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鍛錬の再開、そして…

 セレナリーゼとのあれこれを色々と(なら)べたが、レオナルドは遊んでばかりいた訳ではない。

 帰省(きせい)した翌日から、アレンとの鍛錬(たんれん)を再開したのだ。

 準備運動を()ねた素振(すぶ)りを終え、早速(さっそく)実戦形式での鍛錬が始まった。

 ちなみに、レオナルドとしては見ていてもつまらないと思うのだが、セレナリーゼは毎日の鍛錬を()きもせずずっと見学していた。


 レオナルドはこの鍛錬で(ため)したかったことがようやく試せるとやる気に()ちていた。

 それは、貧民(ひんみん)街でクラントスと戦ったときの感覚を引き出すこと。

 あのときの力はレオナルドにとって希望だ。もしも力を引き出せれば、魔力のない自分でも大抵(たいてい)の相手と戦えるようになる。そしてその力を(きた)えれば、自分が殺される確率を大幅に低くすることができるはずだ。

 アレンと戦いながらレオナルドは必死に再現しようとした。


 鍛錬終了後。

「レオナルド様、今日は何だか考え事をしながら戦っていましたか?」

 さすがはアレン。よく見ている。レオナルドの動きから(さっ)したようだ。

「あ、ああ。そうなんだ。久しぶりだったから動きを確認しながらやってたんだ」

「なるほど、そういうことでしたか。レオナルド様の動きは()()()()()()()(するど)かったですよ」

「ありがとう……」

 アレンが()めてくれたのだということくらいわかるレオナルドは、落胆(らくたん)が顔に出ないように何とか笑みを浮かべてみせる。

 これが現実。クラントスとの戦いのときも自分が意図(いと)してできたことではない。勝手(かって)にできていた、というだけでレオナルドにはやり方がわからなかったのだ。


(こんなのじゃ全然ダメだ……!)

 ただ心の中は()れていた。レオナルドは一度できたことだからこそ、今の自分に満足できない。それどころか再現できないことに(あせ)りが生まれていた。

(俺には力が必要なのに……!)

 自分の死亡フラグ回避(かいひ)のためだけじゃない。もちろんそれが最大の目標であることに変わりはないが、今のレオナルドはそれだけを考えていればいいとは思えない。

 今回セレナリーゼを(おそ)った事件は自分のゲーム知識にはなかったことだ。もう二度とそんな不測(ふそく)の事態は起きない、とレオナルドは楽観視(らっかんし)することができない。もしも今後同じようなことが起こったら――――、今度は守り切れないかもしれない。


 身近にいる大切な人が不幸な目に()う、最悪死んでしまうかもしれない、その恐怖がレオナルドを焦らせていた。

 クラントスと相対(あいたい)したとき、目の前でセレナリーゼが(つらぬ)かれそうになったことは、レオナルドのトラウマになっていたのだ。


 使えない力なんて無いも同じ。今のままではクラントスレベルの魔物一体にも勝てない。この世界において魔力がないレオナルドという人間はそれほどに弱かった。フォルステッドに言われるまでもなく、わかりきっていたことだがそれが事実だ。


 その事実に思い(いた)ったレオナルドは、一つの事柄(ことがら)を思い出した。いや思い出したというのは語弊(ごへい)があるだろう。それはずっと考えないようにしてきたこと。意識的に(ふう)じ込めていたと言ってもいいかもしれない。そう、精霊(せいれい)の存在を―――。


 ゲームのレオナルドが感じていたようなコンプレックスがない今の自分なら、そう簡単に精神を汚染(おせん)されるとは思えない。けれど超常(ちょうじょう)の存在である精霊が相手だ。強制的にゲームのように(やみ)落ちさせられるかもしれない。いくらゲームの知識があるといっても、精霊についてもレオナルドの精神の変容(へんよう)についてもわからないことが多い。敵キャラであるレオナルドが皆の前から姿を消し、再び現れるまでの経過に(いた)っては本当に(わず)かしかわからない。ゲーム全体を通して、レオナルドのことがそれほど多く語られている訳ではないからだ。


 それでも、自分の運命に打ち勝つためには―――、大切なものを守るためには―――、

(やっぱそれしかないのかな……)

