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魔物との戦い

 数日が()ぎ、レオナルドは今日、午前中セレナリーゼと一緒に勉強して、昼過ぎからアレンと二人で王都近郊(きんこう)にある森に来ていた。こんなところに来たのは、レオナルドが鍛錬(たんれん)を始めて半年程度(ていど)()った頃から行うようになった、週に一度の実戦訓練のためだ。アレンの負担(ふたん)が増えてしまうのは申し訳ないが、今後はこの実戦訓練の頻度(ひんど)を増やしていくつもりでいる。これまではアレンを含む三人の騎士、うち一人は貴重(きちょう)な回復魔法の使い手、といったメンバーだったが、先日フォルステッドに提案(ていあん)した通りこれからはアレンと二人だ。

 ちなみに、この時間、セレナリーゼは家で自由に過ごしている。


 この森は普通の森とは違い、魔素(まそ)と呼ばれる空気中に含まれる魔力のようなものが()まりやすい場所であり、そんな魔素溜まりには魔物が()えることなく発生し続けるという特徴(とくちょう)がある。

 魔物というのは体内に魔核(まかく)という石を持つ生物の総称(そうしょう)だ。生態系(せいたいけい)などまだまだ不明な点が多い。魔物の持つ魔核は空気中の魔素が体内で結晶化(けっしょうか)したものだと言われており、その影響(えいきょう)か、魔物は身体(しんたい)能力(のうりょく)が高く、中には魔法のようなものを使ってくる個体もいる。魔物は非常に凶暴(きょうぼう)で、村や町を(おそ)ったりするため人々にとっては厄介(やっかい)な存在である。


 一方で、人々はこの魔核を魔石(ませき)へと加工して、魔道具を作製(さくせい)するようになった。


 魔道具とは、魔法のような効果(こうか)を道具で再現(さいげん)したもののことだ。戦闘で役立つ物が多いが、生活に役立つ物も多い。

 魔道具を使用するためにも微量(びりょう)の魔力が必要になるが、魔法を使うよりも圧倒(あっとう)的に少ない魔力で()む。そのため、決して安いものではないが、貴族はもちろんある程度裕福(ゆうふく)な平民の生活にまでかなり普及(ふきゅう)している。

 ちなみに、レオナルドの家にも当然、いくつか便利(べんり)な魔道具があり、使用人達が働く裏方(うらかた)設置(せっち)してある。


 結果、人々は魔石の元となる魔核を重要な資源(しげん)と考えるようになった。(おも)用途(ようと)は魔道具作製だが、他にも様々な用途で使われている需要(じゅよう)の高い品だ。

 そのため、この森には王都を拠点(きょてん)にしている冒険者もよく(おとず)れる。魔物の素材(そざい)や魔核は冒険者ギルドで売ることができ、冒険者のよい収入源(しゅうにゅうげん)となっているのだ。


 そんな魔物が多く存在する森が王都近くにあるということで、その魔物相手に実戦訓練をするようになったのだ。これは当時レオナルドから希望したことだ。フォルステッドも騎士団長も跡継(あとつ)ぎに何かあってはいけない、危険(きけん)だと当初は(しぶ)ったが、レオナルドの決意が(かた)いため、体制を(ととの)えること、そして森の入口付近(ふきん)で行うことを条件に許可(きょか)を出した。なぜ入口付近かと言えば、森は奥に行けば行くほど強力な魔物が出現(しゅつげん)するからだ。


 実戦訓練を始めた当初、魔物といえど生物を殺すことに、レオナルドは恐怖(きょうふ)していた。剣を(かま)えるものの、切りかかることもできず、目の前でアレンが魔物を(ほふ)るのを見て、そのあまりの生々(なまなま)しさに()いてしまったほどだ。初めて魔物を倒したときには(ふる)えが止まらなかった。自分が生物を殺したのだという現実をこれでもかというほど受け止めてしまったのだ。

 けれど強くならなければならないとそればかりを考えていたレオナルドはそんな心を押し殺して実戦訓練を続けてきたという経緯(けいい)がある。



 森に入って早速(さっそく)、レオナルドは(おおかみ)型の魔物、シュネルウルフと遭遇(そうぐう)した。この魔物はスピードに特化(とっか)しており、(するど)(きば)(つめ)で攻撃してくる。そうは言っても低ランクの初心者冒険者が相手にするようなレベルの魔物だ。即座(そくざ)に剣を()くレオナルド。だが、このときレオナルドはとてつもない恐怖心と戦っていた。

