10 めぐる朝
目が覚めると、朝だった。
明るい陽射しが差し込み、窓が開いているのか、涼しげな風を感じた。少し寒いくらいだ。
ふと横を見ると、ポリーニが椅子に座っている。
「おはようございます。よく眠れましたか?……そんなじっと見て……私の顔になにかついてますか?」
「おはようございます。いえ、なにも」
そう言ってから、もっとしゃれたことを言えばよかったとエスぺは少し後悔をした。
ポリーニの光背は楕円が二つ、紋様もシンプルだった。アビリティの文字は読める。【とうぞく】だ。
ポリーニは意味深に、くすりと笑って、ここに着替えを置いておきます、朝食はいつもの部屋ですので、身支度ができ次第お出でください、そう答えて部屋を出て行こうとしたが扉の前で立ち止まってつぶやいた。
「そういえば、今日シルバーさんの再鑑定があるはず。準備するようターバンに言わなきゃ」
ポリーニが扉を閉めて出て行ったあと、エスぺは布団の中でグレーとポリーニに感謝をした。
きっと大丈夫、スキルの[偽装]があるんだ……
深夜の出会いは、今から思えば、貴重だった。
確認の結果、たぶん推測は当たっている。【とうぞく】と【へんしん】のアビリティは手に入れたはずだ。アビリティ獲得時の錯覚は、やはりドキドキするようなものだった。
これで再鑑定で魔力が五になっていたら、【えいゆう】の能力は間違いない、確定だ。
ブラックがなにかを自分の身体の中に仕込んだと思っていたが、仕込んだのは自分の方だったということになる。
ベッドの中でぐっと伸びをしてからエスぺは起き上がった。
***
石造りの室内はひんやりしていた。
奇妙な鑑定の部屋でエスぺは二度目の鑑定を受けている。
絨毯中央のテーブル前にエスぺはふたたび立った。
テーブルの向こう、シルバーが書物を左手に抱えて絨毯の外縁に立ち、鑑定を始めた。その後方には、豪奢な椅子に髭の男性が座っている。
鑑定をしているシルバーは、身体が震えていた。
前回とはまったく異なる光背が見えたからだ。
光背は、身体の後ろに単純な一重の楕円があるだけだった。前回見たような複雑な紋様はまったく見えない。見えないどころか、紋様自体がないのだ。見える文字も単純な字体で【けんじゅつ】と読める。魔力に至っては、五、しか、ないのだ。
五?
あまりに少なすぎる。逆にこれほどの少なさをシルバーは見たことがなかった。
振り返り、震える小さな声で髭の男に伝える。
「恐れながら申し上げます。前回とはまったく……異なるモノが見えます。光背は身体に一重のみ、紋様はございません。アビリティも単純な字体で【けんじゅつ】でございます。魔力に至っては……五……でございます」
「やはり、欠陥品か……」
シルバーは無言だ。
「こやつに【けんじゅつ】が出るとは。ブラウンを褒めるべきか」
「……さすがブラウンです」
シルバーはそれだけ言って黙ってしまった。
髭の男がなにも言わなかったので、シルバーは振り返ってエスぺに鑑定の結果を伝える。
「前回の鑑定は誤りであった。訂正する。あなたのアビリティは【けんじゅつ】。魔力は五。スキルは今のところはない。以上だ」
エスぺはまっすぐにシルバーを見る。目には涙が溜まっているようで潤んでいた。
「ありがとうございます」
それだけ言って深々と頭を下げた。




