表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/116

情報共有①

 一人で着替(きが)えなどを()ませたレオナルドがダイニングに行くと家族が出迎(でむか)えてくれた。

「レオナルド、目が()めたのだな。よかった」

「父上、母上、ご心配おかけしてしまいすみませんでした。この通り、もうばっちりです」

「レオ!よかった!よかったぁ!」

「むぐぉっ!?」

 フェーリスの喜びようは半端(はんぱ)ではなく、レオナルドは胸元に強く強く抱きしめられた。

 本当なら母の想いに(こた)えるためにもされるがままになるべきであろうが、レオナルドは必死にフェーリスの肩をタップする。

(息が!息、が……!あ、これ、ヤバ、い……)

 タップは徐々(じょじょ)にゆっくりになっていき、だらりと腕が下がった。レオナルドは顔面が(やわ)らかいものに(つつ)まれ、意識が遠のいていく。窒息(ちっそく)寸前(すんぜん)だ。まさかこの世界はこんな形でも自分の死亡フラグを回収(かいしゅう)しにくるのか、とレオナルドは絶望(ぜつぼう)しかける。

「お母さま!レオ兄さまが(くる)しんでいます!早く放してください!」

 しかしそこで、セレナリーゼがフェーリスの腕を引っ張り、レオナルドをそんな死の(ふち)から救い出してくれた。

「あんっ、セレナ。どうして邪魔(じゃま)をするの?レオがようやく目を覚ましたのよ?」

(うれ)しいのはわかりますが、加減してください!レオ兄さまが死んでしまいます!」

「そんなことないわよ。ねえ、レオ?」

「え、いや……、ええ……まあ……」

 心配をかけたのは事実で、死にそうでした、なんて正直(しょうじき)には言えずレオナルドは言葉を(にご)す。

「ほら。それにセレナだってレオが目を覚ましたとわかってすぐに抱きついたんじゃない?昨日は一緒に寝たのでしょう?」

「なっ!?……わ、わ、私はお母さまのようにレオ兄さまを窒息させたりしてません!」

 自分の行動を見事に当てられ、(おどろ)きに目を見開いたセレナリーゼは、しかし、ぎゅっと両手を(にぎ)って力強く言い切った。

(セレナ、それは自爆(じばく)だよ……。それに今の母上、ミレーネが俺を揶揄(からか)うときになんか似てる気が……?でもそのネタが俺って……)

 レオナルドはため息を(こら)えるも、この場を離れたい気持ちが強くなる。

「あら、やっぱりセレナも抱きしめたんじゃない」

「っ、それは……」

 なぜ一緒に寝たことを知っているのか、と混乱(こんらん)し、(みずか)墓穴(ぼけつ)()ってしまったセレナリーゼは顔を真っ赤にした。

「じゃあ今から二人でレオを抱きしめましょうか?」

「二人で……」

 フェーリスの冗談(じょうだん)とも本気ともつかない提案に、セレナリーゼは期待するような目でレオナルドを見つめる。

(この話題いつまで続くんですかね?マジで勘弁(かんべん)してくれ……)

 二人のやり取りにレオナルドは頭が痛くなっていた。


「お前達、そろそろ落ち着け。食事にしよう」

 そんな彼女達を(あき)れたように見ていたフォルステッドの言葉で、その場は(おさ)まり、食事が始まったのだった。



 食後、レオナルドはフォルステッドの執務(しつむ)室へと来ていた。

 フォルステッドから事件当日のことを聞きたい、と言われたからだ。

 元々事情聴取(ちょうしゅ)はあると思っていたし、レオナルドとしてもそれはいいのだが……、現在彼は大変戸惑(とまど)っていた。

 なぜなら――――。

「あの……、セレナ?」

「はい。なんですか?」

 呼ばれたセレナリーゼは満面の笑みをレオナルドに向ける。

「え…と、なんで俺の腕を―――?」

 そう。セレナリーゼはレオナルドの腕に自分の腕を(から)めているのだ。それは、当事者ということで一緒に執務室へ移動するときからずっとだった。移動中だけかと思っていたがソファに座っても止めないのはどうしてなのか。

「どうぞ、私のことは気にしないでください」

 満面の笑みだというのに、なぜか有無(うむ)を言わせぬ圧があった。ちょっと怖い。

「あ、はい……」

(セレナってこんなキャラだったっけ!?)

 レオナルドは内心で首を(かし)げる。朝のあれこれもそうだが、ゲームのセレナリーゼというキャラクターとどうにも違う気がするのだ。


 正面に座る二人のやり取りを(だま)って見ていたフォルステッドは咳払(せきばら)いを一つして本題に入ることにした。他には、サバス、騎士を代表してジーク、そしてミレーネも当事者の一人、ということでこの場にいる。

「……レオナルド、あの日、何があったのか聞かせてくれるか?」

「あ、はい。と言っても、俺もよくわかりません。(ぞく)にやられ、すぐに気を失ってしまったので……」

 セレナリーゼのことはとりあえず気にしないことにしたレオナルドは自分の中で何を話し、何を誤魔化(ごまか)すか事前に決めていたため(まよ)うことなく答える。

「そうか……。その賊は逃げ出したのか家屋(かおく)におらず、代わりに魔物が倒れていたということだったな。ジーク、(くだん)の魔物について、レオナルド達にもわかったことを伝えてくれ」

「はっ」

 ジークは部下からの報告、そして実物を見た結果を皆に説明した。と言ってもわかったのはほんの(わず)かなことだけだった。

 死んでいた魔物の名はクラントスと言い、本来なら相当魔素濃度の高い場所にいる強力な魔物で、王都近郊(きんこう)での出現情報は(まった)くない。一体に対して王国騎士が数人がかりで戦うような魔物が二体もどうしてあの場にいたのか現状ではわからない、というものだった。誰にも気づかれず王都内に魔物が侵入(しんにゅう)していたというのも本来ならあり()ないことのため不可解(ふかかい)過ぎる、と。

 そんなに強力な魔物だったのか、と初耳のセレナリーゼとミレーネは、程度の差はあるが、どちらも強張(こわば)った表情をしている。もちろんわかりやすいのはセレナリーゼの方だ。

「レオナルド、お前は魔物がどうやって現れたかを見たか?背中にあった傷は魔物にやられたものだろう?」

「……わかりません。少なくとも気を失う前にはいませんでした。だから意識がない中で攻撃されたんだと思います。だけど俺が起きたらもう倒れていまして。賊もいなくなっているし、今なら逃げられると思って貧民(ひんみん)街を歩いていたところで(みんな)に会いました」

 人間が突然(くる)しみだしたと思ったら魔物に変わったなんて荒唐無稽(こうとうむけい)な話、信じてもらえるとは思えなかった。自分なら一笑(いっしょう)()すだろう。

「……なるほど……誰が倒したのかもわからずじまいか……」

 言いながらフォルステッドはじっとレオナルドを見つめていた。


 レオナルドから新たな情報が出てこず、なぜ魔物がいたのか、魔物を倒したのは誰なのか、賊の目的とその生死、などといったような今回の事件に関する多くの不明点は、結局わからないままで終わってしまうことに少しだけ室内の空気が重たくなってしまった。

お読みくださりありがとうございます。

面白い、続きが気になるなど思ってくださった方、画面下の☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!

【ブックマーク】や《感想》、《イチオシレビュー》も本当に嬉しいです!

モチベーションがとんでもなく上がります!

何卒よろしくお願い致しますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