 生物を殺すことに対する恐怖?確かにそれはまだレオナルドの中にあるが、そんな漠然(ばくぜん)としたものではない。もっと切実(せつじつ)で、逼迫(ひっぱく)した恐怖だ。それは前世の記憶を思い出した今のレオナルドだからこそ感じているもの。


 レオナルドはこれまでの実戦訓練のことを思い出していた。回復魔法が使える者は非常に限られており、貴重な存在だ。フォルステッド達が必須(ひっす)条件としたのが彼の同行(どうこう)だった。万が一のとき、回復魔法があれば、大抵(たいてい)怪我(けが)などは治癒(ちゆ)できる。ただ実戦訓練は順調で運よくそのお世話になることはなかったため、レオナルド含め今まで誰も気づいていなかった。レオナルドには魔力が全くないため、回復魔法が()かないということを。だから次期当主をセレナリーゼにする際に、しれっと実戦訓練に回復魔法使いは必要ないと断ったのだ。ちゃんと回復魔法が効く者の(そば)にいるべきだと考えて。

 怪我をしても回復魔法では自分は(なお)らない。医者に()てもらうしかないのだ。もしも致命傷(ちめいしょう)になるような傷を()ったら……、それは死ぬことを意味している。

 だからレオナルドは恐怖しているのだ。


 だが、強くなるためには必要な訓練だ。ゲームのようにレベルの概念(がいねん)なんてないが、経験値を()むことができるのは間違いないから。

 必死に恐怖心を(おさ)え込み、レオナルドはシュネルウルフと相対(あいたい)していた。


 レオナルドは相手の動きをじっと見る。スピードのある相手に自分から突撃(とつげき)することはできない。シュネルウルフも青黒い魔力を(あふ)れさせ(うな)り声を上げながら殺気を放っている。

 先に動いたのはシュネルウルフ。一直線にレオナルドに向かって飛び込んできた。一咬(ひとか)みで終わらせる気なのだろう。それをレオナルドは剣で受け止めた。牙と剣が(はげ)しくぶつかりガキンと大きな音が(ひび)き渡る。だが、それは一瞬(いっしゅん)のこと。すぐにレオナルドはシュネルウルフを受け流す。魔力による身体強化ができないレオナルドは魔物と(ちから)勝負なんてできないからだ。


 レオナルドのすぐ横を抜けていくシュネルウルフはすぐに反転(はんてん)して再び唸り声を上げる。レオナルドも同じくすぐに反転した。


 たった一度の攻防(こうぼう)だというのに、レオナルドの息は上がっていた。負傷できないという思いが強すぎて上手く身体が動かない。今までのレオナルドならすれ違いざまに一撃入れられていたはずなのだ。


(落ち着け。大丈夫、大丈夫だ。普通(ふつう)に戦えば負ける相手じゃない)

 レオナルドは必死に自分に言い聞かせる。シュネルウルフは正直(しょうじき)強くはない。今までに倒したことだって何度もあるのだ。


「グルルルアアァァッッッ!!!」

 レオナルドが落ち着く前に、シュネルウルフが爪や牙を使い攻撃を仕掛(しか)ける。二度、三度。それらをすべてレオナルドは受け流すが反撃(はんげき)には(いた)らない。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、ぐっ」

 レオナルドの息が(あら)くなる。だが、冷静(れいせい)な部分が()げてくる。こんな魔物に手こずっていてどうやって自分の死ぬ運命を(くつがえ)すというのか。負けられない。負ける訳にはいかない。

(こんな恐怖乗り()えろ。俺はこの世界で生きると決めたんだ!)

 シュネルウルフが再度突撃する。が、レオナルドは速度に()れてきたのか、自ら一歩を()み込んだ。

(こんなところで!負けてられるかァァァッ!!!)

 レオナルドはシュネルウルフをギリギリで(かわ)すとそのまま剣を()りぬいた。

 すぐに振り返り、シュネルウルフを見ると、剣から伝わってきた感触(かんしょく)のとおり、胴体(どうたい)を深く切り()かれたシュネルウルフは今の一撃で絶命(ぜつめい)していた。

 相手が倒れたことを確認できてようやく荒くなった息を落ち着けていくレオナルド。肉を引き裂く生々しい感触が手に残っていて少し震えている。それを振り払うように剣を振るい、ついた血を(はら)い落すと、腰にある(さや)(おさ)めた。

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