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第29話 対峙

「もし仮に月花(つきはな)さんが学校をやめたとしても、俺は毎日でも月花さんに会いに行きます」


 俺は三年生の先輩にそう言い放った。すると隣でベンチに座っていた先輩が立ち上がり、俺を見下ろしてこう言い放つ。


「いい加減にしろよ! どうして私じゃなくてあんなブサイクが選ばれるんだよ! そうか、やっぱり体だよな? それなら私のほうがスタイルがいいだろ! なんなら私が相手してやろうか? 満足させてあげるからさ」


 確かにこの女子生徒は可愛くてスタイルもかなりいい。元の世界の俺ならフラフラとついて行ったかもしれない。


 でも今の俺には魅力的な人だとは全く思えない。少しは自信がついたこともあるだろうけど、やっぱり何よりも人として好きになれないんだ。俺も立ち上がって口を開く。


「だから違いますって。それよりも他人に対してブサイクとか言ってはいけないと思いますよ」


「いちいちうるさいねぇー! ちょっとイケメンだからって、人に注意できるほどお前は偉いってのか!?」


 ついにお前呼ばわりになった。ここで俺まで熱くなってしまえば、おそらく収拾がつかなくなってしまう。だから説得するつもりで冷静に話すしかないんだ。


「俺は自分のことを偉いだなんて思ってません。ただお願いをしに来ました。月花さんのよくない噂を流すのをやめて下さい」


 さっきこの人は「仲間を使って噂を広めた」と言っていた。だからこの人がやったんだと断定していいだろう。


「それが偉そうだって言ってんだよ!」


 その直後だった。俺の右頬に痛みが走る。気がつけば俺は左を向いていた。この女子生徒から思いっきりビンタをされたんだと気がつく。


 女の子からどころか、ビンタをされたこと自体が初めてだった。思わずカッとなりそうだったけど、まさかやり返すわけにもいかない。


 確か6秒ルールだったかな? それだけ待てば自然と怒りが収まるらしい。俺はきちんと6秒数えてから、女子生徒に向き直した。


「お願いします。月花さんのことはそっとしておいてあげて下さい」


「だから黙れって!」


 再び女子生徒の左手が振り上げられた。


(顔パンパンになるなぁ……。まあ、月花さんのためならいいか)


 その瞬間、俺の視界が遮られる。


「もうやめてーっ!」


 聞き慣れた心地いい声。目の前に月花さんが両手を広げて、俺と女子生徒の間に割り込んでいた。俺には月花さんの後ろ姿が見える。さすがの女子生徒も驚いたのか、振り上げた手をとめていた。


「もう、冴島(さえじま)さん、勝手にどこか行ったらダメじゃないですか……。今日も私と一緒に帰るんですから……!」


 月花さんは両手を広げたまま振り向いて、そっと俺に語りかける。俺が今まで見た月花さんの中で一番の優しい表情だった。


「どけブサイク! お前も叩かれたいのかっ!」


「そうしたいならどうぞ! 私が気に入らないのなら私を叩けばいい! 冴島さんは関係がないでしょう!」


 女子生徒と向き合っている月花さんの表情は、俺の位置からは見えない。けど声からは決して退かないという強い意志が感じられる。


「本当にぶっ叩くぞ!」


「だからどうぞって言ってるじゃないですか!」


 俺は知っている。月花さんは決して弱い女の子ではないことを。本当はどんな理不尽にも負けない強い心を持っているんだ。


 ただ一部の人から一方的な悪意を向けられ、それが少しずつ出せなくなってしまっていただけなんだ。なぜなら『一人』だったから。


 でも今は違う。俺がいる。月花さんが可愛いからじゃない。俺はもっと月花さんの笑顔が見たいんだ。


「ありがとう月花さん。でも本当に叩かれたら大変だから、離れていてもらおうかな」


 俺はそう言うと、月花さんが広げた両手を下ろし、俺のほうへ抱き寄せて、俺が女子生徒と対峙した。

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