一話
「今日から一人暮らしだぁ〜!よっしゃぁ!」
小さくガッツポーズを決めた俺はそう言ってベッドにダイブした。
俺は天ヶ瀬 零央。姫園高校に通う二年生だ。身長は百七十七センチと平均よりかなり高め。高身長だから女子にモテるだろうって? 身長だけ高くても、顔が平凡なら女子は微塵も寄ってこない。
それに加えて、頭のてっぺんに生えてるクセ毛も気になるしなぁ……。こういうのアホ毛っていうんだっけ?いくら直してもクセ毛は立ったまま。
一昔前のアニメキャラクターみたいだ。とコンプレックスであるアホ毛を触りながら、俺は今日から自由の身になったことを喜んでいた。
母親は俺が五歳の時、病気で亡くなったらしい。あまりに小さい頃だったから母親のことはよく覚えていない。それからは父親と二人暮らし。父親がそれなりにいい会社に勤めているせいか、金に困ったことはなく、今も普通の高校に通っている。
そんな親父は先月、外国に転勤が決まった。最初は俺も親父について行くつもりだったのだが、「あと一年で高校を卒業するなら、そっちで思い出を作れ」と言われ、俺だけ日本に残ることになった。
こうして俺は、元々親父と住んでいた一軒家に一人暮らしすることになった。家賃と学費は親父が払っているから問題はなく、小遣いも月にいくらかは振り込んでくれるらしい。
自分の都合で俺を一人にするのが心配らしいが、親父の過保護っぷりには困ったものだ。母親がいない分、親父から愛情を注がれ、小さい頃から可愛がられたせいか、俺が親父を嫌うことはなく、反抗期すらもなかった。親父とは良好な親子関係を築いている。
しかし、親父と二人暮らしだと色々気を遣う部分もあった。幸い、一軒家だから自分の部屋はあったのだが。俺がちょっとえっちな本を読もうとするタイミングでノックも無しに親父がいきなり入ってきたこともあった。
なんなら年頃の男が一人で行うアレのときもタイミング悪く入って来られたこともある。その時は股が痒くて……なんて、下手な言い訳をして誤魔化した。せめて部屋に入るときはノックくらいしてほしいものだ。
親父は俺が高校生にも関わらず一緒に風呂に入ろうとしたり、俺が帰宅すると、おかえりと同時に俺に抱きついてくる。親にとっては俺が高校生だろうがなんだろうが、子供は子供だもんな……。
今どき珍しいくらい親父は親バカだ。とはいっても、俺はこの関係が嫌いじゃない。親父は一人で俺をここまで育ててくれたんだ。むしろ親父には感謝している。
ピコン。スマホに一件のメッセージが来た。
ウワサをすればなんとやら……親父からだ。
『こっちは無事に着いた。そっちは大丈夫そうか?飯は食ったか?風呂は?それから……』
「親父は相変わらずだな」
昨日出発した親父が無事に外国に着いたのは俺としても安心だ。だが、親父は俺を一体何歳だと思ってるんだ?
飯なんて適当に食えるから心配しなくてもいいのに。ちなみに親父の家事スキルが完璧で、俺はそこそこしか出来ない。
親父が仕事で夜遅い時は料理以外ならそれなりにしていたのだが……。飯はコンビニに行けばなんとかなるだろ。
『それから零央は昔から料理が苦手だったからなぁ〜。オレが教えても料理だけは上達しなかった』
「うっせー……」
俺だって親父みたいに料理が上手かったら……いつか親父に手料理を振舞ってみたいと思った可愛い時期もあったさ。だが、いくら練習しても俺の料理スキルだけは上がらなかった。
『そこでだ。俺が日本に戻るまで、メイドを雇うことにした』
「……は?」
『合鍵は渡してあるから、時間だとそろそろ着くはずなんだが……。ほら、オマエもメイドさんが出てくる雑誌とか読んでただろう? あとのことはメイドさんから聞いてくれ!じゃ!』
「お、親父の奴……!」
……親父。あれ、雑誌じゃねぇよ。って、そんなことはどうでもいい。親父のいきなりの話についていけず、俺の頭は混乱していた。
メイドを雇う? 俺の家に?
合鍵を渡してあるって……? え?
「だから俺は年頃の男子高校生なんだって!」
誰もいない部屋でツッコミを入れる俺。不審者すぎる……。メイドってことは女だろ?
……俺はふと妄想の世界へと潜ってしまった。
『おかえりなさいませ、ご主人様』
『食事にします? お風呂にします? それとも……』
「って、これじゃあメイドというより嫁じゃん」
我に返った俺は独り言をブツブツ言いながら、一階におりていく。
「あっ……」
「は?」
「い、いやっ……」
「なっ……!!」
俺は幻を見ているのだろうか。俺の目の前にいたのは下着姿の女の子。見た目は俺と同い年くらいだ。
サラサラの黒髪はお尻に到達しそうなくらい長い。可愛いよりも綺麗系でモデル並みに美少女だ。が、俺はそんな顔よりも彼女の胸から目が離せなかった。
……デカい。そこにはメロンが二つあった。両手で隠しているつもりだろうが、隠れていないくらい大きく、谷間も当然ながら存在していた。本で見るより、実際に見たほうが破壊力は抜群だった。
ちなみに俺は言うまでもなく童貞だ。女と交際経験もないため、女子の下着を見るのは初めてだ。
「……えっち」
「っ……!」
そういって後ろを向く彼女。そのセリフの破壊力は鼻血を吹くレベルでヤバかった。
実際に鼻血を吹いたりはしないが。って、胸を見せないようにしてるのかもしれないが、下着だから背中が丸見えなんですけど……。
「服着ないと、か、風邪引きますよ」
俺は殴られないかとヒヤヒヤしながら、バスタオルを彼女に手渡した。もちろん、顔を逸らしながら。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「初めまして。私は柊焔といいます。今日から貴方の専属メイドです。よろしくお願いします」
「俺は天ヶ瀬零央。よ、よろしく……」
バスタオルを巻いたまま、自己紹介をする柊。俺に下着を見られて恥ずかしいのか、それとも俺を変態だと思っているのか、柊はジト目で俺に痛いくらいの視線を送ってくる。
俺にMの気質はないのだが、美少女に冷たい目で見られるのは悪い気はしない。
これが俺と今日から俺の専属メイドになる美少女、柊焔との出会いである。
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