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第44話 堂々としていよう

 俺は月花(つきはな)さんに告白した。月花さんは返事の代わりにファーストキスをくれたんだ。それは俺も同じだった。


冴島(さえじま)さん、柔らかいです」


「月花さんだって」


 お互いの唇の感想を言い合った。そろそろ恥ずかしさの限界なので、俺は何とかごまかそうと話題を探す。


「そっ、そうだ。まだ告白の返事をもらってないような気がするよ」


 すでに返事以上のものをもらっているのに、言葉もほしいだなんて欲張りだろうか?


「えっと、言わなきゃダメ?」


 月花さんが少し首を(かし)げて聞いてくる。


「月花さんから聞きたいなー」


 俺はワザとらしく促した。すると月花さんは手で髪の毛を整え、深呼吸を始めた。


「私もあなたが好きです」


 ただ一言。ものすごくシンプルな言葉。なのにこんなにも心が震えるなんて。俺はこのたった一言を聞くために元の世界にいる時から、どんなツラいことにも耐え抜いてきたのだと、全てが報われたように思えた。


 ぼやける視界、熱くなる目頭。月花さんの顔を見たいのに、今はそれをさせまいと俺の目からあふれ出すものがある。


「冴島さん、泣いているんですか……?」


「そう……みたいだね。おかしいな? 俺が泣くなんて……」


 泣きたい時は今まで何度でもあった。それでも俺はどんな目に遭ってもどんな酷いことを言われても、涙を流さなかった。だってそれをしてしまうと、絶対に負けないという意思が涙で溶けてしまいそうだったから。


「今度は私が冴島さんに胸を貸す番ですね」


 月花さんが正座をして両手を広げて待っている。俺は迷わず飛び込んだ。


「俺もっ……! 本当はずっとツラい思いをしてきたんだよ……!」


「うん、頑張ったんだね」


 月花さんは俺の事情を知らないのに、ただ俺の頭をなでながら話を聞いてくれている。


「だからっ……きっと月花さんも俺と同じような苦しみを抱えているんだろうなって……! だから少しでも自信を取り戻してほしくて……。今の月花さんを見て、俺のツラい経験もムダじゃなかったんだと思うと嬉しくて……!」


 それから月花さんは俺が落ち着くまで、ただ静かに頭をなでてくれていた。



 時刻は夜九時。さあこれからどうしよう。恋人同士になったわけだけど、このまま泊まってもらっていいのだろうか。大人なら『そういうこと』も考えるのかもしれないけど、今日じゃないような気がする。


「あのっ……! 私っ、今日は帰りますね」


 月花さんも同じようなことを考えていたのか、どこか慌てた様子で言う。


「それなら送っていくよ」


 どこかホッとしたような残念なような、なんとも言えない気分だ。



 そして夏休みの間、俺は月花さんとデートを重ねた。毎日とはいかなくても時にはまた食事を作りに来てくれたり。夏休みの初日から連続で来ていたのは、どうやら月花さんのお母さんが関係しているらしい。

 まさか俺と月花さんが恋人同士になるまで通わせるつもりだったのでは……?


 それだと月花さん本人の意思が無視されているように思えるけど、月花さん自身が嫌じゃなかったから、ということのようだ。



 今日から二学期が始まる。俺に人生初の彼女ができた。しかも美少女。もしもこれが元の世界なら、『なんであんな冴えない奴があんな可愛い子とっ……!』という、周りから俺に向けられる視線が突き刺すようなものになっていただろう。


 ただこの世界では逆。『なんであんな冴えない子があんなイケメンとっ……!』というふうに、おそらく月花さんが奇異の目に晒されてしまうだろう。

 でも学校でイチャつかなければいいだけの話だとも思うので、普段通りに振る舞うつもりだ。

 

 俺は登校も毎日、月花さんと一緒にすることにした。『誰かと一緒にいることに見た目は関係ない』。その光景がごく当たり前のものとなるように。

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