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第21話 甘い勝負

 俺は今、二人がけのローソファーに月花(つきはな)さんと足を伸ばして座っている。正面にはドアが見え、後ろにはベッドがあり、右には柑橘系の香りをまとっている月花さんがいる。


冴島(さえじま)さん、私、今すごくドキドキしてる……」


 不意に月花さんがそんな言葉を漏らす。俺はその言葉にさらにドキドキしてしまう。月花さんは部屋に男を入れるのが初めてだと言ってたけど、俺なんて全部が初めてだ。


 女の子の家の場所を知ったのも、入ったのも、ましてや女の子の部屋に入るなんて。それにこんな近距離に女の子が来ることなんて、今まで一度も無かった。


「俺だってドキドキしてるよ」


「わっ……私のほうがドキドキしてます」


「いや、俺のほうがもっとだよ」


 勝ち負けなんてないのに、なぜか張り合う俺と月花さん。


「そっ……そんなに言うなら、確かめてみますか?」


「いいけどどうやって?」


「こうですっ……!」


 すると月花さんは、俺のほうへ体を寄せ、俺の胸に左耳をピタッとくっつけてきた。制服のシャツ越しとはいえ、柔らかな感触が伝わってくる。


 無意識だろうけど、左手で俺の肩を掴んで、俺の太ももに月花さんの右手が置かれている。肩と肩も触れ合い、慣れていない俺は反射的に離れたくなってしまう。


「……よく聞こえません」


「じゃあ勝負は引き分けってことで」


 冷静に返した俺だけど、もちろん内心は心臓バクバクだ。でも元の位置に座り直した月花さんは、勝敗を諦めてない様子。


「いえっ……! まだ私のを聞いてもらっていません」


(嫌な予感しかしない……)


「一応聞くけど、どうやって?」


「どっ、どうぞ……」


 月花さんはそう言うと、「さあおいで!」と言わんばかりに胸を張った。


(やっぱり!)

 

 いくら俺でもさすがにそれは……。「できるかぁーっ!」と叫びたい。


 制服姿の月花さん。白と薄い青を基調とした、ひざが見え隠れする長さのチェック柄スカート。白いスクールシャツに胸元にはスカートと同じ柄のリボン。


 足を伸ばしていることにより両ひざが見えていて、ソックス無しの生足だ。そして一年生のたわわ美少女の印象が強いけど、月花さんもけっこうなたわわの持ち主。


 多分だけどもし耳を当てたとしても、たわわに阻まれて聞こえないんじゃないかな。


「いやいや! 無理だからね!?」


「えっ……と、えっと、それなら……」


 月花さんはそう言うと、手で自分の太ももをポンポンと叩いた。


「えーっと、それはどういう……?」


「ん」


 相変わらず月花さんは自分の太ももをポンポンと叩く。


「もしかして、ひざ枕……?」


「ここなら耳がピッタリつきますからっ……!」


 なるほど、それは名案だ! でもね月花さん、太ももに心臓は無いと思うんだ。


 ひざ枕。もちろん初めての経験だ。それくらいなら、いいか?

 俺はソファーから足をはみ出して、頭を月花さんの太ももに乗せた。さすがに顔の向きは月花さんと反対方向にした。それにより月花さんのひざが超至近距離に。


 俺の右ほっぺたや右耳に、スカート越しでも分かる柔らかい感触がある。女の子ってこんなにも柔らかいんだな。


「どう、ですか……?」


 ひざ枕の感想って何言えばいいんだ!? とても下手なことは言えない。


「柔らかくて心地いい」


「はぅっ……!」


 月花さんがフリーズしてしまった。すると数秒してから俺の頭を何かがなでる。月花さんの手だ。


「ご褒美……です」


 それからしばらくは月花さんのひざ枕で横になりながら、頭をなでられるという、夢のような時間が過ぎていく。


 ここに来た目的はテスト勉強のためなんだけど、今この時だけはそんなことはどうでもよくなっていた。

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