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夜会当日

 日々は過ぎていき、とうとう夜会の日がやって来た。


 自室にて、髪を整え正装に着替え終えたレオナルドは自分で()れた紅茶を一口飲んで満足げに笑った。

(うん、上出来(じょうでき)かな)

 少しずつ自分でできることを増やしているレオナルド。紅茶の腕前も自分なりに満足できるくらいには上達しているようだ。

 レオナルドがこうして自室に(とど)まっているのはセレナリーゼにここで待っていてほしいと言われたからだ。

 そのセレナリーゼはというとレオナルドが着替え始める前からミレーネを連れて準備中である。女の子の準備には時間がかかるのだ。


 それからどれくらいの時間が経っただろうか。

 レオナルドがティーポットの紅茶をゆっくりとすべて飲み終えた頃、扉がノックされた。

 セレナリーゼが来たのだろうと思いレオナルドが返事をすると、扉が開き室内にセレナリーゼ、そしてミレーネが入ってきた。


 予想通りの人物が入ってきたというのに、レオナルドは目を見開き固まってしまう。


 黄色のドレスを着ているセレナリーゼ。

 金糸を使い、金の小さな(かざ)りもふんだんに(ほどこ)されておりキラキラと輝いている。可愛(かわい)らしくありつつも華麗(かれい)(よそお)いだ。


 そして青色のドレスを着ているミレーネ。

 銀糸を使い、サファイアだろうか青く(きら)めく小さな飾りが散りばめられている。大人っぽく優艶(ゆうえん)な装いだった。


 セレナリーゼだけでなくミレーネも着飾っていることにレオナルドは驚きを隠せない。二人とも髪をアップにしていることも新鮮だった。

 有り(てい)に言えば、レオナルドは着飾った二人に見()れていた。


 その視線に気づいたセレナリーゼが微笑ほほえむと、

「いかがですか?レオ兄様。お母様と三人で選んできたドレスなのですが」

 スカート部分を軽く持ち感想を求めた。最初に見せるためにレオナルドにはここで待っていてもらったのだ。

 レオナルドの正装を買う際はフェーリス、セレナリーゼ、ミレーネが同行し、散々着せ替え人形と化し疲れ果てたレオナルドだが、セレナリーゼのドレス選びには同行していない。

 レオナルドとしては自分からドレス選びに同行しようなんて思っていなかったのだが、セレナリーゼが「レオ兄様にはまだ内緒です。当日を楽しみにしててくださいね」と茶目っ気たっぷりの笑顔で言ってきたのだ。

 そのときにセレナリーゼのドレスだけでなく、ミレーネのドレスも購入していた。当時、ミレーネは全くの初耳の話に(おそ)れ多いと断ろうとしたのだが、フェーリスとセレナリーゼの二人に説得された形だ。


 だからレオナルドにとってこのドレス姿の彼女達を見るのは初めてだったりする。


「え!?あ、いや、えっと……」

 セレナリーゼの言葉で現実に戻ってきたレオナルドだが、テンパってしまってすぐに言葉が出てこない。

「セレナリーゼ様。やはり私などにこのようなドレスは(ぶん)不相応(ふそうおう)です……」

 レオナルドの反応をどう解釈したのか、夜会当日ですでに着替えも終えたというのに、ミレーネがチラチラとレオナルドに視線をやりながら(ほほ)を赤らめ消え入りそうな声でセレナリーゼに訴えた。こんなに弱弱しくもじもじしているミレーネは実に(めずら)しい。使用人なのにドレスを着ていることを余程恥ずかしく思っているようだ。

「今さら何を言ってるんですか?ミレーネ。もっと自信を持ってください。すっごく似合っていますから!」

「ですが……」

「もう。レオ兄様が早く感想を言ってくださらないからですよ」

「っ!?ご、ごめん!……二人ともすごく似合ってるよ。本当に綺麗(きれい)だ」

 このタイミングで自分に振られるとは思っていなかったレオナルドだが、()れながらも心からの言葉を二人に(おく)った。


 それが正しく伝わったのだろう。

「「あ、ありがとうございます……」」

 言われた二人も照れてしまった。

「う、うん……」


 三人の間に(しば)し何とも言えない甘い空気が流れる。

 だが、それにうんざりしたのか、

『はぁ……。レオ、いったいいつまでそうしているつもりですか?』

 ステラの(あき)れたような声がレオナルドの頭に響いた。

(お、おう。そうだな)

