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招待

 セレナリーゼ自身、シャルロッテには何度も会ったことがある。

 クルームハイト公爵家には過去、王族の血も入っており、貴族としての地位も最上位だ。

 レオナルドと同じ年に生まれたシャルロッテと親交(しんこう)があるのは自然なことだった。


 ではなぜシャルロッテからの手紙にセレナリーゼは驚いたのか。

 それは今まではすべてレオナルド()てだったからだ。セレナリーゼ宛てに手紙が届いたのは初めてのことだった。


 セレナリーゼは自分の部屋で、シャルロッテからの手紙を読む。

 内容はセレナリーゼが次期当主に決まったことへの祝いの言葉と翌月シャルロッテが主催(しゅさい)するお茶会へ招待(しょうたい)したいというもので、文面の中で、お茶会にはレオナルドも一緒(いっしょ)に、と書かれていた。


 レオナルドのことを(ないがし)ろにしているようで、祝いの言葉を素直(すなお)に受け入れられないセレナリーゼだったが、誘われたのは自分だけではないため、早くレオナルドに伝えに行こうと決めた。

 両親にも知らせる必要はあるが、まずは当事者であるレオナルドに話すべきだと思ったから。


 それに、いくら公爵家の子供と言えど、王女からの誘いを断ることなんてできないし、返事もなるべく早くしなければならない。


 そうしてセレナリーゼは自室を出たのだった。


 レオナルドは勉強が終わった後、鍛錬までの時間を自室で過ごしていると、そこにセレナリーゼがやって来た。

「レオ兄さま、今お時間よろしいですか?」

「大丈夫だよ。どうしたの?セレナ」

「お話したいことがあるのですが……」

 セレナリーゼの表情が少し(くも)っているように見えたレオナルドは、メイドにお茶を頼んでセレナリーゼをテーブルに座らせた。


 それぞれの前に紅茶が置かれ、あらためてレオナルドが問いかける。

「セレナ、話したいことって何かな?」

「……実は……」

 セレナリーゼは簡潔に伝えた。すなわち、第二王女シャルロッテからレオナルドと自分がお茶会に招待されたということだけを。

 シャルロッテがセレナリーゼの次期当主決定を祝ったことは言えなかった。


 一方レオナルドはというと、セレナリーゼの話を聞いて何とも言えない感情に(ふる)えていた。

 第二王女シャルロッテ、それはブレブロのヒロインの一人だからだ。

 レオナルドの中に何度か会った記憶はあるが、ゲーム知識がある今は新たなヒロインの登場にこれまでと違う感情が()いてくる。


 だがいつまでもこの気持ちに(ひた)っている訳にはいかない。目の前ではセレナリーゼがこちらを見つめて言葉を待っている。

「そっか。シャルロッテ様からのお誘いなら行かないとね」

 なるべく平静(へいせい)(よそお)ってレオナルドは答えた。だが、楽しみだという感情は表情に(にじ)み出てしまっている。シャルロッテに会うのは半年以上ぶりだし、今回のことはゲームの回想にもない。つまりはただの日常ということだ。ゲームの展開だと身構(みがま)える必要もなく、これを楽しみに思わないなんて無理な話だろう。

「え?あ、はい。そうですね」

「返事はセレナが書いてくれるってことでいいのかな?」

「はい」

「ありがとう。よろしくね?」

「はい」

 セレナリーゼは思わずぽかんとした表情を浮かべてしまう。

 なぜなら拍子抜(ひょうしぬ)けするほどあっさりと話が進んでセレナリーゼの中は疑問でいっぱいだったからだ。てっきりレオナルドではなく自分に手紙が来たことを不快に感じていると思ったが、そんな様子はなくどうにもレオナルドが嬉しそうなのだ。

