人間観察
フレイを加えた四人での昼食が始まった訳だが、レオナルドは何とも言えない居心地の悪さを覚えていた。
端の席に座っているというのに、数多の視線が自分達に向けられているのをはっきりと感じていたからだ。
ただ、フレイは学園でも一二を争うほどの有名人であり、注目されるのも仕方ないことではあると諦めるしかなかった。
「レオがデステさん、ウォーリさんと三人で食事しているのは何度か見かけたことがありましたが、今日はお料理も同じものを食べてるのですね」
そんなレオナルドを気遣った訳ではないのだろうが、フレイから話題を振ってきた。
「今日だけじゃないよ。俺達は初日からいつも日替わりセットを頼んでるんだ」
「まあ。そうなのですか?」
「日替わりは安くて美味いっすから…、な?レオ」
「それに一週間毎日違うものを食べられる楽しみもありますし、ね?レオ君」
「…なんで俺に言うんだよ?」
レオナルドはシドとザンクにジト目を向ける。
(まったく、こいつらは……)
二人がフレイを率先して迎え入れたくせに、明らかに照れているというか、彼女が醸し出すカリスマ性のようなものに気圧されているといった様子なのだ。
前に、女の子を紹介しろとか言っていた勢いはいったいどこに行ったのか。
「ふふっ、それはいいですわね。私も今度頼んでみますわ」
フレイの笑顔に二人はデレデレとするばかりで、まるで借りてきた猫のようにとても大人しかった。
「なあ、フレイ?フレイは何でまた俺達と昼飯を?」
「今はまだ内緒ですわ。レオ達をお待たせしないように食べ終えますので、食後まで待っていてくださいな」
フレイが楽しそうにそんなことを言う。
「…わかった」
彼女に何かトラブルがあったということではなさそうだと安心したレオナルドは、素直に頷くのだった。
それからも主に喋るのはフレイとレオナルドといった状況の中、とうとう四人全員が食べ終わった。
すると、フレイが隣の椅子に置いていた手提げ袋から一つの箱を取り出しテーブルに置くと、
「レオ。お誕生日おめでとうございますわ」
レオナルドを祝福した。
「なんだレオ、誕生日だったのか?おめでとう!」
「おめでとうございます、レオ君。言ってくれればよかったのに」
フレイの言葉にシドとザンクが即座に反応する。
「……あ、ああ。ありがとう。けど、どうしてフレイが俺の誕生日を?」
あまりの驚きにお礼の言葉が遅れてしまった。確かに今日は自分の誕生日だが、知っているはずのないフレイに祝われるなんてそれほど予想外過ぎたのだ。
「セレナリーゼさんが教えてくれたのです。今日がレオの誕生日だと」
「セレナが?」
レオナルドは首を傾げる。自分の誕生日が話題になるなんて、いったいどういう状況なのか。
「はい。それでケーキを焼いてきたのですが食べてくれますか?」
言いながらフレイが箱を開けると、中にはホールのチーズケーキが入っていた。
プロが作ったと言っても通用しそうなその出来映えにシドとザンクから感嘆の声が上がる。
「もちろん、ありがたくいただくよ。ありがとう、フレイ」
「ふふっ、よかったですわ。よろしければ、デステさんとウォーリさんもいかがですか?」
フレイの提案に二人は高速で頷く。
それからフレイは、このときのために用意していたであろう、トレイにあっても食事中使用していなかったナイフと小皿を使ってケーキを切り分け全員に配った。
そして、最初にレオナルドが一口食べ、美味しいと伝えると、フレイは嬉しそうに微笑んだ。
続いてシドとザンクも食べ始める。
「うっめぇ~!」
「本当に美味しいです!」
「ありがとうございます」
「フレイさんは料理が趣味なんすか?歌もすごかったっすよね?あ、フレイさんってお呼びしてもいいっすか?」
緊張が解れたのか、シドが勢い込んで尋ねた。
「もちろんですわ。それからお料理は歌と同じくらい好きですわね」
「料理上手っていいですね。僕もフレイさんのような女性とお近づきになりたいです。レオ君が羨ましいですよ」
「おい。すぐにそういう方向に話を持っていくな。俺達は―――」
「ふふふっ、レオのお友達は面白い方達ですわね」
「……何かごめん。でも、そうだな。付き合いはまだ短いけどいい奴らだよ」
ザンクの言い方がフレイの気に障ったのではないかと思ったレオナルドはすぐに謝罪するが、続けて本心からのフォローも加えた。
ただ、レオナルドの心配は杞憂で、その後も四人はケーキを食べながら、楽しい昼休みを過ごすのだった。
一方、レオナルドとフレイ、二人の様子をそのルベライトのような赤い瞳で横目に見ている者がいた。
(レオナルド=クルームハイト、か……。確か魔力がないってシャルロッテが言ってたわよね。でも……彼はいったい何者なのかしら?)