 レオナルドの中で、初めてその選択肢に天秤(てんびん)(かたむ)いた。


 以降も、帰省中の鍛錬時、毎回力を引き出せないかと試みたレオナルドだったが、結局一度も成功することはなかった。セレナリーゼと過ごす日々が(いや)しとなってはいても、レオナルドは日に日に危機(きき)感を(つの)らせていった。


 そして、徐々にレオナルドの思考は、精霊を取り込むことによって、もしも自分が大切な者を傷つける存在になったらどう対処(たいしょ)するか、といったものにシフトしていた。

 レオナルドの中でもう結論は出ているのかもしれない。


 そうして日々は過ぎていき、とうとうレオナルド達が王都へと戻る日がやって来た。


 ジェネルとクオーレも見送りに出てきている。出発の準備を終え、後は馬車に乗るだけ、となったところで、ジェネルとクオーレがレオナルドの前に立った。

「レオナルド」

「はい?」

「本当にいい顔になったな。やはり子供の成長は早い。これからも自分の信じた道を進みなさい」

 ジェネルは(いか)つい顔をくしゃりとさせ、大きな手でレオナルドの頭をわしゃわしゃ()でながら言った。

「?ありがとうございます」

 ジェネルの力が強く若干(じゃっかん)の痛みを感じつつも、目をすがめるだけでされるがままのレオナルドは、どういう意味かわからなかったが、とりあえずお礼を言った。すると続いてクオーレがレオナルドを優しく()きしめた。

「レオナルド。あなたはもっと()(まま)になっていいのよ?自分の気持ちに正直(しょうじき)にね?」

「?はい」

 レオナルドは、こちらも意味がわからず、抱きしめ返すこともできずに(ぼう)立ちになってしまった。前世の記憶を()てから十分我が儘に生きているという自覚があるのだ。だからとりあえずで返事をした。

「ふははははっ。わからぬのならそれでよい」

 (なま)返事ばかりするレオナルドに、ジェネルは豪快(ごうかい)に笑うのだった。


 年に一度しか会っていないからこそ、ジェネルもクオーレもレオナルドの変化を敏感(びんかん)に感じていた。魔力がないことを思い()めていた去年とは全然違って見えたのだ。

 そしてそれがとてもいい変化だと思っていた。それでもまだ何か(なや)みを(かか)えているように見えたため、二人は最後に心からの言葉をレオナルドに(おく)ることにしたのだ。どうもレオナルドの反応的にあまり伝わってはいないようだが頭の片隅(かたすみ)にでも残ってくれたらそれでいい。


 レオナルドの次はセレナリーゼのようだ。ジェネルとクオーレがセレナリーゼの前に立つ。セレナリーゼが次期当主になったという知らせを受けたときには二人で(おどろ)いたものだ。それと同時に突然そんな重責(じゅうせき)(まか)されたセレナリーゼは大丈夫なのかと心配になった。(くわ)えてセレナリーゼが(ねら)われた先の事件だ。セレナリーゼの精神面への負担(ふたん)影響(えいきょう)を考えると気が気でなかったが、実際に会ってセレナリーゼの元気な様子に心底(しんそこ)安堵(あんど)した。誰のおかげかは何となく察することができた。

 そんな二人にはセレナリーゼにも最後に伝えたいことがあった。

「セレナリーゼ」

「はい」

「次期当主となったことで大変なことも数多くあると思うが、自分を信じて、思った通りに精一杯(はげ)みなさい。ただし無理だけはしないようにな」

 ジェネルはレオナルドのときよりも幾分(いくぶん)優しい手つきでセレナリーゼの頭を撫でた。セレナリーゼは少しくすぐったそうにしつつも(うれ)しそうだ。

「はい。頑張(がんば)ります」

 クオーレもレオナルドにしたのと同じようにセレナリーゼを優しく抱きしめる。セレナリーゼからもクオーレを抱きしめた。

「セレナリーゼ。一人で抱え込んではダメよ?(まわ)りを(たよ)って。ね?」

「はい。ありがとうございます」

 セレナリーゼは二人の言葉にはっきりと返事をするのだった。


 それからレオナルドとセレナリーゼも馬車に乗り込み、一同は王都へと出発した。

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