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ダンスの時間②

「ありがとうございました、レオ兄様!とっても楽しかったです!」

「俺もだよ。すごく楽しかった。ありがとう、セレナ」


 一曲目が終わり、二人は待機場所へと戻る。

 そこではもちろんミレーネが待っていた…のだが、一人ではなくまさかのフレイと一緒にいて二人で談笑していた。

「ミレーネ。待たせてごめん」

「レオナルド様、セレナリーゼ様。いえ、そのようなことは」

「フレイもここで待っててくれたのか?」

「はい!こちらにミレーネさんをお見かけしましたのでレオが踊っている間お話していました。レオとお約束しましたし、他の方からのお誘いをお断りし続けるのも申し訳ありませんでしたから」

「あ~…なるほど。はははっ……」

 少し困ったような表情でフレイが言った理由を聞いて、レオナルドから乾いた笑いがこぼれる。

 フレイ達と合流してから自分に対し負の感情たっぷりの数多(あまた)の視線が向けられている意味がわかったから。この(ねた)(そね)みは甘んじて受け入れるしかないだろう。


「レオ兄様。そろそろ次の曲が始まってしまいますよ?」

「あ、ああ。そうだな」

 セレナリーゼに促されたレオナルドは気を取り直してミレーネを誘った。


 レオナルドと二人でダンススペースに立ったミレーネの緊張はすごいことになっていた。自分の分のドレスを用意していただいたときからダンスの練習を始めたが、正直あまり自信はない。けど緊張の理由は他にあった。


 レオナルドと見つめ合う。ミレーネの視線は少し上を向く。いつの間にかレオナルドの方が背が高くなっていたから。それだけ成長したのだ。より男性らしくなったし、よりかっこよくなった。

 そんなレオナルドとこうしていられる日が来るなんて本当に思ってもみなかったから。


 ミレーネが緊張していることを察したのかレオナルドが気遣うように優しく微笑む。その表情にミレーネの胸は高鳴った。レオナルドはズルいのだ。こちらの気持ちになんて気づいてもいないのに、こうして自然と心を揺さぶってくる。それがまた嬉しいのだから本当にズルい。


 そして、レオナルドとミレーネはホールドを組んで互いの身体を密着させた。密着という意味では二人で空を飛んだり膝枕したりしているのに、それらとはまた全然違って感じる。二人きりじゃないからなのか、何というかすごく気恥ずかしい。


 すぐに二曲目の演奏が始まった。


 ちなみに、今回はアドヴァリス帝国第五皇女のシルヴィアが最初の相手として第一王子のイリシェイムと踊っていた。とは言っても完全に政略的な組み合わせで、両国の親交のためという理由以外には何もないと言っていいほど互いに大人な対応だった。


 閑話休題(それはともかく)


 レオナルドとミレーネがゆっくりステップを刻み始める。セレナリーゼのときよりもゆったりした動きに見えるのはレオナルドが簡単なステップにしているからだ。どうもミレーネの緊張をダンスに対するものだと解釈したらしい。緊張を(ほぐ)すためか、レオナルドが積極的に話しかけてくれて踊りながら言葉を交わす。


 確かにダンスの自信もなかったミレーネは、しかしこれくらいのステップであれば何も問題はなかったため、徐々に心に余裕が生まれ、折角のこの機会、緊張ばかりしていたら勿体(もったい)ないと、レオナルドとのダンスそのものを楽しむことにした。

 今は自分がメイドであるということも忘れて。嬉しいドキドキはダンスが終わるまで収まりそうにないけれど。

 周囲にたくさん人がいても今はレオナルドと二人きりの時間を心ゆくまで楽しみたい。


 そうしてダンスにもある程度慣れてきた頃、ミレーネは気になっていたことを()いた。

「フレイ様にお聞きしました。レオナルド様に助けていただいたと。今度はどちらまで飛んで行かれていたのですか?」

「ははは。ミレーネにはそりゃわかるよな。あのときはちょっとオルミナス王国に行っててさ。そしたら偶然フレイの乗る馬車が襲われているところを見つけてね」

 フレイは聖女だ。彼女が乗る馬車ならば当然護衛もいたはず。それなのにレオナルドが助けたということは本当に窮地だったのだろう。

 レオナルドはそれを何でもないことのように救ってしまうのだ。

「お力をお見せになったのですか?」

「いや。さすがにそれはな。でも教会騎士が三人もいて負けた相手だし、俺に何かあることは気づかれてるよ」

 それだけの力を持っていながら一切(おご)ることなく、これほど優しい男性は今日話した中に一人もいなかった。というよりもこんな人、他にはいないとミレーネは思っている。フレイも自分のようにレオナルドの優しさに触れたのだろうかと考え、先ほどまで話していたフレイを思い出し、きっと触れたのだろうなと(なか)ば確信する。

 魔力がないなんていう一面だけでレオナルドを否定する者達にはわかる日など来ないのだろうが。って、いけないいけない。これを考えるとまた怒りが湧いてきてしまう。今は嫌なことに心を割きたくない。この時間を楽しむのだ。