 セレナリーゼが危惧(きぐ)していたように、レオナルドが自分のことを蔑ろにされていると感じている様子もない。


 こうして実に簡単にレオナルドの了承(りょうしょう)を得たセレナリーゼは、夕食時に両親にも話した。話を聞いたフォルステッドとフェーリスには一抹(いちまつ)の不安があった。それは今、この時期にシャルロッテが二人を誘った理由についてだ。フォルステッドはちらりとレオナルドを見るが、レオナルドは何も勘付(かんづ)いていないようだ。

 結局フォルステッドは自分の感じている不安について何も言うことはなかった。フォルステッドとフェーリスにしても王女であるシャルロッテからの誘いを断ることなんてできないからだ。


 そしてセレナリーゼはシャルロッテにお茶会参加の返事を書くのだった。



 数日後、王城の一室。

 高貴な身分の者に相応(ふさわ)しい(きら)びやかな室内に一人の少女がいた。真紅(しんく)の髪にペリドットのようなオリーブグリーンの瞳を持つ勝気そうな美少女だ。今度の八月で十一歳になる。

 彼女、シャルロッテは、ちょうど今読み終えたセレナリーゼからの返事の手紙を手に持ち笑みを浮かべていた。

「ふふふっ、よかったぁ。セレナリーゼはちゃんと出席してくれるみたいね。それにレオナルドも」

 シャルロッテは手紙をテーブルに置くと席を立ち、窓へと近づき外を(なが)める。

「これで準備は万端(ばんたん)ね。セレナリーゼがクルームハイト公爵家の次期当主に決まったと聞いて、急いで動いた甲斐(かい)があったわ」

 自分の思った通りに進んでいることに満足しているシャルロッテは、そこで安堵(あんど)の息を()いた。

 レオナルドに魔力がないとわかってもう一年以上が()つ。それなのにずっとレオナルドを次期当主としてきたクルームハイト公爵家。英才教育により父である国王がどれほど頑張っているかをシャルロッテは知っている。だからフォルステッドがレオナルドを次期当主にしたままでいることが正直(しょうじき)我慢(がまん)ならなかった。


「フォルステッド様がようやく決断してくださって本当によかったわ。お父様が必死に国内の戦力を整えているというのに、大貴族である公爵の後継者(こうけいしゃ)があんな無能では話にならないもの」


 シャルロッテに貴族、それも大貴族の後継者のことに関して口出しなどできる訳がないが、レオナルドが次期当主のままだったら、シャルロッテはこれまでとは違い、今後はセレナリーゼとだけ親交を深めていくつもりだった。王族と公爵家は良好な関係を(きず)いていかなければならないが、王家としてはセレナリーゼを()しているのだと示すために。自分がそうすることが父の助けになると信じていたから。

 でもそんな考えは必要なくなった。これからは普通にセレナリーゼと親交を深めていけばいい状況になったのだ。


「後、(わたくし)にできることはレオナルドが変な考えを持たないように心を折ること……」

 シャルロッテがセレナリーゼのことを好ましく思っているのは事実だが、別にレオナルド個人を嫌いな訳ではない。だが、公爵家の跡取りとして魔力がないというのはそれだけで罪なのだ。間違いなくセレナリーゼの方が適任(てきにん)であろう。

 最後に会ったときのレオナルドは思い()めたような少し(よど)んだ目をしていた。レオナルド自身、自分が不適格だと自覚し、いつかこんな日が来ると(おび)えていたのかもしれない。


 だから今のままではまだ安心できない。今後、やっぱり自分が、とレオナルドが言い出さないように、レオナルドの野心を徹底的(てっていてき)(つぶ)さなければならない。

 そのために今回のお茶会を急きょ決めたのだ。王女である自分が持つ人脈や権限を最大限活用して。


「申し訳ないですが、今度のお茶会の日、レオナルドには(みじ)めな思いをしてもらいますわ」

 幼い頃から知っている相手ではあるが、シャルロッテは子供ながらに第二王女として、王国のために今の自分にできることを真剣に考え、今回の計画を実行することに決めたのだった。

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