7 鏡の中の、もう一人の私
鏡に写っている自分の後ろに、なにかある……
振り返ると後ろにはなにもない。白い壁があるだけだ。
背中に手を回して探ってみる。右手と左手をクロスして探る。そして左右を逆にクロスして探る。
なにもついていない。
もう一度鏡の中の、写っている自分を見る。
やはり後ろになにか見える……よくよく見ると……丸い大きな楕円が見えてきた。身体の後ろだけかと思ったら、頭の後ろにも見えてくる……両方とも一重ではなさそうだ……目が慣れてきたのか、だんだん見えるようになってきた……楕円は二重あるかも、いや、三重……
すごい、頭にも身体にも五重あるみたいだ。複雑な紋様も見えてきた……読みにくい文字、見覚えのある篆書体の文字で【えいゆう】と書いてあるのも見えてきた……
これってもしかして、自分のアビリティかも、というか、たぶん自分のアビリティだ……
自分のアビリティが見えている?
なぜだ?
わからない……
数字も見えるが、十五とある、えっ、十五?
これって魔力だと思うが、十五? 二十五ほどって言われた気がしたが……
わからないことだらけで、うっすら見える鏡に写った後ろの紋様を、目を凝らして見続ける。
その甲斐あって、時間が経つにつれ、いろいろ細部まで見えてきた。
目がチカチカしそうだった。
細かいところを読み込んでみると、どうやら追加アビリティがあるようで、とても小さな文字で【カンテイ】(****) [高位鑑定][偽装]というのが読める。
なるほど、鑑定のアビリティを持っているから、自分のアビリティが見えるのか。納得だ。
けれど、なぜ鑑定のアビリティを持っているのだろう。しかもその下位区分はスキルのはずだから、スキルの、高位!の鑑定、偽装まで持っているなんてふつうはありえない。
こんなのを持っているのは、王国内だったら、あのシルバー以外にいないのではないか?
もしかしたら、シルバーの持っているそれを複製したのか?
それでアビリティの文字も少し違うのか?
そのあとの(****)は、まったくわからないが……
エスぺはここで、シルバーに会って握手したとき、彼に襲いかかったような気がしたことを思い出した。
目が疲れたきた。この先はベッドで考えよう。
エスぺはそう思って灯りを消して、そのままふかふかベッドに横になる。シャワーのしずくはとっくに乾いてしまっていた。
外の雨は止んだようで、雨音はしない。暗闇の中、静かな時間が過ぎる。
エスぺは、シルバーとの出会いからを復習する。
襲いかかったシルバー。
袈裟斬りされたブラウン。
抱きしめられたブラック。
全て幻想だった。
エスぺは、今度はシルバーの鑑定の言葉を思い出す。
すると、妙な部分があるのに気づいた。
「この部屋に入ってきたときは三十ほどに見えましたが、先程の鑑定では二十五程度です」
このシルバーのことばと、今の魔力は十五しかないこと。
シルバーに会って五減って……
もしかしてブラウン、ブラックに会って十減った?
今、シルバーのアビリティを複製した可能性がある。
ということは、ブラウン、ブラックのアビリティも複製しているかもしれないということだ。
それならきっかけがあるはずだ。アビリティを複製するための条件みたいなものがなければならない。
もう一度シルバーとの出会いから復習する。
そして、エスぺは気がついた。
アビリティを知った上での握手と幻想が契機になっていることに。
そのとき、カチャリ、という音が聞こえた。
扉が開けられた音だ。




