表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/45

第3話 ざまぁ対象発見

 今朝、俺の背中にぶつかって、通りすがりの男子から心無い言葉をかけられていた、黒髪ロングが似合う美少女、月花(つきはな)さん。


 彼女が下校で教室から出たところを俺は声をかけた。


「私といると目立ってしまいますよ。だって私、可愛くないから……」


 月花さんはそう言った。普通、美少女がそんなことを言ったら、嫌味と受けとられて一瞬で嫌われるだろう。


 ただここは人に対する美的感覚が元の世界(転生前の世界)と逆転した世界だ。

 つまり転生者の俺から見て超絶美少女の月花さんは、この世界では超絶冴えない女の子ということになる。だからさっきの言葉は、月花さんの本心ということだろう。


「そんなことはないよ。月花さんは可愛いと思うよ」


 今までの俺なら絶対口にしないであろうセリフだ。でも、こんなにも自信のない彼女を見ていると、どうにか元気になってもらいたいと考えるのは自然なことだろう。


「ありがとうございます。私を気遣ってくれてるんですね。でもそれじゃ冴島(さえじま)さんが嘘つきになっちゃう」


「嘘じゃないって。本当にそう思ってるよ」


 そうは言ったけど俺だって元の世界でほぼ初対面の美少女から、「冴島君はイケメンだと思うよ」と言われたら、「社交辞令ありがとう」と思うだろう。


 きっと、つらい経験をする度に段々と自信を失っていったんだろうな。敬語なのも遠慮からきているのかもしれない。なんとかして自信を取り戻してもらいたい。


「だって冴島さんすごくカッコいいから、私なんて眼中にないですよね」


「そんなことはないって」


 困ったな、どうにかして信用してもらえないかな。


「よう、お前冴島っていったか?」


 俺が考えをめぐらせていると、後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、一人の男子が立っている。高二としては背が高いほうか。金髪で短髪だ。校則どうなってんの? その辺りも異世界の価値観なんだろうか?


「お前、少しばかり顔がいいからって調子に乗るんじゃねえぞ。美集院(びじゅういん)さんを悲しませやがって」


 この男子には見覚えがある。同じクラスだ。俺と同じくイケメンとして女の子から人気があるようだ。この世界でイケメンってことは……そういうことだ。元の世界ならきっと親友になれると思うんだ。いや、無理か。性格が悪そう。「ヒャッハー!」とか言いそうだし。


 それにしても、「美集院さんを悲しませやがって」か。惚れてるんだな。もしかして自分が相手にされないから、美集院さんに気に入られてる俺が気に入らないのだろうか?


「確か……百本桜ひゃっぽんざくら君だっけ?」


 この世界の目立つ人って、名前が強すぎる。


「けっ! お前に名前覚えられても嬉しくねえな! そんなことよりなんだお前、美集院さんには冷たくして、そんなブサイクと仲良くなろうとしやがって」


 こいつ……人に言ってはいけないことをアッサリと言う奴なんだな。

 月花さんはというと、下を向いたまま顔を上げようとしない。こうやって月花さんの自信が少しずつ失われてきたんだろう。


「誰に対してもそれは口にしてはいけないセリフじゃないか?」


「何言ってやがる。お前だって本当はそいつがブサイクだと思ってんだろ?」


「思ってない。それよりもまたそんな言葉を口にしたな?」


「はっきり言ってやったんだろーが。そのおかげで現実に気がつけるんだ。むしろ俺に感謝するべきだろ」


(こいつ、許せん)


「月花さんに謝れ」


「誰が謝るかよ! お前こそ美集院さんに謝れ」


「あっ……あの! もうやめてください!」


 きっと精一杯であろう声の大きさで、月花さんが止めに入った。それからほんの数秒、時が止まったかのようだった。


「チッ、くだらん。時間の無駄だ。だが冴島、俺はお前を認めねえ!」


 百本桜はそう言い残して去って行った。きっとあいつはずっとイケメン扱いされてきたのだろう。そうでない人の苦悩なんて、考えにも及ばないということか。


 イケメンが悪いわけじゃない。あいつの性格が悪いんだ。あれこそまさしく反面教師というやつだ。追放物のラノベなら、間違いなくざまぁ対象だろう。もう俺がざまぁしたいよ。


「月花さん、大丈夫?」


「はい……。大きな声を出してごめんなさい」


 月花さんが謝ることなんて無いのに、まず謝ってしまうクセがついているのかもしれない。


「それよりもやっぱり、私といると冴島さんにご迷惑がかかるみたいです」


「あれは俺が恨みを買ってただけだから、月花さんのせいじゃないよ」


(ほとんど言いがかりだったけど)


「もしよかったらでいいんだけど、これから一緒に帰らない?」


 俺がそう提案すると、月花さんはスッと俺の横に並んだ。


「……ご迷惑じゃなければ」


 今は俺と月花さんが一緒にいることが変に見えても、それを『当たり前』にすることができるよう、俺は頑張ってみたくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