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鈍感

「それで、お話というのは何でしょうか?フローラ陛下」

 近くに人がいないことを確認してレオナルドから口を開いた。ここなら誰かに聞かれる心配はないだろう。二人の足が止まる。

「…ねえ、レオ。ルクスも言ってたけど、いつの間にフレイさんとあんなに仲良くなったの?」

 フローラは星空を見上げながらそんなことを()いてきた。

「仲良くなったと言われましても……。フレイとは今日の夜会の前に一度だけ会ったことがあるというだけですよ」

 それが話したいことだったのか?と疑問に思いながらもレオナルドは隠すことではないため事実を答える。

「そっか……。そう言えば、レオはミレーネの身に起きたこと……ご両親のこととか、すべて知っているんでしょう?」

「え?ええ、まあ。母から聞いたんですか?」

 脈絡(みゃくらく)のないフローラの言葉にレオナルドは首を(ひね)る。するとフローラは星空からレオナルドへとその顔を向けた。

「うん、そう。ミレーネは私なんかに謝られても不快なだけだろうから何も言えないけれど……ごめんなさい。国のごたごたに巻き込んでしまって。ううん、それだけじゃないわね。少し前にもイリシェイムとクルエール公爵達の子供が迷惑をかけてしまって。……ミレーネとダンスをしているレオを見て、二人の間に強い絆みたいなものを感じて、レオには謝らせてほしかったの。まあ私の自己満足なんだけどね」

「フローラ陛下……」

 悲しそうにそう語るフローラに、レオナルドは何と言ったらいいかわからなかった。すると、フローラは過度に明るい表情と声で言葉を続けた。


「でもびっくりしちゃったわよ。イリシェイムまで出てきた揉め事をレオが解決したんでしょう?いったいどうやったの?クルエール公爵が完璧に情報を隠してるから私でもわからないのよ」

「いや、それはまぁ……」

 レオナルドは答えに(きゅう)して言葉を(にご)す。

「って、ごめんごめん。私が言うと命令になっちゃうわね。レオに無理やり言わせたい訳じゃないの。フェーリス達も詳しくは知らないようだったからちょっと気になっただけで。私はシャルから揉め事が起きたことを聞いても、何もできない肩書だけの人間だから……」

 レオナルドの様子を見て、フローラは取り(つくろ)うように言葉を並べた後、自虐的な笑みを浮かべしゅんとなってしまった。その姿は、レオナルドよりも年上で、大人なはずなのにまるで小動物のようだった。

 少し幼くも感じるフローラのころころ変わる表情や口調は心を開いている相手に対してだけ見せるものだということをレオナルドは知っている。ゲーム知識からも、そしてレオナルドのまだ短い人生経験からも。だからレオナルドも本音を話すことを決め、真っ直ぐな目を向けた。


「……フローラ()()()が気に病むことではないですよ。悪いのは制御できない、しようともしない国王です。爵位という身分差を使った暴挙も、魔力至上主義による差別も、それらが合わさったときに助長される悪行も、この国が抱える負の側面そのものですから。国王がそれを良しとしている以上、どれもが今後もいつどこで起きてもおかしくないこの国の日常です」

 国への批判としか(とら)えようのないことをレオナルドが告げたため、フローラは目を見開く。

「レオ……?」

「あっ、だから、えっと俺が言いたかったのは、フローラ姉さんが悪いなんて本当に思ってないので、あまり抱え込んで心を痛めないでほしいな、ってことで。つまり……」

 レオナルドはあたふたと焦ってしまう。フローラの驚く顔を見て、しまったと思ったのだ。だが、もう遅い。フローラに対し、本音を話そうと思ったのは事実だし、一番伝えたかったことはフローラは悪くないということなのだが、その理由付けで話してしまった自分の考えは決して王妃という身分の人に言っていい内容ではなかったから。

「あなた……。ふ、ふふふっ。なぁに、レオ。私のこと(なぐさ)めてくれてるの?」

 だが、レオナルドの慌てる様を見て、フローラは可笑(おか)しそうに笑いだした。内容について言及する気配はない。

「い、いえ。俺はただフローラ姉さんの悲しそうな顔を見たくなかっただけで……」

「もしかして私のこと口説(くど)いてるのかしら?それとも無自覚?」

「は!?そ、そんなつもりはありませんよ!?揶揄(からか)わないでください!」

「あら、それは残念。でも、ありがとう。レオのおかげで元気になったわ。ふふっ、レオみたいな男の子が(そば)にいればミレーネも安心ね」

 折角(せっかく)上手くまとめてくれたフローラの言葉に、しかしレオナルドは素直に(うなず)くことができなかった。

「それは…どうでしょうか。ミレーネがどれだけ辛い想いを抱えているか……本当のところは俺にもわかりません。ただ…、過去は変えることはできないけど、未来なら。俺にどれだけのことができるかわかりませんが、その辛さを少しでも(いや)せるように、ミレーネのこれからの人生が幸せでいっぱいのものになるように、俺は全力を尽くすつもりです」


