第11話 言い放つ
合コンで月花さんが、他の女の子を良く見せるための引き立て役にさせられた。自分達よりも見た目が劣ってると思っている、月花さんを近くに居させることで、相対的に自分達を可愛く見せようとしている。
月花さんはずっと下を向いていて表情を見ることはできないけど、平気なわけが無い。
女の子たちは口々に月花さんをバカにする発言を繰り返す。そしてあろうことか俺に同意を求めてきた。
「ね、冴島君もそう思うよね?」
「そういうの、好きじゃないな」
もちろん同意なんてするわけない俺はそう答えた。
「だよねぇー! 月花さんを好きになる人なんていんのかねぇー!」
「違うよ。俺が言ってるのは君たち女の子のことだよ」
場が凍りつく。だけどそんなことは予想している。俺がこうしなくても、元から空気が悪くなっていたんだ。すでに合コンどころじゃない。それに他の男子はみんな俺に何も言わないから、誰かがこうしてほしかったと思っているはず。
「は? 冴島君、何言ってんの?」
「だからね、人を見た目だけで判断して勝手に見下して、しかも大勢の前でバカにするなんて、そんなことする人は嫌いだと言ってるんだよ」
俺から見ると、この女の子四人もわりと可愛いけど、性格がこれでは人としても好きになることなんてできない。いくら俺でも、可愛いからって無条件で好きになるわけじゃない。
「それに男子が来ることを月花さんに言ってなかったんだよね。それも酷いんじゃないかな」
俺の正面に座っていた女の子が四人全員立ち上がった。
「冴島テメェ、イケメンだからって何言っても許されるなんて思うんじゃねぇよ」
「冴島くーん、月花さんと関わるのはもうやめて、私らと遊ぼーよ」
「冴島くん、せっかくイケメンなのにブサイクと絡むなんて、損してるよ」
「冴島くんもほんとは月花さんがブサイクだって思ってんでしょ?」
明らかに一人ヤバそうな子がいるけど、ここで気圧されては駄目だ。それに俺は自分がイケメン扱いされてるとは思ってるけど、イケメンだとは思ってない。
「そんなこと思ってるわけないだろ。それに俺はこれから月花さんとデートなんだ」
「はぁ!? 待てよ冴島! ハヤトもこいつに何か言ってくんない?」
すると俺の左に座っている男子が口を開いた。どうやらハヤトというのはこの男子のことのようだ。
「いや、無理だわ。さすがにこれは俺らでも引く。その子……月花さんだっけ? 何も悪いことしてないじゃん」
他の二人の男子もそれに同意した。
「ちょっ……!? ハヤトまでこのブサイクの味方するの?」
「ほら、それだ。それは人に向けて言ったら駄目な言葉だろ」
「チッ! これだからイケメンは調子に乗りやがる」
ヤバそうな女の子が舌打ちをした。ハヤトを含めた男子全員は俺と似たようなルックスだから、この世界ではイケメン扱いされており、不思議と本当のイケメンより好感が持てる。他の三人の女の子も何やら騒いでいるけど、俺は冷静に次の言葉を放つ。
「とりあえず君たちは月花さんに謝る必要があると思うよ」
「はぁ!? ふざけんな」
ヤバそうな女の子はマジギレ数秒前といった感じだ。
「あっ……あの! もうやめてください!」
立ち上がった月花さんの声が部屋中に響く。
「もういいですから、みんな仲良くして……」
本当に月花さんの勇気には頭が下がる思いだ。
「月花さんがそう言うならそれを尊重するよ。さあ、俺とデートに行こうか」
俺が月花さんの手を取り部屋を出て行こうとすると、ハヤトがヤバそうな女の子に声をかけた。
「俺らもうお前らとは会いたくねーから、二度と連絡してくるなよ。連絡先消すし」
「えっ……? 待って、それはないんじゃない? せっかくのイケメンとの繋がりなのに」
ヤバそうな女の子は、なおもイケメンがどうのと口にしている。
そんなやり取りを聞きながら、俺は二人分の料金をテーブルに置いてカラオケ店を出た。
「あっ、あの。手、繋いだままです」
月花さんを連れ出すために握った手から、温もりが伝わってくる。
「このままでいいと思うよ。これからデートするんだから」
「……うん!」
月花さんが初めて敬語以外で話してくれた。