アドヴァリス帝国第五皇女、シルヴィア=アドヴァリスだ。内心とても注意深く見ていた彼女だが、表情には一切出すことなく、視線を戻した。
(フレイとはいつ関係を築いたというの?それにフレイは何を考えているのかしら?彼女がルクス王子を治癒したと聞いたときは教会の意向で動いてると思ったけれど、そうではないの?それとも―――。何れにせよフレイの動向にはこれからも注意していかないと)
最初からフレイを警戒していたシルヴィア。だが、いつも笑顔を絶やさないフレイが、その下ではいったい何を考えているのか、彼女にも全く読めなかった。
現状、考えてもわからないフレイのことを一旦脇に置き、シルヴィアは一緒に昼休みを過ごしている面々に目を向ける。
(シャルロッテはフレイの行動に興味がないって感じかしら?―――いえ、これはそう振舞ってるだけね。本当にレオナルドのことが嫌いなのね)
シャルロッテがアレクセイを慰めるように話しかけながらも、チラッとレオナルド達を見て、一瞬だけ不機嫌そうな顔になったのをシルヴィアは見逃さなかった。今までのシャルロッテの言動から彼女がレオナルドをどう思っているかはシルヴィアもわかっている。
(で、アレクセイは……、まだちょっと落ち込んでるわね。気が多いという訳ではないみたいだけど、それも仕方ないかのかしら。彼はクラスでも常に中心にいて、今までもそうだったのでしょうし。正直者で正義感の強いところは好感が持てるけど、時々子供っぽいのよね。フレイからレオナルドと食事するって言われて少し顔が引き攣ってたし。ま、そんなところも可愛いらしくはあるのだけど、こんなにわかりやすいのは貴族としてどうなのかしら。でも、間違いなくシャルロッテが目をかけてるし、今はそういった部分も彼女が教育中といったところなのかもしれないわね)
そんなことを考えながらシルヴィアは思わず苦笑してしまいそうになる。
夜会のときシャルロッテに紹介されてから継続的に接してきて、アレクセイの人間性はある程度理解できているつもりだ。アレクセイがわかりやすいというのも大きいが。
それに、アレクセイは魅力的な力も持っている。特に、このムージェスト王国では。だからこそ多くの人間が彼に注目し、きっと彼自身もそうした期待に応えようとしているのだろう。
シャルロッテの態度から彼女が彼の力だけを求めているとは思わないが、無視できるものでもないということはシルヴィアも同意するところだ。
そんなアレクセイだからこそ、シルヴィアは興味を惹かれるし、もっと親しくなりたいとも思っている。
(そしてセレナリーゼは……気が気じゃないって感じね。ふふっ、全く隠せてない。とても妹が兄に向けるものじゃない気がするのだけど、私も同じ状況になったらこんな風になるのかしら?嫌がってる訳じゃないけど、すごく複雑そう)
昼休みだけでなく、学園ではシャルロッテ、アレクセイ、セレナリーゼといつも一緒だ。普段はここにフレイもいる。
実際は、他にも同じクラスの生徒達が何人も一緒にはいるのだが、シルヴィアは特別気にかける人物に彼らを含めていない。
なぜなら、シャルロッテが明確に線引きしているのを感じ取っているからだ。それだけでなく、これまで自分の目でも確認してきた。
(レオナルドはそれぞれの気持ちに気づいてるのかしら?何だかすっごく面白いわね)
そうした中、様々な感情を向けられているレオナルドという人物にシルヴィアは自然と興味が沸いてくる。
(これだけでもここに来た価値があるってものだわ。帝国では同年代の人と関わることなんてほとんどなかったし、毎日が本当に退屈だったもの。私を王国送りにしたことだけは感謝してもいいかもしれないわね)
シルヴィアの口元に小さく自嘲するような笑みが漏れてしまう。
シルヴィアがこんな風に人間観察をするようになったのは、帝国で生きていくために必要だったからだ。そのため、自身の洞察力や見立てにはそれなりの自信を持っている。ただ、今となっては人間観察が趣味のようになってしまっているのを否定できないが。
(でも楽しんでばかりもいられないわ。時間は限られてるんだから……。私は私達の望みを叶えるために―――。絶対に好きなようにはさせないわ)
シルヴィアの瞳には強い決意が宿っていた。
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