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第35話 親子から

 俺は今、月花(つきはな)さんの部屋で、正座をした月花さんにひざ枕をされている。


 俺の右頬にとてもスベスベで温かく柔らかな感触が伝わってくる。そして正面には部屋のドアが見えるんだけど、少し開いてて明らかに誰かが覗いてるんですよね。まあそれが誰なのかは検討がつくんだけど。


(月花さんは気がついていないのかな?)


 俺は月花さんにひざ枕をされたまま見上げると、月花さんもじっと俺の顔を見ていた。まるで子猫にでもなったような気分だ。


「きゃっ……! いきなり見上げないでください」


「ごめんごめん、それよりも気づいてる? ドアのほうを見てみて」


 俺がそう月花さんに促すと月花さんは顔を上げて、視線を俺の顔からドアのほうに切り替えた。次の瞬間、月花さんの大きな声が聞こえてきた。


冴島(さえじま)さん、離れてください!」


「はいっ!」


 あまりの素早さと迫力に俺はまたしても敬語になってしまった。そして月花さんは俺が今まで見たことがないくらいの素早さで立ち上がり、ドアへと駆けて行ってドアを勢いよく開けた。


「ちょっとお母さん、何してるの!」


 開かれたドアの向こうには、月花さんと同じく綺麗な黒髪ロングの女性がいた。ただ前髪は月花さんと違って、適切な長さにカットされている。顔立ちも月花さんと似ていて、月花さんから幼さを無くすとこんな感じなんだろうなと思う。


(うわ、この人もかなりの美人だ)


 40歳くらいだとは思うけど、とてもそうは見えない。若く見えるということだ。例によってこの世界では見た目で苦労しているだろうけど、月花さんという子供がいるということは、男性のパートナーがいることを示している。


 ということは見た目が冴えないとしても、結婚できるということだ。そうだよ、見た目が全てじゃないんだ。きっと月花さんのお母さんには魅力的なところがあるに違いない。


 これは俺の推測でしかないけど、パートナーの人は人を見た目だけで判断せず、きちんと内面も見てくれるのだろう。そういう人と一緒なら、ずっと幸せでいられそうな気がするよ。


「えぇー、もうちょっと見せてよぉー」


 月花さんのお母さんの話し方、スローテンポでけっこう独特だなー。


「ダメっ! 見せるようなことじゃないの!」


「えぇー、私が見てなかったら何をする気だったのかしらー?」


 珍しく月花さんが怒っている。多分。でもそんなことは知らんと言わんばかりに、月花さんのお母さんが部屋に入ってきた。


「あらぁー、君イケメンだねぇー」


「そんなことはないです。でもありがとうございます。嬉しいです」


 もはやイケメンと言われることに慣れた俺。こういう時は謙虚にお礼を言うことにしている。


「うちの子とはどういう関係なのかしらー?」


「冴島さんはただのクラスメイトなのっ!」


 なぜか月花さんが俺の代わりに答えた。いやまあ確かにクラスメイトなんだけど、こうもハッキリ言われると寂しいものがあるなぁ……。


「冴島くんっていうのねぇー。今日は泊まってく?」


(なんで!?)


「ちょっ……! ちょっとお母さん! そんなわけないでしょ!」


「あらそぉー? だって冴島くん、私に気がついてもこの子にひざ枕されたままだったじゃない? そんなにこの子の太ももが気に入ったのかしらー?」


 女の子の太ももが気に入ったとか、人聞きが悪すぎる。これは説明をせねば。


「いえ、そうじゃなくてですね。柔らかくて寝心地が良かったので、ついウトウトしてしまってただけなんです」


「やっぱりお気に入りなのねぇー!」


(普通に太ももの感想を言っただけだった!)


 太ももの感想ってなんだ? 恋人でもないのに、これじゃただのやべー奴じゃないか。


 それにしても月花さんのお母さん、めちゃくちゃ積極的だなあー。もしかして月花さんのお母さんがグイグイ攻めて、パートナーをゲットしたのかもしれない。こんな美人にグイグイ攻められたら、俺なら速攻でゲットされてしまうだろう。


「だったらご飯食べてくー?」


「い、いえ。今日は勉強をしに来ただけなので」


 きっと今度も月花さんが止めてくれるだろう。しかし誰も何も言わない。これじゃ話が進まないので、俺が一番に口を開いた。


「月花さん、そろそろ勉強を始めようと思うんだけど……?」


「あのっ……! 今日の晩ご飯はいつもより美味しいと思いますっ……!」


「決まりねぇー!」


 決まった。


(俺、まだ返事してないんですが……?)

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