表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は悪魔かもしれない  作者: カラフルなステンドグラス
第二章 王都コレガーレ
21/25

21 釣り合い

 分身体であるソレッラが、夜中突如として消えたことを感じ取ったブルーはすぐに目を覚ました。


 その報告は、緊急通信として冒険者協会にも届く。ダッカとラキアはその日大変な忙しさだった。


 午前中、目立たないように二人で宿に行き、まずは現場確認をする。

 部屋の鍵は閉まっている。宿の予備の鍵で開けると、争ったような形跡はない。

 ベッドにかけられた布をどけると、下着を含めてまるで着ているかのように、服がベッドに置かれていた。中身の身体がそのまま消えたかのようだった。上半身の服とベッドにはナイフと思われる刺し傷がある。ベッドの傷は深そうだ。


 もし殺されたのなら、そのときの記憶がブルーに伝わるはずだが、ブルーによれば雲や霧が徐々に晴れるような、そんな消え方だったという。つまりナイフの跡はあるが、殺されたのではないということだ。しかも部屋は密室だ。窓もドアも鍵がかかっていた。


 宿の主人は協会とはつながりがあるので、口裏を合わせるのは、それほど大変ではなかった。


 しかし、消えてしまったソレッラの捜索は困難を極めた。数日通っていたカフェやレストラン、東西南北八つある門の記録……なにも手がかりがなかった。毎日のブルーへの連絡も監視が順調なことばかりで、このような事態を予想させるものはなに一つない。


 夜遅くまでダッカとラキアは調べたり話し合ったりしたが、なにもわからなかった。


 ラキアは深夜、夕方受けた報告を思い出して、ダッカに報告する。


「エスペへの指名依頼ですが、本日終えています。やはりブラックラビットと同じで、ワイルドボアへの切り口も鮮やかです。鮮やか過ぎるくらいです。ラビットだけならたまたま偶然もありますが、ボアに対しては、たまたまはありません。前日の鑑定ではスキルの剣術も出現していましたが、それでも見事な切り口とアビリティと、釣り合いが取れません。しかも扱っているのは、普通の剣です。なにかあるとしか思えません」


 ダッカは天井を見る。


 密室で煙のように姿を消した分身体のソレッラ、アビリティと釣り合いが取れない剣技を持つエスペ。いきなり二つの難題だ。


 一見関係がなさそうな二つだが、ソレッラはエスペの監視役だった。しかも二人は一緒に夕飯を食べる仲だ。この二つは必ず関係がある。というか、ソレッラが消えたことにエスペは必ず関係している……だが、どこでどうつながっているのか、まったくわからない。


 ダッカはラキアに、

「わかった。今日はもう遅い。また明日考えよう。一晩経てばなにか思いつくかもしれん。明日の早朝、エスペの件は王宮に報告してくれ」


 そう言ってその場を切り上げた。




 ***




 エスペは慣れてきた硬いベッドに横になりながら、確信した。


 ソレッラはやはり監視者だった。


 ベッドから消えたことを間近で見た、いや、体験した自分に、ソレッラがよろしくなどと言えるはずがない。宿の従業員は王宮から言われて口裏を合わせているのだろう。


 うん? ちょっと待てよ?


 王宮から直接なんてあるのか? あるようには、思えない。と、すると……冒険者協会か……


 この宿を紹介したのは、そういえば協会だ……


 王宮と冒険者協会と、この宿と、みんなグルだと思った方がいいかもしれない。


 これからどうしたいいかを考えてしまって、エスペは寝られなかった。



 朝はふだんどおりに起きて、変わらぬ午前中を過ごした。

 王宮と協会とがつながりがあるということは、指名依頼も意図があってのことだったのだろう。行動にはいっそう気をつけなければならない。そう思って午後の訓練は魔の森の深いところまで入ることにした。


 しばらく訓練をしていると、人の声が聞こえた。

 なんの声だ? もしかして見られたのか、そう思って耳を澄ますと、助けを求める声だと分かった。

 声のほうに走っていくと三匹のフォレストウルフに襲われている人がいた。旅人のようだ。なぜ魔の森の深いところに入った?


 フォレストウルフには二本の角が見える。動物ではなく魔物だ。魔の森では奥に行けば行くほど動物より魔物のほうが多い。


 エスペはスピードにのってウルフに走り寄り、剣を抜く。抜くと同時に二匹のウルフを斬り殺した。もう一匹、剣を構えて対峙すると、ウルフは危険を感じたのか、逃げてしまった。


 倒れている男を抱き上げる。

 襲われて逃げきれなかったのだろう、大きな怪我をしている。最後の力で声を振り絞り、助けを求めたが、それまでだったようで、もう息も耐えそうな様子だ。


 大丈夫か、そう声をかけたが、エスペはポーションを持っていない。男が腰につけているポーチを見て、ポーションを持っているか? と聞いたが、男はゆっくりと首を振った。


「ありがとう……俺はもうダメらしい。助けてくれた礼にこれをやる……いいものだ……だが、気をつけろ……誘惑に負けると……俺のように死ぬぞ……」

 そう言って指輪を外すと、力が尽きたようで、そのままゆっくり首を垂れてしまった。


 持っていた指輪が土の上に落ちて小さな音を立てた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