表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/45

第41話 自分の部屋なのに落ち着かない

 夏休み。月花(つきはな)さんが俺の家まで食事を作りに来てくれることになっている。月花さんのお母さんの策略によるところが大きいけど。


 では夏休みのいつなのかというと、初日だ。お母さんは「夏休み中毎日通ってもいいのよー?」と言ってくれたけど、それはさすがに俺から断った。


 俺が住むのはとあるマンションの一室。元の世界でも同じような暮らしをしていた。ただこの世界での俺の保護者は女神様で、生活費も仕送りのような感じで貰っているから、贅沢な暮らしをしているわけじゃない。


 夕方。インターホンが鳴り俺がドアを開けると、そこに月花さんが立っていた。


 月花さんの服装は薄いピンクのTシャツに白いミニスカート。あの合コンの後で一緒に買いに行ったものだ。そしてバッグには、俺がプレゼントした三日月型のキーホルダーが付けられている。


 きっと俺を喜ばせようとしてくれているのだろう。こういったところも含めて、本当に可愛いらしい女の子だなと思う。


「来ちゃいました……」


「あ、うん。お母さんから聞いてるよ」


 どうしよう。超可愛い女の子が俺の家に! えっと確か女の子が男の家に来るということは、つまりそういうことなんだっけ? そういうことってなんだ? 見当はつくけど、まさか俺にそんな日が来るとは思っていなかった。


「とりあえず入って」


「あっ……その前にお買い物に行かなくちゃ」


「今から? ここに来る前に買って来たんじゃないの?」


「えっと、その……一緒に行けたらなって」


「だからわざわざ俺を誘いに来てくれたの?」


 月花さんは無言でゆっくりと(うなず)いた。なんだコレ、めちゃくちゃ嬉しい。


 というわけで俺と月花さんは一緒にスーパーマーケットへ行くことに。女の子と買い物なんて、もちろん初めてのことだ。


「私、男の子とお買い物に来たの初めてです」


「俺もだよ」


 どこかぎこちない会話だけど、改めてそう言われると恥ずかしいものだ。


 肉・野菜・卵など、俺一人ではなかなか買わないような食材を、月花さんが選ぶ。その横顔は真剣そのもの。きっと俺のために少しでも良質なものが買えるように、考えてくれている。


 そして店内を移動している間には、お互いの食べ物に対する好き嫌いの話で盛り上がった。そうか、こうやって少しずつお互いのことを知っていくんだな。



 買い物を終え、再び俺の家へ。部屋の間取りは1Kなので、月花さんはキッチンへ向かう。

 今日の服装の上から、青と白のストライプのエプロンを身につけている。ミニスカートにエプロン。なんだか妙に色気がある。


「俺に何か手伝えることある?」


「出来上がりを楽しみに待っててほしいなっ!」


「喜んで!」


 ということなので、俺はただ床に座って待つ。ローソファーがあるけど、それは月花さんに使ってもらおう。


「お待たせしましたー」


 月花さんがお皿を運んで来た。そこに乗っているものは、オムライスだ。それを俺の前のテーブルに乗せた。


 見た目でも分かる、鮮やかな黄色の卵のふわっと感。全く崩れていない形。きっとマズいわけがない。さすがにケチャップで文字は書かれていない。


「めちゃくちゃ美味そう! あれ? 月花さんの分は?」


「私の分は後から作ります。なのでどうぞ召し上がってください」


「そう? それなら、いただきます」


 俺はスプーンで丁寧にすくって、一口めを堪能する。見た目通りのふわっと食感で、食べやすい大きさにカットされた具がそれを邪魔することなく、全ての食材を楽しむことができる。


「美味い!」


「ふふっ、嬉しいなっ!」


 目の前に座っている月花さんが笑顔を向けてくれる。でも気になることが。


「月花さんも一緒に食べようよ」


「えぇー、もうちょっと冴島(さえじま)さんが喜ぶ姿を見たいのにー」


「俺としては月花さんと一緒に食べたいな」


「もう、仕方ないですねー」


 月花さんはそう言うと、俺に顔を近づけて目を閉じ、少し口を開けた。


(これはまさか……)


 俺はスプーンの上に一口分を乗せて、そのまま月花さんの口の中へと運んだ。すると月花さんが口を閉じたので、そのままスプーンを引き抜く。俗にいう『あーん』の完成だ。


「美味しいですっ!」


 自分が作った料理に大満足のようだ。


 そして俺はそのスプーンで残りを楽しむ。ここで間接キスだということに気がつき、なんだか恥ずかしくなる。


 結局、完食まで月花さんから見られたままだった。


「作ってよかったぁー! 私も食べよっかなー」


 しばらくして今度は俺が月花さんの食事風景を見守る番だ。


「あのっ……そんなに見られると恥ずかしいです」


「俺はずっと見られてたけど!?」


 夜はまだまだ長い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