第24話 ギャルっぽい人に相談
最近、月花さんについてよくない噂を耳にすることがある。二週間前、俺はいつもの別れ道で月花さんとハグをした。
周りに人がいないか十分に確認したつもりだったけど、誰かに見られていたのだろうか? こういう事態にならないように、普段から気をつけていたつもりだったけど、俺の配慮が足りなかったのかもしれない。
「あ、いたいた。おーい、冴島くーん!」
昼休みに教室の入り口から俺を呼ぶ声がした。声の主は、ギャルっぽい図書委員の甘泉先輩だ。
茶色がかった髪色で、肩辺りまであるゆるふわポニーテールに、眉毛までのふわっとした前髪。ふんわりとした髪型で、目鼻立ちがハッキリとしている美人だと俺は思うけど、やっぱりこの世界では冴えない扱いを受けている。
月花さんの噂の内容は、手当たり次第に男子に声をかけて誘惑しているというもの。この人も現在進行形で同じような噂が校内に広まっている。真実かどうかは分からない。
月花さんは一年生のたわわ美少女と食堂へ行っており、ここにはいない。俺が思うに、たわわ美少女は人の見た目だけで態度を変えたりはしないだろう。あの子もまた、同じ苦労をしているだろうから。
俺が先輩のところへ駆け寄ると、相変わらず柑橘系の香りが俺を包み込む。
「どうしました? こんなところまで来るなんて」
「ちょっと話があってねー。場所かえよっか」
そして俺と甘泉先輩は、屋外で人通りが少ない場所にある、校内のベンチに座った。俺の右側から優しい風に乗って、柑橘系の香りがふわっと届く。美人の先輩と二人きりなんて初めてで、もちろん心臓バクバクだ。
「いやぁー、ちょっと心配になってねー。前に図書室に来た時、女の子と一緒だったよね?」
「月花さんのことですか?」
「そうそう、やっぱりあの子のことなんだね。最近さ、あの子によくない噂が広まってること知ってる?」
「簡単に言うと、月花さんが手当たり次第に男子と遊びまくってるという……」
俺は少し言い淀んだ。なぜなら甘泉先輩にも同じような噂が流れていて、言葉にすることで先輩が多少なりとも傷ついてしまうと思ったから。
「そうそう、それねー。私と同じこと言われてるから心配になったんだよ」
「実は甘泉先輩の噂と同じだなとは思ってました。その……、先輩は気にしていないんですか?」
先輩からそのことに触れてきたので、俺も正直に伝えた。
「あぁー、あれね。あんなのは言わせとけばいいんだよ。『アンタらに私の何が分かんの?』ってさ。だってバカらしくない? 他人の悪意に振り回されて、私が私でなくなるなんて。そんな奴らのことを考える時間なんてムダだよ」
元々の性格もあるだろうけど、それはきっと甘泉先輩なりの対処法なのだろう。
「ほら私ってこんな見た目じゃん? まあ可愛くないってことだね。でさ、やっぱりいるんだよ、大した理由も無くそれだけで異様に嫌ってくる人ってのが」
元の世界でもチラホラとは聞くようになっていたっけ。
「面と向かって話してみた結果、合わない・嫌いだと判断されるのは全然いいんだけどさ。見た目だけに限らずそれすらせずにってのは、私には理解できない」
俺だって見た目で苦労してきたから分かる。俺の場合は、笑いをとったりするクラスの人気者になろうとしたんだ。見た目も含めて愛されキャラというか、悪意を向けられない存在になろうとした。
結果だけいうと失敗だったけど、それでも高校に入ってからは、そういう目で見られることは減ったんだ。
きっとその人なりの対処法があって、毎日を頑張ってるんだろう。でも月花さんは向けられる悪意を受け入れてしまっている。
『ただひたすら耐える』。それが月花さんの対処法なのかもしれないけど、本当はよく笑う女の子なのに、そんな人達のせいでそれが失われるなんて、見過ごせない。
「ま、あの子に限ってあんな噂はウソだと思うけどねー」
俺はその言葉を聞いて、「甘泉先輩はどうなんですか?」と聞きたくなったけど、やめておく。
「あれぇー? もしかして冴島くん、私の噂が本当か聞きたいのかなー?」
甘泉先輩が俺の顔を覗き込んできた。絶対俺の反応を見て楽しもうとしてる。
「い、いえ……。そんなことは」
「冴島くん意外とかわいいねぇー! ウケる」
「ウケませんから」
「大丈夫だってー。あんなのウソだからさ。だって私はまだなんだから」
何がまだなのかは聞いちゃいけないんだと判断した。
「甘泉先輩。月花さんの噂、なんとかならないでしょうか?」
「うーん、流した本人に聞いてみる?」