 レオナルドのあまりにも真剣な眼差しにしばし言葉を失くしたフローラはハッと我に返ると微笑(ほほえ)んだ。

「……レオは本当にミレーネのことが大切なのね」

「もちろんです」

「セレナのことも?」

「?もちろんです」

「ふふっ、それは二人のことが女の子として好きってこと?」

「もち……っ、は!?い、いえ。別に俺はそういう訳じゃ!?ただ…そう、家族として大切に想ってるってことで……。だから…その……」

「そっか、そっか。それじゃあこれからも頑張らないとね、男の子?」

「……意味がよくわかりません」

 また揶揄われたとちょっぴり()ねた様子のレオナルドを見ながら、フローラは一(しき)りクスクス笑っていた。


「ん~!レオにまた姉さんって呼んでもらえたし、今日はこうして話せてよかった。ありがとう、レオ。あまり長居してもいけないからこれが最後ね。というか本当はこれを伝えたかったの」

「何ですか?」

 フローラはここで一度深く息を吐き、

「レオ、この国に負けないで。()み込まれないで。レオは自分の信じた道を進んで幸せになるのよ」

 言い終えると笑みを浮かべた。

「フローラ姉さん?」

 フローラのその笑みがとても(はかな)いものに見えて、気になったレオナルドだが、フローラはすぐに表情を元に戻した。

「さ、戻りましょう?いつまでもレオを独占してちゃ彼女達に悪いものね」

「え?」

 フローラの視線を辿(たど)れば、そこには自分達のことを気にしているセレナリーゼ達がいた。

 誤魔化(ごまか)されたような気がしないでもないが、フローラにもう話すつもりがないことはわかる。二人はそのまま会場へと戻った。


 その後すぐ、フローラとルクスはレオナルド達から離れていき、レオナルドは、結局夜会の終わりまでセレナリーゼ、ミレーネ、フレイの三人と一緒に過ごすことになった。

 その間、彼女達を誘いに何人もやって来たが、三人が三人ともそれらをなるべく角が立たないよう丁重(ていちょう)に、けれどしっかりと断った。

 自分が断らせている訳ではないので、そんな恨みがましい目を向けないでほしいと思うレオナルド。しかもその中にはアレクセイも含まれており、一瞬レオナルドのことをキッと(にら)みつけてきたのだ。そのときのアレクセイの態度にレオナルドは首を(かし)げることになった。

(アレクってあんな奴だったっけ?もっとこう分け(へだ)てなくみんなと接する友達思いの鈍感系って感じのはずじゃあ……)

『レオが鈍感などと……。どの口が言っているのでしょうね』

 馬鹿にしたようなステラの声。それはしっかりとレオナルドに伝わっており怪訝(けげん)な反応になる。その言い方では自分も鈍感みたいではないか。

(どういう意味だよ?)

『まあそんなことはいいです』

釈然(しゃくぜん)としないんだが?)

『それよりも主人公の性格が変わっているということですか?』

(……はぁ、まあいいや。ん~それはどうなんだろう?正直まだよくわかんないな……)

『そうですか。ではこれもおいおい、ですね』

(ああ。なんか俺らの目指す先って本当問題山積みだな)

『それでも、自分にできることを精一杯頑張っていくだけ、なのでしょう?』

(っ!?…ははっ。だな)

 ついさっき自分で言った言葉をステラに言われて、レオナルドは気恥ずかしそうに、けれどその通りだと頷くのだった。


 こうして夜会は終わり、フォルステッド、フェーリスの二人とも合流し会場を後にしようとしたレオナルドは、人がいなくなった料理の並ぶエリアで、とある人物が目に入った。今一瞬目が合ったような気がしたが、すぐに視線は外れたため、どうやら偶然か気のせいのようだ。未だワインをボトルで確保しながら一心不乱に食べては飲んでを続けている。

(ステラ。もう一人サブヒロインを見つけた)

 レオナルドが呆れているかのようにステラに伝える。その表情もジト目になっていた。

『今さらですか?』

(ずっと人に隠れてて見えなかったんだよ。ほら、あそこでまだ酒飲んで飯食ってる女性(ひと)

『?何を言っているんですか、レオ。あれは子供じゃないですか』

 そこにいたのはイエローブラウンの髪にカーネリアンのようなオレンジ色の瞳をした―――身長も体型も子供にしか見えない女性だった。

(あの人は合法ロ…いや、何でもない。ゲームによくある属性の一つだと思ってくれ。見た目は子供、頭脳は大人。その名はアリシア=ワーヘイツ、なんてな)

『はぁ、そうですか』

 前世の記憶にある有名な台詞(せりふ)をもじったのだが、ステラの気のない返事に、レオナルドは何だか猛烈に恥ずかしくなり説明を続けた。

(……ああ見えてとっくに成人してるし、王立学園の教師なんだよ。ゲーム通りなら主人公達の担任になるはずだ)

『あれが教師ですか。なるほど。わかりました』

 レオナルドは最後の最後にもう一人サブヒロインについてステラと情報共有することができた。


 色々とあった夜会だが、帰りの道中、馬車の中でセレナリーゼとミレーネがフェーリスと楽しそうに夜会の話をしているのを見て、二人のエスコート役を何とか全うできたようだとほっと安堵するレオナルドだった。

お読みくださりありがとうございます。三章本編はこれにて終わりとなります。このあとは幕間をいくつか(予定)はさんで、第四章となります。

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