 レオナルドが再起動する。


「それはそうと、ドレスを着てるってことはミレーネも今日の夜会に?」

 レオナルドが確認するように(たず)ねる。そんな話は聞いていなかったからだ。

「そうですよ。特に人数制限がある訳ではありませんし、ミレーネも私の専属侍女として一緒に学園に行く予定ですから参加してもいいかと思いまして。すみません、レオ兄様を驚かせたくて内緒にしていました」

「そっか」

 セレナリーゼの説明を聞いてレオナルドは感慨(かんがい)深くなり、口元を小さく笑みの形にした。ミレーネが学園についていくと正式に決まっていることを今初めて知ったから。ゲームと違いレオナルドの専属ではないが、自分などよりもセレナリーゼと一緒にいる方が絶対にいいだろう、と。

「申し訳ございません。私などがこのような素敵なドレスを着て夜会に出席などすべきではないとわかっているのですが……」

 ミレーネが眉尻を下げながらそんなことを言う。セレナリーゼがそんなに自分を卑下(ひげ)しないでと何事か言おうとしたが、レオナルドの方が早かった。レオナルドもミレーネにそんな風に考えてほしくはないから。

「そんなことないよ。ミレーネのためのドレスだって感じるほど本当に似合ってるから。それにミレーネと一緒に夜会に行けて俺は嬉しいし、ミレーネにも楽しんでほしいかな」

「レオナルド様……」

 ミレーネが目を見開く。心臓がトクンと一度大きく鳴った。

「な?セレナもそう思うだろ?」

「はい。もちろんです」

 セレナリーゼはニッコリと笑って答えた。

「……ありがとうございます」

 そこでようやくミレーネが本当に小さくだが微笑んでくれたことにレオナルドはそっと安堵(あんど)するのだった。


 それから三人でフォルステッドとフェーリスのもとへと向かう。そろそろ会場である王城に出発する時間だ。


 レオナルド達が一階に下りるとフォルステッドとフェーリスもすでに準備が整っており、三人のことを待っていた。

 フェーリスがレオナルド達三人の格好を見て感想を言った後、自然とフェーリス、セレナリーゼ、ミレーネの女性陣が集まり話し始めた。


 そうした中、今回御者(ぎょしゃ)役を(にな)うサバスが外から戻ってきて、馬車の準備が整ったことをフォルステッドに報告する。

「それでは行こうか」

 報告を聞いてフォルステッドが全員に声をかけ移動を始めた。

 すると、

「レオ、今日はセレナとミレーネのことしっかりエスコートするのよ?」

 最後尾を歩いていたレオナルドにフェーリスが念押しするように言った。

「え?まあ入場のときはそうなるかもしれませんけど、セレナは知り合いも多いでしょうし、会場内はミレーネと二人で行動するんじゃ……?」

「何言ってるの。パートナーにはもっと気を配ってあげなくちゃ。知らない男の子達に声をかけられ続けるのってすっっごく大変なのよ?レオだって困ってるセレナやミレーネを見たくはないでしょう?」

 フェーリスはひっきりなしに声をかけられた経験があるのかもしれない。そこには気持ちがこもっていた。


「それはまあそうですが……」

 今回が初めての経験だが、夜会なんてそんなものじゃないかという何となくのイメージがあるため、つい気のない返事になってしまうレオナルド。

「それに今日はダンスもあるでしょう?二人の最初の相手はレオがしないと、ね?」

「いや、それは……。二人がそれでいいならいいんですけど……」

 パーティーで最初にダンスを踊る相手は通常パートナーが務め、それは特別な相手ということを意味する。少なくとも学園入学後からはそうだ。まあ入学前の顔合わせという名目である今回の夜会にまでそれが当てはまるかは正直わからないし、家族ならノーカウントかもしれないが、彼女達の同意は必要だろう。

 だからレオナルドの歯切れは悪かった。

「いいに決まってるじゃない。ちゃんとレオから誘ってあげるのよ?女の子に恥をかかせちゃダメ。わかった?」

 何だかフェーリスの圧が強い。

「わ、わかりました。わかりましたから……」

 レオナルドは(うなず)くしかなかった。


 一方、レオナルドとフェーリスの前を歩くセレナリーゼとミレーネにも二人の話はばっちり()こえており、彼女達は期待にその(ひとみ)を輝かせるのだった。


 こうして馬車に乗り込んだレオナルド達一行は王城へと出発した。

お読みくださりありがとうございます。ドレスの色には一応意味があるんですが、レオナルドは気づいてません(^^;

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