)られるこれが一番(おだ)やかな死に方だった。

 そう、レオナルドはどのルートに進んでも死んでしまうのだ。しかもほとんどが殺されて終わる。ゲームとしてはバッドエンドに進んでもレオナルドは必ず死ぬ徹底(てってい)ぶりだ。


「俺の人生、()んでるんじゃ……」

 ゲーム内では自分の死が確定していることにレオナルドは頭を(かか)えた。冷や汗が止まらない。ゲームの世界への転生なんていうあり得ないことが起こったことを百歩(ゆず)っても、どうしてよりにもよってレオナルドへの転生なんだと(さけ)びたい。


 よろよろとベッドから抜け出したレオナルドは最後の希望とばかりに、室内にある鏡に近づいていき、自分の顔を見た。

 そして、やはり救いはなかったと絶望する。

 輝く金髪に、サファイアのような青い瞳をもつ中性的な整った顔立ちの少年がそこにいた。

 目つきこそまだそこまで悪くなっていないが、それはゲームのレオナルドを少し幼くしたような顔で、つまりはゲームのレオナルドだという現実を突きつけられただけだった。

 そもそもレオナルドとしての記憶の中にセレナリーゼという妹の存在もあったのだからもう受け入れるしかない。

 自分はゲーム通りなら確実に死ぬ運命が待っている、公爵令息レオナルド=クルームハイトとして生きていかなければならないということを。


 時計を見ればメイドが起こしに来るまでもう少し時間がある。

 レオナルドはベッドに腰掛け、深いため息を吐いた。そして自分の望みを口に出す。

「何とかして死ぬ運命だけは回避したい。何が悲しくて十年もしないうちに死ぬとわかっている人生を送らなきゃいけないんだ……」

 前世の人生だって決して順風満帆(じゅんぷうまんぱん)なんてものではなかった。けれどレオナルドに待ち受けているものはそんな比じゃない。

 どうせなら主人公に転生したかったという思いが強いが、それを言ってもどうしようもない。

 どうすれば望みが叶うのか、考え続けるレオナルド。

「そうだよ。ゲーム通りに進めなきゃいいんだ!」

 そして思いつく。まず、大前提としてヒロイン達を略奪しない。そして、主人公と友人になんてならない。

 それで自分が悪役になることはないのではないか?

 すごくいい案のように感じるレオナルド。少しだが希望が()いてきた。

 けれどそれだけでは()らないようにも思う。なぜならレオナルドの死因が基本的に他殺、だからだ。相手は主人公だったり、王国騎士だったり、他国の者だったり、魔物だったり……。

 弱ければどんなタイミングで殺されてしまうかわからない。レオナルドは自分に魔力がないとわかって以降、次期当主であり続けるためには他で(おぎな)わなければならないと考えて、勉学と剣術の鍛錬を必死にやっていた。これを続けていったらゲーム開始時点のようになれるのだろう。

 ただ……、と不安が(よぎ)る。いくら剣術だけ強くなっても魔法も使ってくる相手には手が出ないのだ。この世界は基本剣士でも身体強化魔法や飛び道具の魔法を使ってくる。魔力がないというのはそれだけ大きなハンデだった。

 そんな不安が出てくると途端にいい案だと思ったことにも(ほころ)びがあるように感じてしまう。もしも、自分がどれだけ気をつけてもゲーム通りのイベントなどが確実に起こるものだったりしたら……?そんなことはない、と思いたいが―――。

「……少なくとも剣術の鍛錬を真剣に続けるのは確定だ。でも、正直剣術だけじゃ足りないよな……。もっと強くならないと。けど、剣術以外で強くなる方法なんて……」

 一つだけ。前世の記憶の中にその答えがあった。精霊の存在だ。自身に精霊を宿せば、レオナルドは格段に強くなれる。でもそれは自分がゲームのようになってしまうかもしれないということも意味している。

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