「それは…大丈夫なのですか?」

「ああ。フレイは誰にも話さないって言ってくれたし、それは信じられると思う」

「そうですか……」

 ミレーネはほっと息を吐く。

「心配してくれてありがとう、ミレーネ」

「い、いえ……」

 ミレーネは頬が熱くなるのを感じた。

 安堵の息を吐いたのは、そして今言葉に詰まってしまったのは心配以外の気持ちがミレーネの中にあったから。自分だけがレオナルドの力のことを教えてもらえて知っている、それがすごく特別なことのように感じられてただ嬉しかったのだ。

 こんなことでこんな気持ちになるなんて昔の自分に言ってもきっと信じないだろう。

 レオナルドへの気持ちを自覚してからというもの、自分自身のことなのに気づかされることがすごく多い。


「レオナルド様は人(たら)しですね」

 それは少し恨みがましい声になってしまったかもしれない。セレナリーゼと自分、それとまだはっきりとはわからないが、もしかしたらフレイも。十分人誑しと言っていいと思う。

「俺が?」

 一方、言われたレオナルドは目を見開く。悪役令息が人誑しとはいったい……。今日だって多くの人から(さげす)まれていることを知って、四月からの学校生活に暗雲が(ただよ)っているというのに。

「はい。ですが、私はとても素敵だと思いますよ。ふふふっ」

 本心からの言葉を最後にわざとらしく笑うことで誤魔化(ごまか)すミレーネ。

「何だかなぁ」

 レオナルドはいつものように揶揄(からか)われたと受け取ったようで苦笑を浮かべた。


 それからも二人は互いだけをその瞳に映し、一曲の短い時間、ダンスという二人の世界を満喫するのだった。


 続いて、レオナルドとフレイがダンススペースに立った。レオナルドは連続で踊りっぱなしだというのに全く疲れた様子が見えない。普段から鍛えている賜物(たまもの)だった。

 ただ、フレイとホールドを組む際、レオナルドは今までで一番緊張していて動きが硬かった。出会ったのだって数か月前、話したのも今日で二度目の相手なのだからそれも仕方のないことだろう。

 むしろフレイに全く緊張の色が見えないことがレオナルドには驚きだった。すごく自然体で本当に嬉しそうに、そして楽しそうに笑っているのだ。まるでこの時間を心待ちにしていたかのように。

 不思議なことに、そんなフレイを見ていたらレオナルドの身体から自然と余計な力が抜けていった。


 そして三曲目の演奏が始まった。

 今回のダンスはレオナルドとフレイの二人が観衆の注目を、それも主に二種類の注目を一身に集めていた。フレイが三曲目にして初めて踊るということで正の注目を、その相手がレオナルドということで負の注目をといったところだ。


 だが、レオナルドはもうそういった視線をある程度割り切っているし、フレイはそんな視線が集まっていることなど最初から気にしていない様子で、二人は互いだけに集中する。

 フレイの実力を知らなかったレオナルドだが、そんな心配は杞憂(きゆう)だと踊り始めてすぐにわかった。というか、ホールドを組んだときから大丈夫だろうと思っていたのが実際に大丈夫だと確信したと言った方が正しい。


 それに、彼らはまだ互いについて知らないことばかりだ。だからこそだろう。

「この間はオルミナス王国でしたけど、レオは色々なところに行かれているのですか?」

「ん~そうだなぁ。一人でならあのときみたいに他国まで行ったりすることもたまにあるけど、基本的には王国内を色々行ってる、かな。俺はいろんな意味で身軽だからさ。まあ家族には内緒なんだけどな。近場ならセレナやミレーネと出かけることもあるよ」

「ふふっ、いいですわね。(わたくし)もこちらにいる間、色々なところに行ってみたいですわ」

「それなら、詳しいって程じゃないからあれかもだけど、もし俺でよければいつでも案内するよ。って言っても学園があるうちは王都ぐらいしか出かけられないかもしれないけどさ。長期休暇中なら色々行けるかなぁ。あ、後、遠出って意味なら学園で修学旅行もあるよ」

 レオナルドが深く考えることなく口にするとフレイはにっこりと笑った。

「ありがとうございます。これからが本当に楽しみですわ」

「ああ。折角留学してるんだし、目一杯楽しまなきゃな」

「はい!」


「フレイってさ、子供達と歌うこと以外ではどんなことが好きなのかな?何してるときが楽しい?」

「そうですわね。私はお花を育てたり、お料理をしたりするのが好きですわ。お料理は時々お父様に食べていただくくらいですけれど……」

「へぇ。いいなぁそういうの。素敵だなって思う。まあ、俺もそういう穏やかな時間を好きってだけなんだけどさ」

「ふふっ、レオとは趣味が合いますわね」


 こんな風にダンス中とりとめのない話が途切れることはなかった。


 二人にしか聞こえない声でずっとお喋りを続け、笑顔が絶えないレオナルドとフレイのダンスは観衆に様々な憶測を呼んだが、当の本人達はただただ純粋に演奏が終わるまでの時間を楽しむのだった。

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