昼休み
この日の昼休み、レオナルドはいつものようにシド、ザンクの二人と食堂を訪れていた。
三人の頼むものは決まっており、そのままカウンターに進むと、日替わりセットを注文した。
ちなみに、多くの生徒が利用する食堂だが、この日替わりセットを頼む生徒はあまりいない。なぜならこの食堂で一番安いメニューだからだ。ザンクが言うには、見習いが作っているから安いという噂もあるらしい。
貴族子弟の彼らにとってそれはあまり好ましくないようだ。高位貴族の出である者にとっては特に。
ゲームのレオナルドならば、プライドからいつも最高級のものを食べていただろう。
家格、加えて自身が稼いだお金のことも考えればゲームのレオナルドのようにもっと高いメニューを選ぶことが当然と思えるかもしれないが、今の彼にそのつもりは全くなかった。
初めて食堂のメニューを見た際、レオナルドはなぜか前世の自分がよく食べていたかけうどんを思い出し、それで十分なのにな、とか、学生食堂の定番ちょっと豪華にコロッケうどんがあったら最高だな、なんて思っていたくらいだ。
まあ、ムージェスト王国で食べられている料理は所謂洋食であり、そもそもうどんなんてものはないのだが、それが却ってレオナルドに前世の食事を思い出させたのかもしれない。
ただ、シドとザンクも公爵家の人間が日替わりセット?と疑問に思ったのか、初日に、もっといいものを注文しないのかとレオナルドに訊いていたりする。
そのときレオナルドが答えたのは、贅沢な食事をしたいなんていう欲求は特にないし、日替わりも十分に美味しそうだからというものだった。
そもそもレオナルドは誰か近しい者が関われば別だが、自分のこととなると全然頓着しない。
もしかしたら、これにはレオナルドが前世の記憶を有していることも影響しているのかもしれない。要はレオナルドの味覚、いや価値観が一般人であった前世のものとうまく融合しているということ、そして死ぬ運命に抗うことが至上命題としてあるので、他が疎かになりがちだということだ。
レオナルドはそんな青年に成長していた。
閑話休題。
(やっぱりいたんだ……)
レオナルドは注文を受けてくれた人物―――ライトブラウンの髪に瑠璃色の瞳をした純朴そうな女の子を目で追っていた。
『レオ?あの人間もそうなのですか?』
(ああ。彼女はレイラ。サブヒロインの一人で、アレクの幼馴染だ)
今日まで見かけることがなく、もしかしたらいないのではないかと思っていたが、ゲームどおりちゃんとここで働き始めていたようだ。
『なるほど。それでレオとの関わりは?』
(……平民のレイラは自分に逆らえないだろうって、権力を振りかざしてまで何度もちょっかいをかけて…、最終的にアレクに撃退される。で、その後は全然絡みなしで、別のところで勝手に死ぬ)
言いたくない、けれど説明しない訳にもいかない、レオナルドの話し方にはそんな葛藤が滲んでいた。だってレオナルド自身、ゲームのこととはいえ、レオナルドのこの行動はクズだと思っているから。
『中々最低ですね』
辛辣なステラの言葉がレオナルドの胸に深々と突き刺さる。
(俺じゃなくて、あくまでゲームの話だからな!?)
『わかっていますよ』
(なら、いいけど……。俺は絶対しないから。ゲームみたいにはならないからな?)
『しつこいですよ?ずっと一緒にいるのです。レオがそういう人間でないことくらいわかっていると言っているではありませんか』
(お、おう……)
追加されたステラの言葉が嬉しくもあり照れ臭くもあり、レオナルドは詰まりながら返事をすることしかできなかった。
「お待たせしました!どうぞ、日替わりセットです!」
そこに、カウンターからレイラの元気な声が響いた。
三人はカウンターで受け取った日替わりセットのトレイを持って、空いている端のテーブルに座る。
角席にシド、その隣にザンク、シドの正面の角席にレオナルドといった位置だ。
レオナルドからは食堂のほぼ全体が見渡せる。
早速雑談しながら食べ始めた三人だが、レオナルドは食堂へとやって来たアレクセイが視界に入り、つい目で追ってしまう。彼と一緒に来たのか、近くにはシャルロッテ、シルヴィア、フレイ、セレナリーゼを含め、同じクラスと思われる数人の生徒の姿もある。
カウンターの内側にいたレイラもアレクセイに気づいたようで、その表情がぱあっと明るくなるのがわかった。
二人も今までここで会えていなかったのかもしれない。
レイラが笑顔でアレクセイに何やら話しかけている。
だが、どうしたことだろう。
声なんて聞こえるはずもなく、何を話しているかはわからないが、アレクセイが煩わしいとでも思っているかのように表情を歪め、レイラは沈んだ表情になってしまった。
(?おかしいな……)
そこのことにレオナルドは内心首を傾げた。
『どうしました?』
(あ、いや……。なんかさ、アレクとレイラの様子が変なんだ)
『何が変なのですか?』
(さっきも言ったけど、二人は幼馴染なんだ。平民と男爵家っていう身分差はあるけど、ずっと仲が良いはずで。ゲームでは他のヒロインと仲良くなれなきゃレイラルートに進むってくらい、最初から互いへの好感度がかなり高いんだよ。なのに―――)
レオナルドの視線の先では、哀しげなレイラを残して、アレクセイは他の生徒達と別のカウンターに進んでいってしまった。セレナリーゼやフレイがレイラのことを気にしているのか振り返っている。
(レイラはゲームに近いと思うんだけど、アレクの態度が全然違う気がする。冷たいっていうか、素っ気ないっていうか……)
『なるほど……。以前、レオが言っていた懸念が当たっているのかもしれませんね』
(懸念?)
