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英雄は悪魔かもしれない  作者: カラフルなステンドグラス
第一章 王宮にて
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9 深い闇の色

 見えた胸の谷間には、小さな丸い紋様が記されている。ほくろよりももっと黒くて暗い、まるでブラックホールのように光を吸い込みそうなほどの深い闇の色だ。


 エスぺはそれを見た瞬間、それがなにかを十分に知ることができなかった。スキルの鑑定が働いたが、見えた小さな文字はまったく読めなかったのだ。


 エスぺは思う。

 見た目からして、よろしくないものだろうと。


 ポリーニはなにも言わない。ただ自らの胸元の丸い紋様の闇を指差した。


 そして、エスぺの胸を見てから、ゆっくりと自らの胸を指していた指をエスぺの胸に当てた。


 エスぺは身動きができなかった。

 ポリーニに有無を言わせない凄みがあったせいもあるが、それだけではない。後ろにいるもう一人が、腰の後ろに持っている短剣の柄に手をかけいるのがわかったからである。


 胸に指を当てられた瞬間、その闇を自分に転移させるつもりなのかとエスぺは怯えたが、紋様が転移することはなかった。


 ポリーニはエスぺの胸に指を当てたまま、相変わらず無言のままでエスぺの顔をじっと見ている。


 視線が交差したとき、心配そうな瞳の色から、あなたにはこの紋様が刻まれていないの、と聞かれている気がした。


 エスぺは、とりあえず答えてみることにした。


「それは、自分の身体には、ありません」


 それから、思い切って聞いてみた


「あなたはポリーニではありませんね。誰ですか」


 胸から指を離し、エスぺから離れてポリーニは服を整えながら、どうしてわかるの、とつぶやいた。


「口調が違いますから。それに雰囲気も」


 エスぺがそういうと、ポリーニは微笑を浮かべながら、突然優雅なカーテシーをした。


「【えいゆう】様、お初にお目にかかりますの。【へんしん】を持つホワイトですの。スキルでポリーニになっていますの。やはりわかりますの」


 ポリーニが気を許したこともあって、後ろのもう一人も短剣の柄から手を離して、名乗ってくれた。


「あたしは【とうぞく】のグレー、おまえに会うのは二度目だ。仲間になるかもしれない奴がどんな奴か、ちょっと二人で見に来たのさ。でも、おまえは仲間じゃねぇみたいだな」


 いや、会ったことはないが、そう思いながらエスペは答える。

「黒い紋様がないと仲間になれないんですね」


 エスぺの質問に二人は微笑んで小さく首を振る。

 その仕草は質問を否定するというよりは、その質問には答えられないというメッセージを発しているように見えた。


 エスぺは落ち着きを取り戻しつつあった。


 二人の目的が【かんてい】の複製を知った上での、その確認ではなく、黒い紋様の有無だったことがわかったからだ。


 こころなしか、紋様がなかったことで安心したように見えるのが気になるが……


 そこでエスぺは思いついた。


 なんだかホッとしているように見える二人を、今度は自分が確認する番であると。


「ふたりとも、自分と握手しませんか。仲間にはなれなかったみたいですが、こうしてお会いしたんです。これから先も、またご縁があるかもしれません」


「いいの」

「あぁ、いいだろう」


 二人の返事に、期待は高まる。

 すでに二人のアビリティは知っている。


 さぁ、どうなる。




 エスぺは二人の女性とゆっくり握手を交わした。










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