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英雄は悪魔かもしれない  作者: カラフルなステンドグラス
第二章 王都コレガーレ
15/25

15 夕飯

 今まで見てきた光背は円形、正確にいえば、縦長楕円形をしていたのだが、その女性は 下半分が欠けている半円だったのだ。ただ半円でも、四重のやや複雑な紋様があるので高位のアビリティを持っていることは確かだった。


 初めて見る半円の光背に、エスペは王宮からの監視役かとも思い、驚くとともに緊張したが、まさか同じ宿の、同じ二階に泊まることはあるまいと警戒を緩めた。


 すると、女性と視線が交差して、声をかけられた。


「これから夕飯ですか? もしおひとりだったら、わたしも一人なので、よかったらですけど、一緒に食べませんか?」


 エスペは相手からの思いがけない申し出に、こちらこそ、ぜひ一緒にお願いします、そう言って表情を緩めた。

 堂々と食事に誘うなんて、やはり監視者ではないとエスペは判断する。


 それより、二人なら時間が遅れていたとしても、夕飯は食べられるだろう。安心から笑みが溢れてしまう。


 ソレッラは、なるほど、たしかに友好的な男だと思う。あふれんばかりの笑顔のように見えるが、これなら、監視はバレてなさそうだ。仲よくなれば、今後の予定なども聞き出しやすい。

 そう思って、ニコリとしながら、よかったー、と言うと、エスペと並んで食堂に向かった。




 ***




 エスペが心配するほどのこともなく、夕食は時間内に入ることができた。ちょっとだけ遅れ気味だったようだが。それでも食堂は混んでいて笑い声が上がり、賑やかだった。


 王宮では一人で食事をしていたので、アットホームな雰囲気の中、人と一緒の食事は楽しみだ。


 女性はソレッラといい、辺境都市のタキアから来たと言う。


 タキアは訳ありの冒険者が多くて、女性一人での活動だといろいろ怖いことがあったらしい。

 もしも王都に居にくくなったら、タキアに移るのはアリかもしれないと思って、タキアのことをつい、根掘り葉掘りと聞いてしまった。


 タキアは無法地帯も一部あるようで、リスクもあるが、お金も稼ぎやすいという。


 だけど、ふつうの生活をしようと思うと生活費がすごいかかっちゃってその点では住みにくいのよね、とソレッラは独りごちた。


 聞いてばかりだったこともあって、アビリティのことも聞いてみたいが、さすがに尋ねることはできなかった。そもそも聞いたら失礼になるから聞けないのだが。


 ソレッラはエスペの質問に対して、ときに考えて、ときに思い出すようにして、誠実に答えてくれているように感じた。


 とても好感を持ったエスペは、すぐには無理だが、そのうち一緒に魔の森に行きませんかと誘ってみた。タキアから来たのなら魔の森についても詳しいだろう。


 もちろん、ソレッラの誠実そうな態度やその容姿に魅力を感じたこともあるが、見たことがないアビリティについても知ることができるかもしれないという下心もある。


 明日からも夕飯はできるだけ一緒に摂る約束をしてソレッラと別れて部屋に戻る。


「わたし、お隣さんなんだ」

 部屋に入るときソレッラは、はにかんだ表情でそう笑った。


 エスペはおやすみなさいと言って部屋に入ったが、なぜかそのとき、今夜は素敵な夢が見られる気がした。


 エスペは早めに硬めのベッドで横になった。




 ***



 ソレッラは食事中、エスペからタキアのことばかり聞かれてドギマギしていた。

 タキアには行ったことがないのだ。そんなに聞かれても、わからない。


 人から聞いた話をさも自分が体験したかのように話してなんとか誤魔化し切った。

 そのうち魔の森にも行こうとも誘われてしまって、うん、そのうちね、と曖昧に返事をした。


 そのうちは、悪いけど、ないよ。わたしのアビリティは戦闘タイプじゃないし、まだ成長途中だし、スキルの[短剣]だけでは、そんなところに行ったら生きて帰れないよ。


 そもそもわたしは本体でもないし……


 守ってくれるのなら、一緒に行ってもいいけど……

 でも、それは、無理だ。

 エスペは【けんじゅつ】しかない。それも輪は一つだ。守れるはずもないし、二人で死ぬことになる




 部屋に戻ったソレッラは夕食での出来事を感情が表に出ないように、淡々とブルーに念話した。






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