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夜会の始まり

 王城の出入口前は多くの人々で(にぎ)わっていた。


 そこは、中央に立派な噴水(ふんすい)がある円形の広い空間になっており、列になった馬車が城の兵士によって三か所に分かれた停車場にそれぞれ誘導されている。そこで馬車を止めると、夜会出席者達が馬車を降り、続々と城内に入っていく。そして室内が空っぽになった馬車はすぐに待機場所へと移動を開始する。

 先ほどから途切れることなくずっとこれが繰り返されていた。


 そんな中到着したレオナルド達の乗る馬車はほとんど待たされることなく一つの停車場に案内された。

 どうも馬車の家紋から身分によって三か所のどこに割り振るかが決まっているようでこの停車場の使用頻度(ひんど)が一番少ない。


 馬車から降りたレオナルドは順番にセレナリーゼとミレーネに手のひらを差し出して二人の降車を補助する。エスコートはすでに始まっているのだ。

 フェーリスの手はもちろんフォルステッドが取った。


 そのままセレナリーゼとミレーネの二人はそっと自身の手をレオナルドの腕に()える。こうしてレオナルドはまさしく両手に花といった形で城内に入っていった。


「おおぉ……」

 夜会会場である大ホールに入ったレオナルドは思わず感嘆(かんたん)の声を()らす。

 床にはふかふかの絨毯(じゅうたん)が敷かれており、天井には光を発生させる魔道具を使った華美(かび)なシャンデリアが飾られている。壁にも豪華な装飾が施されており、まるでホール全体で王の権威を誇示(こじ)しているような場所だった。

 そこに来年度入学する自分達、今年度一学年の先輩達、教師陣といった学園関係者とそれらの家族合わせて千人を超える人達がいるのだ。

 それでも出席者の三倍は軽く入るだろう大ホールには本日予定されているダンスをするのに十分な余裕がある。


「すごい人数ですね、レオ兄様。それに会場もすごく華やかです」

「あ、ああ。そうだな」

 可愛いものを見るようにして優しく微笑(ほほえ)むセレナリーゼにレオナルドは羞恥(しゅうち)を覚えた。どうやら彼女にはこの場の雰囲気に圧倒されたことがバレバレだったようだ。

「やはり私が参加していいようなものでは……」

 一方、ミレーネは気持ちが萎縮(いしゅく)してしまっていた。嫌ということではなさそうで、ただただ申し訳なさそうにしている。

「そんなことないって。馬車の中で母上も言ってたじゃないか。今日は目一杯楽しんで、って。それに、ミレーネもセレナもこの会場にぴったりなくらい本当に綺麗(きれい)だから」

 レオナルドがさらっと()め言葉を言うものだから再び照れてしまうセレナリーゼとミレーネだった。


 始まるまではとりあえず家族で集まっていればいいようで、レオナルド達も一か所に(まと)まって夜会の開始を待っている。


(この中に主人公達がいるのか……)

 その間、レオナルドは会場に集まっている人々をぼんやり(なが)めながらそんなことを思う。

 人が多すぎてまだ見つけられていないが、ここにはゲームの登場人物がほとんどいるはずだ。

『今後のためにも主要な登場人物は把握(はあく)しておきたいですね』

(それはいいけど、たぶんほとんど俺との関りはないぞ?)

 すべてのルートで殺されるレオナルドだが、本筋(ほんすじ)とは関係なく他国や王国騎士、魔物に殺されたことが語られるだけのルートもあるのだ。というか、そういうパターンの方が実際多かった。所詮(しょせん)レオナルドは脇役の悪役令息、ラスボスにまでなるのは(まれ)で主人公達にとっては基本的にただの邪魔者だから。

『わかっています。それならそれで構いません。注意しなければならない対象なんて少ない方がいいですから』

(わかった。夜会中に見つけたらちゃんと伝えるよ)

『はい』


 すると、

「国王陛下、そして王族の皆様、御入来!」

 司会役の文官貴族が高らかに宣言した。ざわざわしていた会場が一気にしんと静まりかえり、誰もが顔を()せてその登場を待つ。


 直後、ホール上層階の扉が(おもむろ)に開いた。

 現れたのは六人。彼らは上層階からホール一階に続く幅広の階段前で立ち止まる。

「国王陛下からのお言葉です!一同、(おもて)を上げるように!」

 司会役の貴族が国王の言葉を代わりに伝えると、全員が視線を上層階にやる。


 中心にいる真紅の髪をした男性がムージェスト王国国王、ジャガン=ムージェスト。

 国王の右隣には、青みがかった白髪の女性、第一正妃、フローラ=ムージェスト。ペリドットのようなオリーブグリーンの瞳をしており、シャルロッテの瞳は母親からの遺伝だとわかる。