すぐには何のことかわからず、レオナルドは訊き返した。
ちなみに、アレクセイ達からはすでに視線を外したものの、レオナルドはステラと話しながら食事を続け、シド、ザンクとの会話にも相づちを打つなど、結構器用なことをしている。
『主人公の性格が変わっているという話ですよ。その結果、二人の関係性も変わったのではないかということです』
(ああ、夜会のときのか。でも他のヒロインとはゲーム開始時点の関係性とそんなに違いはない、どころか、何人かはそれより結構仲良くなってると思うんだけど?特にほら、シャルロッテやセレナとはもうずっと前からお茶会をしてるし)
『そこでセレナリーゼの名前を出してしまうところがレオですよね』
(どういう意味だよ?ってか、なんか呆れてないか?)
『そんなことより、レイラという人間は魔力がありませんよね?』
(そんなことって……。まあ、いいけどさ。ステラの言うとおり、レイラには魔力がないよ。でも、それがどうかしたか?)
『アレクセイはあのシャルロッテとかいう人間に毒されたのだと思います』
(毒されたって……)
『あの女は魔力至上主義に傾倒しているようですからね。そんな女と関わり続ければ価値観などといった人間性に大きく影響を受けている可能性は高いでしょう。つまり、少なくともアレクセイからすれば、レイラのことはもう眼中にないのではないかということです』
(……あのさ、もしかしてシャルロッテのことめちゃくちゃ嫌ってる?)
『嫌いですが?』
ステラの底冷えするような声が響く。本気で嫌っているのが伝わってきた。
(そうか……。うん、わかった。たださ、仮にステラの言うとおりだとしても、シャルロッテと付き合いが長いのはセレナも同じだけど、セレナはたぶん魔力至上主義には染まってないぞ?)
『たぶんではなく、絶対ですけどね。そこはさすがに自信を持ってあげたらどうですか?セレナリーゼには確固たる信念があるのでしょうし』
(おう……。なんかすまん。確かに俺への態度を考えてもセレナが染まってる訳ないんだよな。でも、だとしたらだぞ?シャルロッテやアレクと一緒にいるのはセレナにとってあまり楽しいものじゃないんじゃないか?)
『ええ。間違いなくそうでしょうね』
(マジかよ……)
これまでの様々な事柄から、ステラの言うことが正解な気がしたレオナルドは、思わず食事の手を止めてしまった。
そしてセレナリーゼのことを考える。自分が気づいていなかっただけで、今までストレスを溜めていたのではないだろうか。今もゲームと同じような立ち位置だなんて安易に思っていたが、セレナリーゼ自身はどう思っているのだろうか。セレナリーゼが責任感の強い人だということを知っているから余計に大丈夫だろうかと心配になる。迷惑をかけるのは論外だが、何か、自分にできることは――――。
急に固まってしまったレオナルドにシドとザンクは目を見合わせると、
「どうかしましたか?レオ君」
ザンクが窺うように尋ねた。
「っ、いや、悪い悪い。何でもないんだ」
「そうですか?ならいいですけど……」
「ま、大丈夫ならいいさ」
ザンクとシドは苦笑するレオナルドの様子に納得はせずとも、それ以上無理に聞き出そうとはせず、雑談と食事を再開しようとしたそのとき、
「こちらにいらしたのですね、レオ。こんにちは」
レオナルドに声がかけられた。
その声に反応する男子三人。
レオナルド達の座るテーブルの側で立ち止まったのは、料理の載ったトレイと何か四角いものが入っていると思われる手提げ袋を一つ持つフレイだった。
「フレイ?」
意識を分散していたため、レオナルドはフレイの接近に全然気づかなかった。シドとザンクも彼らの背中側からフレイは歩いてきたため、気づきようがなかった。
「レオのお友達の方々も、初めまして。私、フレイ=ルミナストと申しますわ」
「は、初めまして!シド=デステです!」
「ザ、ザンク=ウォーリと申しまぶ!?初めましてですぅ」
突然現れ、ふんわりとした笑顔を向けてくるフレイにシドとザンクは緊張でカチコチになっているようだ。ザンクなんて盛大に噛んでしまって肩を落としている。
「フレイはどうして俺達のところに?一人、なのか?」
そんなシド達を横目に、レオナルドが尋ねる。
「はい、私一人ですわ。レオ、私もお昼をご一緒してよろしいですか?」
「え?」
予想外の申し出にレオナルドはすぐに言葉が出てこない。
「どうぞ、どうぞ!レオの隣が空いてますんで!」
「はい!どうぞ座ってくださいです!」
代わりにシドとザンクが素早く応じた。
「ふふっ、ありがとうございますわ、デステさん、ウォーリさん」
フレイが嬉しそうにお礼を言うと、シドとザンクは揃って照れ始める。
フレイはレオナルドにも一つ微笑むと、彼の隣に座るのだった。
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