 彼ら二人に(はさ)まれるようにして本日の主役であるシャルロッテがいる。

 そしてフローラの右隣には真紅の髪をした青年、第二王子、ルクス=ムージェストの姿もあった。病に(かか)っているという話だったが、夜会に出席できる程度には回復したのだろうか。


 一方、国王の左隣には、ライトグリーンの髪をした女性、第二正妃、ミザリー=ムージェストが、さらにその隣には第一王子のイリシェイムが並んでいる。


 二人の正妃とその子供が勢揃(せいぞろ)いということだ。ちなみに、ミザリーの娘である第一王女はすでに他国に(とつ)いでいるためこの場にはいない。


 彼らに視線を向けながらレオナルドが早速ステラに語る。

(ステラ。真ん中にいる真紅の髪の女の子がシャルロッテ第二王女だ。そしてその隣にいる白髪の女性がフローラ王妃。シャルロッテ様の母親でサブヒロインの一人だ)

『ほう……。母娘で、ですか』

(俺が決めたことじゃないんだからそんな(あき)れた声出さないでくれよ……)


「皆、今日はよくぞ集まってくれた」

 ジャガンが上層階の高みから全体を見渡しながら()げた。


「この場にいる者達は来年度王立学園に入学する第二王女のシャルロッテと学園で共に過ごすことになる」

 シャルロッテがジャガンの言葉に(こた)えるようにカーテシーをする。

「だが、学園では王族といえど一学生だ。学園内で身分を持ち出すことはない。知っての通り、我が国は魔力による実力主義だからだ。それは学園の理念にも表れている。諸君(しょくん)らには学園生活において、ぜひ見識を広め、実力を高めてもらいたい。しかし、学園で初めて王族と接することになる者も多いだろう。それにより諸君らの学園生活に支障をきたすことは余の望むところではない。だからこそ、王族が入学する前には、こうした場を(もう)けることになっている。緊張もあるだろうが、互いに有意義な学園生活となるよう今日は存分に親交を深めてもらいたい」


『随分と高尚(こうしょう)な言い様ですね』

(ああ。けど実際は学園でも身分差は存在する。(たと)えば下級貴族から王族に()れ馴れしく話しかけるなんてことはまずあり得ない。結局これは王族が自由に動けるようにするためのものだよ。王族に気に入られた者は(した)しくすることを許すって感じだな。まあ、後は俺みたいに魔力量が底辺の者は家柄だけでどうにかなると思うなよっていう意味も含まれてるのかもな)

 ステラが(とげ)のある言い方をしたので、レオナルドはつい微苦笑が漏れてしまった。ただレオナルドの説明も少々辛辣(しんらつ)ではあるが。


「そして、だ。ここで皆に二人の人物を紹介したい」

 ジャガンの言葉で、上層階の扉から二人の人物が姿を現した。

 ジャガンとシャルロッテを(のぞ)く王族が少しだけ両脇に移動し、そのスペースに二人が並び立つ。

 その姿を見てレオナルドは息を()んだ。ここでもう出てくるのか、と。


「彼女は、アドヴァリス帝国の第五皇女であるシルヴィア=アドヴァリス皇女だ」

 ジャガンに紹介された薄紫色の髪にルベライトのような赤い瞳の美少女、髪色と同じ薄紫色のドレスを着たシルヴィアがカーテシーをする。

(…ステラ。このシルヴィアもヒロインの一人だ)

『わかりました』

「そして、こちらの彼女は、聖教における今代の聖女、フレイ=ルミナスト殿だ」

 続いて紹介された淡いピンク色のドレスを着たフレイもふんわりとした笑みを浮かべながらカーテシーをする。

「今回、アドヴァリス帝国とエヴァンジュール神聖国が余の呼びかけに応えてくれてな。彼女達は来年度から王立学園に留学することが決まった。諸君らと共に学園生活を送るのだ。当然学園の理念についても理解をもらっている」

 ジャガンが上機嫌に告げると、会場全体でどよめきが起きた。子供達だけではなく、大人達にとってもそれほど彼女達の留学は予想外の驚くべき事柄だったのだ。

(やっぱそういうことだよな……)

 ただ一人、レオナルドだけを除いて。

『ゲーム通りですね』

(ああ)


「以上だ。では今宵(こよい)の夜会を存分に楽しむがよい」

 ジャガンによる()めの言葉で、いよいよ夜会が正式に始まった。

お読みくださりありがとうございます。またまた登場人物が一気に増えてしまいました(>_<)夜会中にもっと増えそうです……。そろそろ登場人物一覧みたいなもの作った方がいいのかなと悩み中です。

面白い、続きが気になるなど思ってくださった方、画面下の☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!

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何卒よろしくお願い致しますm(__)m

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